合宿③―無手・治癒使い・狩人の授業―
短めです。今度からこのくらいの長さになる予定です。
合宿3日目は『無手』の授業である。
素手での物理攻撃が主体の肉弾戦スタイルの職業であるがゆえ、ゼノと光太はフィリィによってズタボロになった。
無手と言う職業は、『間合い』を1番大事にしている。
近距離でモンスターと向き合わなければならない危険と隣り合わせの職業で、度胸と躊躇の無い攻めの姿勢が要求される。
寸止めとはいえ、スピードで翻弄したところに拳の風圧でビビらされるのは男としては不甲斐なさを感じていた。
正直な話、基本職の中で『無手』と『魔法使い』、『治癒使い』の3つは最初に選ぶには難しい職業である。
だからこそ、みっちりと基礎を叩き込もうとキッドとシリウスのレクチャーの熱の要りようは凄かった。
合宿4日目の治癒使いの授業では、『初級回復魔法』よりも『初級棒術』に重きを置いての授業は、打撲や痣などができるほどの過酷な訓練をしては、初級回復魔法で癒すを繰り返すと言うかなりヘビィな内容だった。
合宿5日目は『狩人』の授業。
午前中は弓矢の特訓。ひたすら的当てで命中率を上げることを繰り返す。
午後に入ると実際に獲物狩りに行くことになった。
中心になったのはゼノであった。
エルフ族は、全員が狩人として生計を立ててるので弓の使いは群を抜いていたのだ。
「野兎狩りは狩りの基本だ。前にジャンプすることを意識して少し前に矢を射るんだ」
そう言ってこともなげに矢を射るゼノ。
見事に野兎にヒットする。
「狩りは狙おうと集中しすぎるとかえって野生の動物に感づかれる。常に平常心で矢を射る方が上手くいく」
「…こう?」
光太の射った矢が野兎を捕らえる。
軽い気持ちで射った矢が当たって驚く光太。
ゼノは「それで良い」と、さも当たり前的に言うだけだった。
「…くっ。当たらないのじゃ」
「フィリィは殺気が強すぎるんだ。それじゃあ、獲物に悟られる。狩人は、隠密行動が基本だぞ」
「なるほどのう…。しかし、殺気を出さないようにするのは難しいのじゃ」
何度か矢を射り、ようやく当たった時は10本以上も矢を使っていた。
その間に、ゼノと光太は着実に獲物を仕留めていた。
「それにしても、光太は狩りは本当に初めてなのか?」
「初めてだけど?」
「それにしては、獲物の血抜きとか玄人並みに上手いからさ…」
「あー…昔、うちでも食用の鶏飼ってたから…」
「それならできるか…」
嘘です。
解体スキルのおかげです。
結局、13匹の獲物を持って家路に着いたのだ。
「大猟だな。野兎に鹿にイノシシまで…やるじゃねーか」
「ゼノのおかげですよ。俺は野兎で手一杯でした」
「妾なんぞ、やっとの思いで1匹仕留められたほどじゃ」
「まあ、エルフは狩りができて当たり前ですから自慢にもなりませんよ」
「確かに、森の民が狩りができないようでは里からは出してもらえないからなぁ…」
エルフは20歳を過ぎると狩りを教わる。
初めのうちは何人かで行動して狩りをしていくのだが、1人で5匹以上の獲物が狩れるようになると一人前として認めてもらえるのだ。
「血抜きも完璧だな。よし、皮を剝いで肉を熟成させるか…」
皮剥ぎも3人で行う。
フィリィは不器用ながらも何とか皮を剥いでいた。
ゼノは慣れた手つきで皮を剥いでいく。
しかし、光太の皮剥ぎは2人とは一味違った。
スピードが速く、キレイにはぎ取っていくのだ。
プロフェッショナルと言えるほどに。
「なんで、そんなに上手いんだ?」
「え?…慣れ?」
「なんで疑問形なんだよ…」
「……」
なんでって言われても…解体スキルのおかげとは言えないしなぁ…。
「なるほどな…」
「確かに誰彼構わず話すようなことじゃないですからねぇ…」
考え込む俺を見て、キッドとシリウスが感づいたみたいだ。
まあ、ベテラン冒険者の2人なら気づくか…。
「だが、パーティを組む以上は知っておいた方がよくないか?」
「まあ、秘密を共有するのもパーティならでわですが、そこまでの信頼関係はまだ築けてないかと…」
「それもそうか。まあ、時間はまだあるからな。合宿終了時にでも話せるようになっていればいいか」
「そうですね」
俺としては固有スキルのことを仲間に話すのは嫌ではない。
だけどなぁ…。
『SSS』の固有スキルの3つ持ちってどうよ?
色んな意味で引かれそうじゃないか?
それとなく、今夜にでもキッドたちに相談してみるか…。
「今日の授業はここまでだな。さて、これで基本職を一通り教えたわけだがどうだ?」
「僕は明確に極めたい職があるので、他は基本を押さえればそれでいいです」
「妾もとりあえず初めに極める職業は決めておるからのう…。だが、より深く理解できたことは感謝しておるのじゃ」
「俺は結構迷ってます。どれもそれぞれに面白味のある職業ばかりなんで…。2人は決めてあるんですよね?教えてもらえれば、それを踏まえて職を決めようかと…」
光太の言葉を聞き、キッドとシリウスは改めて光太がリーダー向きであることを認識するのだった。