凶悪
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「う…動けぇっ!」
「気合を入れるのじゃ…」
ゆっくりとだが身体が動き始める。
それでどうにかなるわけじゃないが、希望を捨てるわけにはいかない。
鉛のように重い足を引きづるようにして、一歩一歩歩を進める。
焼け石に水だと分かっていても歩みを止めない。
しかし、ジャイアントオーガはすぐそこに迫り、手に持った巨大な棍棒を振り上げた。
「…光太。子供たちを頼むのじゃ…」
「フィリィ?」
「―――獣化!」
フィリィの身体が輝きを放つ。金色に輝く髪は脹脛にまで伸び、顔・腕など服の無い素肌の部分には紋様のような物が刻まれている。
「行け!光太」
そう言い残し、フィリィの身体は光太の視界から消える。
次の瞬間、襲ってくるはずのジャイアントオーガの足元で動き回るフィリィが見えた。
光太は、すぐに子供を3人抱えてその場を離れ、ゼノの下に向かう。
この時、光太は気づいてないが、すでに『威嚇』の状態異常は解消されており、全力でその場を離れることができたのだ。実はフィリィの獣化で『威嚇』の効果を打ち消していたのだが、そんなこととは知る由もない。
「…ゼノ。天雷魔法を使ってくれ。ここは全力で逃げるしかない」
「…分かった。光太は子供たちを頼む」
「すぐに戻る…」
本来なら、光太たちだけでも逃げるべきなのだろう…。
しかし、光太はなんとなく気づいていた。
このまま逃げ切ることは叶わない…と。
倒せなくともいい。逃げるだけの時間を稼ぐことができれば…。
◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇
光太は第1エリアに逃げ込み、子供たちを下すと第2エリアから石を運び入れ子供たちを囲むように石を積み上げていく。空気穴を確保して完全に塞ぐ。
これでしばらくは時間を稼げるはずだ。
「さあ、急いで戻らなきゃ…」
一応の子供たちの安全を確保し、光太はゼノとフィリィの下に戻っていった。
◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇
ゼノは光太が離れるの確認し、ジャイアントオーガに向き直る。
「まずは…『火柱』!」
足止めの火柱でわずかばかりの時間を稼ぐ。
その間、5秒ほどジャイアントオーガの動きが止まる。
それを見逃すゼノとフィリィではなかった。
「―――『雷光弾』!」
光の弾が放たれる。まさに雷のような速さの一撃。
しかし放った瞬間、ゼノは身体全身に疲労感が襲う。
ゼノの『雷光弾』は、ジャイアントオーガに直撃した。
「―――完全獣化!」
そこに現れたのは金色の獣だった。
フィリィは完全なる獅子の姿となり、スピードを生かしジャイアントオーガの足元を駆け回る。
そして隙を見つけては足元を狙って牙で斬りつける。
「…雷光弾』が撃てるのは後1回か…」
「…アレは、フィリィなのか?」
「光太、戻ったか」
「子供たちは大丈夫だよ。後は俺たちが逃げ切るだけだ」
「フィリィ、ここは引くぞ」
ゼノの『雷光弾』とフィリィの足への攻撃でジャイアントオーガの態勢は崩れていた。
この機を逃すまいと、光太たちは後退する。
必死に逃げる光太たち。ようやく第1エリアが見えてくる。
「あと少し…」
いくらジャイアントオーガが強くても、第1エリアへは入れない。
入れたとしても、第1エリアではジャイアントオーガは存在を保てないのだから…。
「ウオオオオォォッ!!」
「――しまっ…」
ジャイアントオーガの雄叫びが響き渡り、光太たちはまたしても動けなくなってしまう。
あと100メートルと言うところまで迫っていただけにショックは大きかった。
「グオオオオォォッ!!」
「―――ガッ!!」
「―――グオッ!」
「―――ギャン!」
ジャイアントオーガの一撃が地面を抉る。
その余波で光太たちは吹き飛んだ。
たったの一撃。しかも直撃ではない掠っただけのダメージで光太たちはかなりのダメージを負っていた。
「――く、くっ。ゼノ…フィリィ…」
2人の反応は無い。だが、スカウトスキルではちゃんと紫の点滅反応があった。
生きている。でも反応は微弱だ。何とかしないと…。
「くおっ!」
何とか勢いに任せて立ち上がる。
だが、膝が震えてうまくバランスが保てない。ギリギリのところでやっと立っている感じだ。
「…来い」
右手に槍、左手に短剣を持って構える。
それは光太の本能だった。
逃げるより立ち向かうべき…だと。
「うああああっ!」
叫びながらジャイアントオーガに突っ込む。
普通ならこの行為は最悪の一手であろう。
しかし、光太は迷うことなく突っ込んでいく。
ジャイアントオーガは棍棒を頭上高く振り上げる。
ジャイアントオーガが棍棒を振り下ろした瞬間、光太は槍を地面に突き刺し強引に身体の方向を変える。
ジャイアントオーガの一撃は地面を抉るにとどまる。
光太は動きを止めることなくジャイアントオーガに近づき左の短剣でアキレス腱を斬りつける。
そこはフィリィが何度も牙で斬りつけた場所でもあった。
斬りつけざまに振り向き、光太は右手の槍でアキレス腱に向かって突いた。
「ギャオオオォォッ!」
完全にアキレス腱を貫いた槍は抜くことはできなかったが、光太は構わず短剣を両手で握り絞めそのままジャイアントオーガの脇腹に突き立てた。
光太は全身で渾身の一撃を放っていた。
苦悶の表情を浮かべるジャイアントオーガだったが、左手で振り払うように光太を横殴りにしていた。
短剣は抜けたが、力いっぱい刺していたことで吹き飛びながらも倒れることなく踏みとどまれた。
しかし、それだけであった。もはや満身創痍の光太は立っているのが不思議なくらいだった。
「意識が飛びそう…だ。でも…諦めるわけにはいかない…」
ジャイアントオーガを睨みつける光太。
「たとえ身体が動かなくても、2人に近づけさせるわけにはいかないんだ…」
動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け……。
祈るように頭の中で動けと連呼する。
ジャイアントオーガは足を引きずりながら近づいてくる。
そして、間合いに入った途端にジャイアントオーガは横殴りに棍棒を振るった。
光太は間一髪で短剣を地面に突き立てていた。
「グアアアアアアアッ!」
棍棒は短剣に当たっていた。
しかし、横殴りの勢いで押される光太。
そのまま膝を地面に着き、必死に倒れるのを踏みとどまる。
意識はほとんどなかった。それでもわずかに残る意識の中で光太は立ち上がろうとしていた。
だが、無情にもジャイアントオーガの追撃が振り下ろされた。
「ワオオオォォン!!」
それは突然の出来事だった。
全身が白く長い毛並みの犬(?)が雄叫びとともに現れ、ジャイアントオーガと光太の間に割って入ってきたのだ。
光太は、新たに現れたモンスターに絶望するしかなかった。
「もう、ダメだ…」と諦めかけたその時、思いもよらない『事』が起きた。




