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58.蛮族の少年

58.蛮族の少年



ジャスティーの背負う、大きな片手用の剣が、重たいと思ったのは初めてだったのかもしれない。ジャスティーはその剣が重たいと思った。両肩にずっしりと重みを感じた。

ここへ来てからなんだかずっと1人だった気がする。途中でイリスに出会った。その出会いが、ジャスティーのこの星にきてからの判断を大きく揺さぶった。キングへと繋がる道の最後。誰も、ジャスティーの話を信じてはくれなかった。いや、違う。

「そうだ……」

ジャスティーは歩きながら呟く。

「アリスだけしか信じなかった」

アリスだけが信じてくれた。あの美しく愛らしい微笑み。「大きな声で叫んで」。フラッシュバックして思い返される。「ジャスティーの正義を信じるわ」。アリスの最後の言葉に胸が締め付けられた。涙が溢れてくる。どうしてまた。

ジャスティーは首を振る。悲しい思い、または怒りに我を持っていかれないように。

そしてまた、違う女の子のことを想う。自然と思い出す。初めて見たときから思ってたから。この2人は似てるって。そして、顔だけじゃなくて、言うことまで似てるんだ。

イリス、お前もまた俺を信じるって言ったバカだ。だけど、次こそは、俺を信じてくれる人を悲しませたりしない。絶対に嫌だ。イリス、アリスの守護石をしっかり握っておくんだぞ。

ジャスティーは泣いてるわけではないが、なぜか一度目をこすって、凛々しい目をして前を見た。ジャスティーの赤い瞳は、内にも外にも滲み出る猛々しい情熱の赤だ。


「道草くっちまったな」

物思いに耽ることを、そう捉えたジャスティーは、空に向かって投げかけた。もちろん、コウテンの空は何も答えてはくれなかった。それでいいのだけれど。

「ちょっと体、鈍ってきたかな」

元気を取り戻しただけだが、ジャスティーはそう感じたらしく、大きな剣を右手に持って振りかざす。

「おっ、なんだか重いや」

嬉しそうに呟くと、右から左へ一振り、左から右へ一振り、密林の草を刈るように、自分の道を自ら開くように、意気揚々と進んで行く。

蛮族の住処へと近づいているという意識が抜けていた。

「てい!」

無邪気に剣を振り回す。


「うわぁ!」

そこで、ジャスティーは声をあげた。もう少しで、斬ってしまうところだった。

「わあっ!」

草を剣で掻き分けた先に1人の少年が立っていた。が、驚きのあまり、ジャスティーを見て後ろにのけぞりしりもちをついた。

「わりぃ! 危なかった!」

ジャスティーはその少年に手を差し伸べる。全然気配に気付けていなかった。

「あ、あ……」

少年は、ひどくジャスティーに怯えている。

「どうした? そんなに驚くなよ。悪かったって! あたんなかったんだから、セーフな!」

ジャスティーは、その怯えを無視して少年の肩を叩いた。ん? 少年に触れたとき、何かわからないけれど、自分の中で何かが音をたてた。それはその少年も同じだったらしい。目からジャスティーに対する怯えは消えていた。

「あれ? もしかして」

ジャスティーは言った。

「君、蛮族?」

もしかしなくてもそうだ! と、ジャスティーは思っていた。ザンギリ頭に日に焼けた黒い肌。コウテンの貴族とは思えないし、コウテンの平民も、この地帯にはいないはず。

「うっ、うわあぁ!」

その瞬間、少年は悲鳴をあげてジャスティーから逃げた。怯えが消えたのは幻だったのかもしれない。

「なんで?」

ジャスティーはぽかん、としてしまった。何か、通じ合った気がしたのに。俺が怖いのか? ああ、そうか、こんなもの振り回してたら誰だって逃げるな。ジャスティーは剣を背中の鞘に収めた。そして当然、その少年を追いかけた。

「待てよ! 話したいんだ!」

ジャスティーはにっこりと笑顔で少年を追う。少年はその笑顔虚しく、やっぱり今にも泣き出しそうな顔でジャスティーから逃げた。

「ほほう、俺には勝てないだろ!」

ジャスティーの勝負癖が出る。少年もスピードをあげて逃げる。

「すっげ!」

ジャスティーはその速さに感動する。蛮族って、何者だ? 好奇心がくすぐられる。が、瞬時に危険を嗅ぎつけた。ジャスティーは右足の親指に力を入れ、前方に飛び出した。蛮族の少年はジャスティーに覆い被さられる、といった形になった。

叫び出す寸前でジャスティーは少年の口を塞ぐ。

「静かにしろ、あれがわかるか?」

ジャスティーはぐるぐると旋回しつつ蛮族の縄張りの巨大な森を偵察しているコウテンの戦闘機に追いついていた。

「ううう!」

少年は暴れ出す。

「いてっ! なんだよ!」

少年の口から手を放す。

「おい、もしかして俺を警戒してるのか? あれは、敵。俺、味方」

少年になぜかカタコトっぽくジャスティーは説明する。

「ほら、握手だ! 俺が敵じゃないって、感じないのか?」

ジャスティーは無理やり手を握った。

「……わかった。アレじゃないんだな、お前」

普通にしゃべりだすと、なんだかかわいさが半減した気になったのはなぜだろう、とジャスティーは思った。が、とりあえず信用してもらえたことにホッとした。

「ああ、俺はコウテンの人間じゃないんだ」

「早く戻らないと。父さんが心配して僕を探しにくるかもしれない」

「父さんがいるのか?」

「あたりまえだ。お前にはいないのか?」

少年は、ジャスティーのことなどもうちっとも恐れてはいなかった。

「もちろんいる」

「じゃあ変な質問するな」

かわいくねぇ! 急にかわいくねぇ! ジャスティーは自分は味方だ、と言ってみたことを少し後悔した。しかし、少年の手が小さく震えていることを確認すると、

「安心しろ、俺が必ず父さんのところまで届けてやるから」

と、大人な発言をしてみた。





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