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ミッドナイトブルーの白い夜  作者: よがふ
第1章
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第5話

第5話



「俺のせいだった……」


ゴブリンの森で過ごす夜、少し寝たもののすぐに目が覚め、眠れずにいたらキーロがそう呟いた。


「俺があそこで警戒を怠らず、大きな声を出さなかったらあの兵士は死ぬことはなかった」

「でも、キーロ。あの場所で動けずにいたとしても時間の問題だったよ、多分……」

「それは関係ない、もしかしたらあのままうまく助けが来るまで隠れきったかもしれない。俺が殺したんだ」

「…………、それなら、彼を助けなかった僕も同罪だよ」



なんとか励まそうとしたが、うまい言葉が見つからない。


「俺たち、生きて帰れんのかな。どうせ死ぬならあの兵士を守るために戦って、死にたかったな」

「キーロ……」


キーロはそれから何も言わなかった、僕も何も言わなかった。虫の鳴き声だけが響いている。



この森から生きて脱出する、果たしてできるのだろうか

ゴブリン達は北側からじわじわと僕たちを追い詰めてきている。だからといって南にひたすら逃げてもケルミナの村から遠ざかるばかりだ。

ケビンさんは無事なのだろうか、きっとあれだけ腕がたつのだからうまくゴブリン達を振り切って村に辿り着いている気がする。

そして僕たちを助けるために再び兵士をつれて森に……





「おい、お前ら。すぐに逃げるぞ」


突然ビンスさんがそう言った。


「見ろ、火を使って明かりを確保してやがる。俺たちを休ませる気がないらしい」


外をみると、数十の明かりがゆらゆらと揺れているのが見えた。


「このままだと見つかる、慎重に逃げよう」

「でも暗くて方角が全然分かりませんよ……?」

「それは仕方ない、とりあえずこの場から逃げるのが先決だ」



明かりが無い方へと、音をたてないようにゆっくり進んでいく。

足元がよく見えず、何度か転びそうになるがビンスさんがうまく支えてくれた。



「なんか嫌な感じだ、まるで誘導されてるみたいだ」

「そんな不吉なこと言わないでくださいよ……」

「あ、ああ、すまん」


ビンスさんも僕もキーロもかなり疲れがたまっている。それに加えて視界が悪いのでゴブリン達をなかなか振りきれない。

それに明かりの数がかなり多く、いかに多くのゴブリンが僕たちを追ってきているのかが分かり、精神的にもつらい。




カランカランカラン


突然僕たちの足元で音がなった


「これは……、鳴子!?ゴブリンめ、そんな知識があったのか!おい走れ!逃げるぞ!」


鳴子の音を聞いたのか周囲の明かりが一斉にこちらに向かってくる。

僕たち3人は走った、しかしそこらに鳴子が仕掛けてあるのか移動するたびにカランカランカランと音が鳴ってしまう。このままでは逃げ切れない。



「どうするんすかビンスさん!!」


キーロが口を開いた。


「どうもこうも、走れ!逃げるしかない!」

「ああクソッ!」


疲れきった体に鞭を打ちながら必死に走った、何度も転んだが走った。


その時だった、少し先を行くビンスさんとキーロの姿が消えた。


「あっ、あれ、ビンスさん?キーロ?」

「上だエルス!罠だ!」


上を見上げると網に包まれた二人がいた。


「エルス!どうにか罠を解除できないか!?」

「やってみます!少し待ってください!」

「クソッ、なんでゴブリンにこんな知識があるんだよ!!」


よくみると4本のロープで網は吊り上げられている

僕はロープ目掛けて弓を放った……、1本目は外したが2本目でうまくロープを切断できた


「この調子で残り3本のロープを切ります!もし動けそうなら中から網を切断して脱出してください!」


そういって次の弓を構え、2本目のロープに目掛けて……


「エルス!!後ろ!!」


キーロの声、後ろを振り返ろうとした僕はーーー、

後頭部に強い衝撃を受け、気を失った。





........................................





目が覚めると、木製の檻の中にいた。周囲には数多くの松明がおいてあり夜だというのに明るい。

自分の置かれている状況を確認する、腕同士が前で縛られている、足は……、縛られてない。

右を見ると同じように縛られたキーロがいた。よくみるとキーロと僕の体は同じロープでつながれていた。これではキーロから1メートルも離れることができない。

キーロの奥にはビンスさんがいる。縛られているのは腕だけの様だ。


「やっと目が覚めたのか」


キーロが口を開いた。


「これでやっと逃げるときにお前をかついでいかなくて済むようになったな」

「これ一体、どうなってるの?」

「ゴブリンの村だ、捕まった時はあっさり殺されるのかと思ったが丁寧に縛ってここまで送ってくれたよ」


周囲を見渡すと、確かに数匹のゴブリンの姿が見える。


「ちょっ、見てよ。あのゴブリンたち人間とほとんど変わらない装備をしてる」

「そんなのとっくに知ってるよ、そんなことで驚いててたらきりがないぞ」

「きりがないって、どういうこと?」

「まぁそのうちわかると思うぜ、最初は殺される恐怖でもう声も出なかったが、それも吹き飛んじまうような驚きだ」

「なんでこんな時になってもったいぶるのさ、命がかかってるのに」

「いいじゃないか、最後くらいいつも通りでいたいというか。泣き叫んでも無駄ってことはお前が気を失ってるうちにわかったからな」

「捕まった直後なんてキーロは特にひどかったぞ、エルス。死にたくないだの逃がしてくれだの泣き叫びやがって」

「ちょっと!ビンスさん!なんでそれを言うんすか!!」


「なんで二人はこんな状況なのにそんな余裕でいられるんですか!!」


思わず声を張り上げてしまった。


「二人ともおかしいですよ…!捕まったのなら、逃げる策を考えないと…、武器は取られたけど、ポーチは無事だ!中に入ってる爆弾もとられてない!やつらきっとこれの使い道を知らなかったんだ!これを使えば…」


キーロが泣きそうな表情をしているのに気づいて僕は思わず口を閉じてしまった。


「全く……、お前は気を失ってたからいいよな。俺とキーロなんていつ殺されるか分からない恐怖を味わってたんだぞ。もう無理だ、抵抗なんてしたくない、あんな恐怖はもう二度と味わいたくない」

「で、でも、逃げないと殺されるんですよ?」

「抵抗しなければ夜明けとともに楽に殺してくれるんだとよ。少しでも抵抗したら拷問だ」

「どうせ死ぬなら、諦めないで少しでも…」


僕が喋りかけたところでビンスさんは自分の足を僕の方に伸ばしてきた


「ほら見ろよ、お前が眠ってる間に散々やられたよ。もうまともに歩ける気もしねえ。この村についてすぐに他の俺たちの仲間の情報を喋らせようと拷問だ。最初はなんとしても喋らないでいようと思ったが無理だ、あれは。片足が潰されたとこでしゃべっちまった、しかも喋ったとこであいつら拷問をやめようとしねえ、結局両足ダメにされちまったよ」

「ビンスさん、俺をかばったから……。ゴブリンたちに向かって『あいつはただの下っ端だ、何も情報を持ってないし拷問をしても時間の無駄だぞ。そんなことより俺を痛めつけたほうがいいもの手に入ると思うけどなぁ』とか言うからそんな……」

「そりゃお前じゃすぐにいろいろ吐くと思ったからな、俺だったら何もしゃべらず耐えきることができると思ったんだがなぁ」


さすがに何も言い返すことができなくなった僕は黙り込んでしまった。

もう本当に逃げ出すことはできないのあろうか、キーロとビンスさんの様子を見るに脱出なんてほぼ不可能なのだろう。でも―――





「ガフッ、三人目、起きたか」


僕が考えを巡らせていたら突然濁ったような声が聞こえた。

声の主はゴブリンだった、なんとゴブリンが人間の言葉を話した。


「ゴブリム様……夜明けに、帰る。処刑それからだ、おとなしくしてろ」


そういうとゴブリンは檻から離れていった。


「え……、え、なんで人間の言葉を」

「驚きだよなー、ここの村に住んでるゴブリン、人間の言葉で話しやがる」


確かに、今までの会話をよく思い返してみるとゴブリンとキーロ達がコミュニケーションをとっていることが分かる。でもゴブリンが人間の言葉を話すなんて聞いたこともなかった。


「エルス、考えたいことは山ほどあるだろうがどうせ夜明けまでの命、考えて時間を使うのなんてやめようぜ。キーロとも約束したんだが夜明けまではケルミナの村にいるときみたいに過ごさないか?俺はケルミナが大好きだ、あんなに居心地のいい場所なんてそうそうない、特に俺らみたいな元捨て子にはな」

「ビンスさん、捨て子だったんですか」

「ああ、そうだ。しかもハニバルの施設育ちだ、お前らと全く一緒だな。せっかくだし施設の話でもしないか?きっといい最後の時間が過ごせそうだ…、」



そういってビンスさんとキーロは施設での思い出話を始めた。


これでいいのだろうか、僕はまだ死にたくない

でもキーロもビンスさんも恐怖が植えつけられ、完全に戦意をなくしている。

まだ戦意をなくしていないのは僕だけだ……、僕がどうにかするしかないのか

まずはこの檻からでないと……、音爆でどうにかならないだろうか、至近距離でいくつか同時に爆発させればそれなりの威力が……


「エルス」


見ると、キーロが僕の方をまっすぐに見ていた

しかし僕をとらえているのは片目だけだった。


「俺たちもいろいろためしたさ、でもだめだ、逃げてもすぐ捕まる。あいつら俺たちが脱走するのを楽しんでるんだ。絶対に村から逃がさない自信があるんだろうな、実はここの檻のカギは空いてるし爆弾もわざとおいてあるだぜ」

「キーロ、その左目…」

「ああ、二回目の脱走の時にやられた。ビンスさんはまともに動けないし俺はお前と繋がれてるから背負っていかないといけないしそりゃ無理だよ、ゴブリン共俺たちをじわじわと追い詰めて楽しんでやがった」




涙が溢れてきた。そうかここで死ぬのか―――


「それでさ、俺がケルミナにきてすぐの話なんだが――」


楽しそうに話すビンスさん、それを笑いながら聞くキーロ、二人の目には涙がたまっていた。


当然だ、悔しい、帰りたい。でも助かる方法が見つからない。






そして、夜が明けた。








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