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地球異世界で冒険をしよう!  作者: AZ
第1章 『フィールドデビュー編』
12/33

最強のレベル1

 着いたのは、俺の家の裏山のモンスターフィールドだった。

 モンスターフィールドに入る前に買ったばかりの装備品を着込む。


「しっくりくる…。ピッタリサイズだ」

「モンスターの素材で作った装備品は装備した人にピッタリなサイズになるように作られているんだよ」

「特にジャックの作った物は身体へのフィット感が良いって有名なんだよ」


 確かに、着心地が良い。

 しかも、俺のは鎧なのに動きに制限も感じない。


「さて…と、実戦前に最後のレクチャーだ」

「「はい」」

「練習と実戦の違いは…分かるな?」

「相手を狩る…殺すってことですよね」

「そうだ。血生臭い話になるが、初めての狩りはそれだけ衝撃を与える。斬った時の感触、流血の多さ、血の匂い、モンスターの断末魔…人によってはその辛さに耐えられない者もいる。まあ、お前たちは狩りの授業で耐性はあると判断したが、思った以上の衝撃があるのだけは覚悟しておけよ」

「分かりました」

「理解したのじゃ」

「僕は慣れているので大丈夫です」


 頷く3人。

 砂利道の先は、明らかに周りとは雰囲気の違う『草原』が広がっていた。


「ここからがモンスターフィールドだ。入ると空気が変わるからな」

「薄いですが、魔力が空気中に含まれているんです。害はありませんが、それがモンスターフィールドの特徴です」

「じゃあ、入るぞ」


 無造作にフィールドに入っていくキッドを追い、光太(こうた)たちもフィールドに足を踏み入れた。


「…なるほど。確かに空気が変わった」


 臭いとか淀みとかではない。

 空気の質が変わった…と言う感じだった。

 嫌な感じじゃなく、むしろ心地よい感じがする。


「この感じ…回復魔法の感じに似ているような…?」


 回復魔法で癒された時に感じた優しいような安心するような感覚。

 そんな感じがしたのだ。


「じゃあ、進むぞ」


 しばらく歩くと、俺の瞳に変な点滅が見えてきた。


「…なんだ、これ…?」

「どうした?」

「何か…赤い点滅が見えて…」

「それは、『スカウトスキル』だな」

「赤い点滅が大きくなって近づいてくる…」


 すると、肉眼で微かに何かが見えてくる。


「グラスバードが3羽、こちらに来ます」


 赤い点滅は単なる赤い点になり、そこに名前が浮き出る。

 これが、『スカウトスキル』の固有スキルの能力らしい。

 近づいてくるにつれ、俺の脳内に情報が流れ込んできた。


「…グラスバード、別名・草鳥。飛ぶことは出来ないが高いジャンプ力があり、鋭いくちばしとかぎ爪を持つ。好戦的だが頭はそれほど良くない」

「情報まで分かるのか?これが『スカウトスキル』…」

「凄いもんじゃのう…」

「来るよ…」


 物凄い勢いでグラスバードが駆けてくる。


「卒業試験開始だ。思う存分戦ってみろ」

「…光太(こうた)。どう戦うかは君の指示に任せる」

「それが良いじゃろう。信じておるぞ、光太(こうた)

「……分かった。やってみるよ」


 グラスバードはジャンプはできるが飛ぶことはできない。

 動きを制限できれば一気に倒せるはずだ…。


 グラスバードがあと100メートルの距離にまで来たのを見て、俺は指示を出すことにした。


「フィリィ。スピードでグラスバードを撹乱して、目の前まで行ったら横に避けて。ゼノはフィリィが避けたら『風撃(ブッシュ)』をグラスバードの足元に放つんだ。グラスバードがジャンプしたら、俺とフィリィで攻撃する」

「分かったのじゃ」

「任せたまえ」


 言うと同時にフィリィがグラスバードめがけて駆けだす。

 ゼノはいつでも魔法が撃てるように掌をグラスバードに向けている。

 俺もいつでも飛び出せるように槍を構える。


「遅いのじゃ!」


 グラスバードの動きを見切り、フィリィは横っ飛びする。


「今だ!――『風撃(ブッシュ)』!」


 突風がグラスバードの足元に当たり地面を抉る。

 ジャンプしたグラスバードたちを見て、俺は一気に駆け出した。

 フィリィも大地を蹴ってグラスバードに迫る。


「ヤア―――ッ!!」

「八ッ!ヤアッ!!」


 俺はグラスバードの額に槍を突き刺すことに成功した。

 フィリィも左右の飛び蹴りでグラスバード2羽を蹴り飛ばした。

 グラスバードがジャンプしたことで動きが制限され、狙いがつけやすかったことが大きい。


「やった…」

「倒したのじゃ」


 俺の『スカウトスキル』がグラスバードの死亡を確認した。

 俺は、アイテムボックスから包丁を取り出す。


「…『解体(かいたい)スキル』!」


 言葉を口にすることで、グラスバードの首を()ね、血抜きをする。

 血が抜けたところで皮を剥ぎ、羽根をもいで肉を部位ごとに切り分けていくとアイテムボックスへと入れた。

 解体によって『皮』と『羽根』と『手羽先』に『手羽元』、『胸肉』と『もも肉』に『ササミ』、『砂肝』と『レバー』に綺麗に切り分けられた。


「見事だったぞ。光太(こうた)の的確な指示、それを理解して行動に移せた2人の実力、倒すまでの一連の動き、獲物を解体してアイテムボックスに仕舞(しま)うまでの無駄の無い動作…どれをとっても素人とは思えない戦闘だったぜ」

「まさに、『最強のレベル1』ですね」


 絶賛するキッドとシリウスの言葉に光太(こうた)はくすっぐたく思い、フィリィは自信に満ちて、ゼノは冷静に受け止めていた。


「あ、あの…『レベル1』に最強とかあるんでしょうか?」


 ゼノの言葉は光太(こうた)も疑問に思っていた。

 レベル1と言えば、最弱のレベル…最強ほど似つかわしくない言葉はない。


「そうだな…。分かりやすく言うと、何も知らない者と情報を持っている者とではどちらが有利になると思う?」

「それは情報を持っている方ですよ」

「だよな。じゃあ、情報を持っていてそれを有効に使える手段を持っている者と情報だけ持っている者とでは?」

「有効に使える手段を持っている者でしょうね」

「つまり、『情報』と言う『知識』を『持ち』、それを『有効に使える実践を積み重ねた者』が『本番に強い』ってことになりますよね」

「なるほど…何の対策も持たない者、情報しか持っていない者、身体だけしか鍛えてない者とでは、その逆である『情報を持っていてそれを有効に使える実践を積んだ者』の方が『本当の意味で強い』ってことなんですね?」

「まあ、簡単に言うとそう言うことだ。同じレベルでもそれだけの差が生まれる。その上でさらに実戦に役立てる者こそ『最強』ってことなのさ」

「でも、それってキッドさんたちの経験があったからですよね?」


 5年前から始まった『冒険者』の活動…。

 彼等の積み重ねてきた経験があったからこそ、今の自分たちがあるのだ。

 もし、『最強のレベル1』と言うものが存在するのならば、それはキッドたちベテラン冒険者たちのおかげなのだ。


「俺たちが与えたのは『知識』と言う『データ』にしか過ぎない。そこから『答え』を導き出し、『結果』を出した者こそ『強者』である『証拠』なのさ」

「確かに…『データ』を『理解』して、『実戦』に『役立てる』ことができると言うのは、誰にでもできることじゃありません。俺たちが戦う時に手取り足取り教えたと言うなら話は別ですが…」

「自信をもって言えるぜ。お前たちは『最強のレベル1』だってな」


 どれだけ情報を得たとしても、実戦でどう役立てるかを考えて実行に移すことができるかが、冒険者の強さを表しているとキッドたちは言っているのだ。


「さて…と、卒業試験も無事済んだことだし、これにて終了だな」

「ですね。俺たちの仕事もここまでです。あとは自分たちで頑張るだけですよ」

「そうか…合宿だけじゃなく、お2人ともお別れなんですね…」

「それなんだが…お前たちさえ良ければ、秋太郎(しゅうたろう)の家を拠点にしても良いってよ」

「まあ、彼が帰ってくるまでの半年間だけですがね」


 キッドたちの急な話に、光太(こうた)たちは話し合い、秋太郎(しゅうたろう)の家を拠点にさせてもらうことにした。


「お2人はこれからどうするんですか?」

「俺は、役所に報告して報酬を貰ったらフィリィのことを報告して、仲間のとこに戻るだけだ」

「俺も里に顔出して報告したら、役所に行って報酬を貰って次の依頼場所に行くだけさ」

「そうですか…。お2人とも2週間の合宿、ありがとうございました」

「お2人から学んだことは忘れません。ありがとうございました」

「貴重な時間を過ごさせてもらったのじゃ。ありがとうなのじゃ」

「こっちも貴重な体験をさせてもらったぜ。ありがとよ」

「君たちの成長、心から願ってます。頑張ってくださいね」


 このあと、秋太郎(しゅうたろう)の家で、ささやかながら祝杯をしてちょっと豪華な食事で締めくくったのだった。

 余談ではあるが、明日は光太(こうた)の高校の卒業式でもあった。

次回から本格的に3人の冒険者としての日々が始まります。

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