プロローグ
「ゴブリンの巣だ」
見廻りをしているゴブリン達を警戒しながら小さく呟いた
おそらく一度も襲撃にあったことがないのだろう、ゴブリン達は周囲を警戒することなくくつろいでいる
「キーロ、マッピングはできた?」
「おう、とりあえず次来るときに迷うことはなさそうだ」
「よし、じゃあとりあえず村に報告に戻ろうか、慎重に」
「今回見つかるようなことがあればいつもみたいに数匹のゴブリンに追い回されるどころの話じゃないしなぁ…、ああ、慎重に行こう」
この仕事を初めて約半年、まだまだ新人である僕らは基本的にゴブリンと戦闘することが禁止されている。当然闘いを避けられないときは闘うが、まず勝てることはない
逃げる、助けを求める、そして逃げる、ひたすら逃げるだけ。
「東側の川沿いから戻ろう、あの辺りは昨日討伐隊がまわっていたはずだ」
「了解」
「前みたいにくしゃみをするのだけはやめてよね」
「お前こそ逃走ルートに掘ってある落とし穴に落ちるのだけはもう絶対にやめてくれ」
新人の僕らは失敗から学ぶことがまだまだ多い
....................
「寒いね」
「ああ寒い」
「帰ったらすぐに服を干さないとね」
「ああ」
「頭の傷は大丈夫?」
「…………」
「………………、今日の晩飯代は僕が払うよ」
「3日分」
「えっ」
「俺の髪の毛は一晩の食事代分しか価値がないっていうのか?」
「……、ちょっと抜けただけだしすぐ生え「5日分」
「……」
帰り道、僕達はゴブリンに追われた
巣からそれなりに離れていた所だったので大量のゴブリンに追われることにはならなかったが、運悪く川を背に4匹のゴブリンに追い詰められてしまった。
こういう事態のために火薬のつまった小さな筒を持ち歩いていて、危険が迫ったら火をつけゴブリンどもに投げつけ、爆発で怯んだ隙に逃げるのたが、この爆弾は結構値が高く1週間ほど前に新しい武器をオーダーした僕としてはあまり使いたくなかった。
そこで爆弾を取り出そうとするキーロを川に突き落とし、そのまま僕も飛び込んだ。
結果うまく逃げることはできたのだが、キーロは川底で頭をぶつけ、さらにつむじのちょっと右のあたりの髪の毛が何かに引っ掛かりずっぽり抜けてしまった。当然、キーロはお怒りだ
「いつかお前が崖から落ちるような時があったら手じゃなくて髪の毛を掴んでやる」
ゴブリンの森の北部、比較的安全地帯を歩きながらキーロは頭を気にしながら小言を言い続けた