第6話
第6話
「ゲフッ、ゴブリム様が、村の外、処刑場でお待ちだ。ついてこい」
夜が明けて間もなく一匹のゴブリンがやってきてそういった。
結局僕たちは夜明けまで何も行動することは無かった。ただひたすら3人の過去の話をして笑いあっていた。
ゴブリンがまずビンスさんを連れ出した、かなり歩くのが辛そうだ。隣をキーロを見るとさきほどまでとは大違いでひどく怯えていた。
「お前ら、も、出て来い」
そういわれ腕を強く引っ張られた。しかし立ち上がろうとしたがいつの間にか腰が抜けていてうまく立ち上がれない。
「もたもたするな」
そういってゴブリンは僕の左頬を強く殴った。急に恐怖が込み上げてきた。
キーロが立ち上がった。僕もなんとかゆっくりと立ち上がり、檻の外へ出た。
ゴブリンの村はかなり発展していた、そして半数近くのゴブリンは人間とほぼかわらない装備をしていた。
確かにこれではキーロ達のいう通り逃げられる気がしない。
さっきまで笑いながら話していた3人だったが、さすがにもう処刑までごくわずかだと思うと何も話すことはできなかった。
ゴブリンの村の外には燃え盛る火を囲むように武装したゴブリンたちがいた。そしてその中央には派手な装備をしたゴブリンが立っている。
僕たちがそのゴブリンの前に連れてこられたところで、そのゴブリンは口を開いた。
「私がこの森のゴブリンを率いてるゴブリムだ」
ゴブリム、ケビンさんが言っていたゴブリンのリーダーの名前だ。
よく見ると左腕に大きな傷跡があり、さらに左耳がない。
「12年前の戦いで私は多くの仲間を失った、だからお前たちを殺す」
周囲を取り囲むゴブリンたちが大きな叫び声をあげた
「普段なら森でとらえた人間はその場で殺してやるのだが、この私の村のふもとまでたどり着いた人間は初めてだ。だから私が直々に殺してやろう、感謝しろ」
そういってゴブリムは銀色の剣を引き抜き地面に突き刺した。
その動作を見て周囲のゴブリンたちがさらに大きな叫び声をあげる。
「さあ、まず誰からにする?それくらいはお前らに選ばしてやろう、最初に死にたい奴は前に出て来い」
3人とも動かない。なんで自分たちでそんなことを決めなければいけないんだ。
「そういえば罠にかかった人間はほとんど殺した、二人ほど逃したのが残念だったが…。あんな単純な罠でやられるとか人間も落ちぶれたものだ、今まで警戒していたのが馬鹿らしい」
二人だけか、逃げきれたのは。ケビンさんはそこに含まれているのだろうか。
「どうせ死ぬのだしお前たちには話してやろう。今回の罠は人間の戦力を確かめるものだったのだ。12年前の戦いでは不意を突かれたから敗北したのか、純粋に戦力が人間の方が勝っていたから敗北したのか調べるためだ。罠にかかった人間で数人腕利きとみられるやつがいたが打ち取るのはそうは難しくなかった、つまり12年前はやはりただ不意をつかれただけ、そして私の経験不足によるものだった、戦いというものを知った私たちにはもう人間など敵ではないようだな」
ゴムリムは得意顔になって言った。
「さらに調べるによるとケルミナといったか…?あの村には今まともな戦力がないようではないか、港町のほうはさすがに調べることはできなかったがどうせさした戦力はないのだろう。人間は12年前の戦いに勝利したからといって油断しすぎだ、獣の前で裸で寝転んでいるようなものだ」
ゴブリムは地面に突き刺した剣を握りしめ、僕たちの方へ向けてきた
「私は近いうちにケルミナを襲撃する、再び私たちの地にするのだ。港町の方も簡単にはいかないだろうが必ず奪い返してやる、ここは私らの地だ」
「俺から殺せ」
ゴブリムが喋り終わったのと同時にケビンさんが立ち上がり口を開いた。
予想通りだ、と言いたげにゴムリムはうれしそうな顔をした。挑発をして自ら死なせようとしたのだろう。
「いいだろう、私の剣で切り殺してやる。あの二人に最後の言葉でもかけてやるといい」
「ああ、でもその前に一つ願いを聞いてくれないか?」
「なんだ」
「ケルミナの村を襲うのだけはやめてくれ」
「無理だ」
ケビンさんの表情が変わるのが分かった。
「まぁそうだよな、ならせめていつ襲うのかだけでも教えてくれ」
「さあな、でも次の満月の時までには襲撃の準備もおわるだろうな。これで満足したか?」
「ああ……、いや、あと一つ頼む。俺の剣とポーチを持たせてくれないか、あれは親父の形見なんだ。死ぬ時もこの手に持っていたい」
「手に持たせるのは却下だ…、手の拘束をほどいて武器なんて渡したらなにをするか分からないからな。胴体に縛り付けるのなら許してやろう」
「……………、それでもいい、頼む」
「仕方ない、おい」
そういってゴブリムが側にいたゴブリンに声をかけると武器とポーチとロープを持ってきてビンスさんの胴体に縛り付けはじめた。
「なぁエルスにキーロ、あとは頼んだぞ」
「なにをいってるんすか…、俺たちももうすぐに殺されるんすよ。あともくそもないです」
「まぁたしかにそうかもしれんが…、少なくとも俺が死んだ後も少しは生きてるんだ、だから頼むぞ」
何を伝えたいのかよくわからないが、死にざまをしっかりと見届けてくれということなのだろうか
「最後に謝っておきたいんだが…、しっかりと守ってやれなくてごめんな。できることなら俺が生きて村に届けてやりたかったが……。あと、これから俺が死ぬのも、あの都の兵士を見殺しにしたのもお前らに責任はない、悪いのは俺だ。お前らを守れなかったのも都の兵士を見殺しにしたのも、そして俺がこれから死ぬのも悪いのはすべて俺だ。お前たちに罪はない」
「そんなことないです!僕たちがビンスさんの足を引っ張らなければ……、ビンスさんだけならきっとうまく森を抜け出せたんじゃないんですか!?」
ビンスさんは一瞬こちらを振り返り僕たちの目を順に見ると、再びゴブリムの方を見た。
「準備はできた。剣もポーチも完璧だ、一緒に死なせてくれてありがとう」
「そうか、それなら私の前で座れ」
ビンスさんがゆっくりとゴブリムの方へ歩いていく。取り囲むゴブリン達がさらに盛り上がる。
「俺が死ぬ瞬間だけは目を伏せてくれ」
そういってビンスさんはゴブリムの前で座った。
「では、いくぞ」
剣が高く振り上げられる。ゴブリンたちの歓声が響きわたる。
そして、剣が振り下ろされた――――
しかし剣はビンスさんをとらえなかった。間一髪でかわしたビンスさんはゴブリムから走って逃げだす。しかし完全にゴブリンに囲まれている上に両手は縛られている。
「あいつを捕まえろ!楽には死なせん!」
ゴブリムの叫び声と同時に周囲のゴブリンたちが一斉にビンスさんへと襲い掛かる。
ビンスさんは一直線に、燃え盛る火の方へと走っていった。
「そんな、まさか」
隣でキーロがつぶやいた。僕もキーロもビンスさんの考えが分かったのだ。
ビンスさんのポーチには、音爆やキーロの目くらまし爆弾、さらに威力の高い爆弾が入っていたのを思い出したのだ。
ビンスさんの足はボロボロで走るのも辛そうだ、しかし止まらずに一心に火を目指している。
「エルスキーロ!村を救え!」
そういってビンスさんは火に飛び込んだ。ビンスさんを追いかけてたゴブリンたちはなにが起きたのか理解できないのかその場で一瞬固まる、
と、次の瞬間、大きな爆発が起きた!
僕はキーロに押し倒され目くらまし爆弾の粉を顔面に受けることはなかったが、周囲のゴブリンは皆ビンスさんに注目していたため粉をもろに顔面に受けダメージを受けていた。
さらに煙幕爆弾もあったのだろうか、濃い煙が周りを覆っている。
「エルス!」
キーロが目くらまし爆弾の粉が目に入らないよう少しだけ目をあけて僕の方を見た
「俺が先にいくからついてこい!」
そういってキーロは走り出した。幸いなことに僕とキーロは同じロープでつながれていたからはぐれることは無い。
「ビ、ビンスさんは!?」
キーロは何も答えず走った。僕も別に返事を期待していたわけではないので必死にキーロについていった。
武器はない、しかも両手は縛られている。今僕たちにあるのはビンスさんが命をかけて作り出してくれた時間だけだ。だから今は走る、少しでも距離を稼がなくては。