合宿②―魔法使いの使命―
―――合宿2日目。
職業を『魔法使い』に変えて、まずは魔法の基礎について教わる。
通常初級の魔法の属性は4つである。
『初級火炎魔法』
火系の魔法で、火球、火柱がある。
火系は強力だが種類が少ないのが特徴的である。
『初級水泡魔法』
水系の魔法で、水圧球、水柱、水飛沫、水流がある。
水系は平均的な威力がある上、使い勝手の良い魔法が多い。ただし、モンスターに効く魔法が少ない。
『初級風撃魔法』
風系の魔法で、風撃、風刃、風圧がある。
風系は攻撃系では多種にわたり使えるモノが多く、威力もそこそこ高いのが特徴的だ。
『初級地形魔法』
土系の魔法で、土礫、土柱、震動がある。
土系は、使いどころが難しい魔法が多い。攻撃よりも防御…と言うか牽制に使える。
魔法は威力や範囲によって使う魔法力が変わり、また使った回数とレベルUPによってより強い魔法を覚えることができるのだ。
ただし、『初級』、『中級』、『上級』、『最上級』、『超級』と等級によって覚えられる数が決まっている。
つまり、決められた数の魔法を習得すると、それ以上の魔法を覚えるためには等級を上げるしかなく、そのためには職業自体を変えなくてはいけないのだ。
また職業によっては特有の魔法も存在することが分かっており、魔法使い系の職業は『上級魔法』を覚えられる職業にまでになると、重宝されるほどの存在価値を持つと言われている。
「この世界の魔法は、ゲームと同じで使う魔法力が決まっている。つまり、人によって魔法の威力が変わると言うことはない。『魔法』を『起動』する『呪文』を口にすることで『発動』が可能になる。単純で簡単な使い方ゆえに『発想』によっては思いもつかない『応用力』を『発揮』できる…それが、『魔法』なんだ」
魔法のレクチャーはシリウスが適任らしく、細かいところまで教えてくれる。
結局のところ、魔法力量の多さが魔法を使う回数を増やし、それだけ魔法使いとして有能であるとされるのだ。
「ステータスのMATとMDFはどういう扱いになるんですか?」
「良い質問ですね」
「MATは魔法攻撃力と言う意味で、MDFは魔法防御力を意味するわけだから普通に考えれば数値は高ければ魔法の威力に関わると思えるんですが?」
「MATとMDFにはそれぞれ2つの意味があるんです。まず、MATは攻撃魔法に対する+(プラス)補正値の面があります。これは、通常のダメージに+%の上乗せが加わると言うものです。これは威力が上がると言うよりもダメージがあった時に『追加される』と考えたほうが良いでしょう。また、新しい魔法を覚えるのに影響があるという説もあります。MDFも魔法攻撃を受けた場合通常のダメージよりも-(マイナス)補正値として抑える効果があるのです。また魔法に対する『耐性』の効果が上がるという説もあります」
「魔法自体の威力が上がるんじゃなく、あくまで当たった時のダメージに追加されるってことなのか……」
「そういうことです」
「魔法使いの上級職はどうやって習得できるのですか?」
「魔法使いの場合は、初級魔法をすべて覚えると『魔道士』という中級職を得られます。それ以上となると通常通りでは取得できない職業となっています」
「じゃあ、他の職業スキルをコンプしていく必要があるってことですか?」
「そうなりますが…まずはしっかりと自分の得意分野の職業から上げていくことが良いでしょう」
初級職が『基本職』と呼ばれているのは、『戦士』、『無手』、『狩人』、『魔法使い』、『治癒使い』が全ての職業の基本であり、この5つを極めることが上級職を得られる条件でもあるからだ。
中級職が基本職の『応用職』とするならば、上級職は基本職の『合成職』と言う位置づけである。
名の売れた冒険者は『上級職』の者が多く、今現在に公開されている上級職は『剣闘士』、『魔術師』、『法術士』、『騎士』、『魔戦士』、『波闘士』がある。
組み合わせも公開されているので、冒険者は最短で上級職狙いで動く者も多い。
実は、上級職を上回る『最上職』や『伝説職』と言うのもあるらしいのだが、どうやって取得できるかは今のところ不明である。
そこで、政府は冒険者に『クエスト』として新たな職業の取得法に『報奨金』を与えるようにしているのだ。
なぜ、そのようなことを政府が決めたのか?
それには、『大型ダンジョン』の存在が影響している。
ダンジョン攻略により外交が復活出来始めたとはいえ、全ての国交ができるようになったわけではない。
小型ダンジョンでは、個人が行き来できるが限度で輸出や輸入などをするのには手間が…人件費がかかり過ぎたのだ。
しかも、一度にできる輸出量も少ないため問題の解消には至らなかった。
この5年で電力会社が急速に発展したのは、石油の輸入ができなくなったのが大きい。車も電気自動車のみになったほどだ。
日本はあらゆる国からの輸入によって支えられてきていたので、それに甘えてきた世代には死活問題でもあった。
そこで、中型ダンジョンジョンを攻略したことで個体の入出ができることがきっかけとなり、なら大型ダンジョンならば…と言う期待が高まったのだった。
しかし、事態はそう上手く進まなかった。
大畑ダンジョンを攻略するには、『最上級職』以上の職業についた者でないとは入れない仕様になっていたのだ。
しかし、その『最上級職』の取得方法が分からない。
そこで多くの一般冒険者にも『報奨金』と言う形で取得法を求めたのである。
「話が逸れましたが…どんな職業であれ、特性と弱点を学ぶことが大事であると言うことを忘れないでください」
「「はい」」
その後は、呪文1つ1つの特性を学び、午前の授業は終わりを告げた。
「では、午後は実際に魔法を使って的当てをしてもらいます。これにて、午前の授業を終わります。昼食の用意をしてください」
食事の用意は、分担しているが3人でしている。
と言っても中心は光太で、フィリィとゼノはサポートっていう立ち位置だ。
「それにしても…魚を捌くの上手ですのね」
「そう?…確かに、前より上手くなっているような…」
前から料理はしていたので、同い年の中では上手な部類だろう。
しかし、急に腕が上がった感じがするのも確かだった。
「あ…」
思い当たる事があった。
解体スキルLV.1』の固有スキル。
モンスターにのみ有効だと思っていたが、食べもの全般にも有効だったようだ。
さすがは『SSS』の固有スキル。超万能だよ。
「でも…これってどういうことなんだろう?」
スキルである以上『使用』しなければ使えないはず…。
なのに、普通にスキルが発動するものなのだろうか?
「固有スキルの発動条件?」
「はい。スキルが常時発動することなんてあるのでしょうか?」
「スキルにもよりますが、ランク『A』以上の固有スキルの場合、通常の肉体にも固有スキルの影響があると言う話があります。ただし、『SSS』に指定される固有スキルになるとその影響が100%出ると言うことが、ギルドの会報で明らかになったばかりなんですよ」
「そう…ですか」
つまり、俺の持つ『SSS』の固有スキルの影響が出たってことか…。
もしかして残りの2つの影響もあるのかもしれない。
まあ、それはおいおい分かることだし今は合宿に集中しよう。
昼食を終えて昼休憩のあと、魔法の実技を行う。
まずは、シリウスが実演する。
「的に向けて掌をかざします。そして呪文を唱えれば…『風撃』!」
突風が生まれ、的を破壊する。
時間にして0.3秒ほどでの着弾だった。
「このように当たります」
「あの…それだけですか?」
「そうです」
単純で簡単な説明だった。
しかし、意図したことがよく分からなかった。
「ここで言いたいのは、呪文は『掌を中心に発動する』と言うことなのです」
「掌を中心に…」
「良くも悪くもですが…呪文は唱えるだけでは発動しません。また、どんな魔法も『掌』が起動キーの一つだと言うことです」
「それってどういう…?」
どうやら、魔法を的に当てることが目的ではなく、魔法の発動に関する認識を教えることが目的のようだ。
「魔法は大きく分けて3つの種類があります。『撃ちだす魔法』と『決まった距離に生まれる魔法』に『物に干渉させる魔法』の3つです。『撃ちだす魔法』は言葉通り掌から撃ちだす魔法を意味し、『決まった距離に生まれる魔法』は掌から決められた場所に魔法を生み出すことを意味し、『物に干渉する魔法』は物体に対して掌を向けることで発動する魔法を意味するんです。先ほど説明した『震動』の魔法がまさにその手の魔法なんですよ。『震動』は地面に向けて掌をかざすことで初めて発動するんです。つまり、ただ掌をかざして呪文を唱えても発動しないんです」
「すべての魔法は掌を開いた状態で使うのが前提なんですね」
「そういうことになります。それを踏まえて、的当てをさせるのには理由があります。魔法によって、当たる距離が異なります。どこまでも真っ直ぐ飛ぶ魔法もあれば、一定の距離までしか飛ばない魔法や一定の距離を開けないと的に当たらない魔法などがあり、それを自分で明確にすることがこの的当ての真の目的なのです」
魔法1つ1つには当たる距離やダメージ範囲がある。
それを理解することが的当ての真の目的なのだ。
「…『風撃』!」
「…『風撃』!」
「…『風撃』!」
光太たちは的に向かって魔法を放つ。
距離にして5メートル。
突風は見事に的を破壊した。
「よし。距離をさらに取ってもう一度魔法を撃ってみてください」
「…『風撃』!」
「…『風撃』!」
「…『風撃』!」
倍の距離から魔法を放つ。
的は壊れたが、見事とまではいかず何とか壊れた…と言う程度だった。
「こ、これは……」
「つまり、『風撃』の有効距離は10メートル以内ってことですね」
「分かりましたか?たかが的当てですが、魔法を理解するのにこれほど適した方法はありません」
この的当てで得られる情報は魔法使いにとっては重要である。
単に理解すると言うだけでなく、情報を整理して状況に応じて判断する考察力も養えるのだ。
「皆さん。どうして、魔法使いが知力を必要としているか分かりますか?」
「新しい魔法を覚えるために必要なんじゃあ…?」
「確かに、魔法使いと言えば知力と精神力っていうのがゲームじゃ定番だけど…」
「それなら、どうしてステータスに『知力』が無いんでしょうね?」
「そう言えば…?」
「俺はこう思うんです。なぜ魔法使いには知力が必要なのか…。それは魔法に対する理解力や戦いにおける判断力など、様々な状況に応じて瞬時に答えを導き出す冷静沈着な対応が求められるためだと…」
「魔法使いにはそれほどの智識が必要だと?」
「…想像以上に、ですよ」
「え?そんなにですか?」
魔法使いに知力が必要なことは光太たちにも理解できた。
しかし、それが想像以上だと言う…。
シリウスの言葉の真意とは?
「魔法1つ1つに対する理解力、戦いにおける状況判断、モンスターに効果のある属性魔法の見極め、魔法力と魔法にかかる消費量の対比…それらを瞬時に判断して行動に移さなくてはいけないんだよ」
「魔法使いって奥が深いんですね…」
「どんな職業でも、それぞれに奥深さはあるよ。しかし、魔法を扱う者は他の職業の冒険者と違い、常に冷静でいなくてはいけない。たとえ周りから冷たいと思われるような判断も下さなくてはいけない程にね」
常に冷静な判断を下せるようにしておくことが魔法使いの使命。
いや、魔法を扱う者の全ての人に言えることであった。
「さあ、魔法力が残っている分で他の魔法の的当てもして行きましょう」
結局、ゼノ以外の2人は数発の魔法を使っただけで魔法力が尽きてしまい、その日の授業は終わりを告げた。
合宿2日目の話しですが、1話ごとに1日の話は今回までとなります。
次回からは合宿の話がスピーディに進むぞ。