53.探求者(1)
53.探求者(1)
ジャスティー助けて!
ジャスティーは咄嗟に後ろを振り返った。
「フラニー?」
フラニーの声が聞こえた気がしたからだ。森が一瞬騒いだ。風がジャスティーの頬を素早く通り過ぎた。
「まさかな」
ジャスティーはすぐに笑い飛ばし、前を向くと歩きだした。たとえ何があっても、あいつは俺に助けなんて求めるわけねぇし。ジャスティーはそう確信さえしていた。
「フラニーかぁ、なんだか懐かしいな」
乾いた森を進むのはさみしく、ジャスティーは独り言を大声で言っていた。隠れての行動のはずだが、隠れる必要なんてなさそうだった。見渡す限り、人の気配も、動物の気配も、ましてや蛮族の気配なんてなかった。蛮族とやらは随分と城から遠いところへ引っ込んでいるらしい。
イリスはここから先は蛮族の領域だなんて言ってたくせに、全然じゃんかよ。ジャスティーは少し歩き飽きていた。
「はぁ、フラニーは俺がいなくてせいせいしてるだろうなぁ……。ミズ、大丈夫かな。フラニーにべったりされてないかな……。ミズは優しいから……」
優しいから……。ジャスティーはミズの顔を思い描いた。
「ごめん」
そして謝った。
『ジャスティー、僕たちは兄弟だ。正真正銘の。そして、レイスターとアスリーンが僕らの親だ』
この星へ来る前に、2人で行った青碧の湖畔。その時のミズの言葉がジャスティーの胸を締め付ける。
『僕らは家族だ。他に何を望む?』
何を?
ジャスティーは下を向きながら歩き続けていた。
望みなんてない。ただ、真実が知りたいんだ。ジャスティーは上を向いた。倒木が行く手を塞いでいた。ジャスティーは背中に担いだ大剣を片手で持ち、思い切り振り下ろした。
背中に絡みつく複雑な思いを断ち切るように。
―コウテン城―
「ザルナーク! さっきケイトたちが飛んでいったわ!」
イリスは軍事塔まで息を切らしながら走り辿りついた。ザルナークを探して暫くの間彷徨っていた。
「……」
やっと見つけたザルナークはイリスのその姿を見ると絶句した。
「な、何をしておられるのですイリス様」
黒の騎士団の上着を着ていたイリス。せめてもの変装か。しかしなぜかそれを鮮やかな緑のドレスの上から羽織っていたのでまったく意味を為さない行動だった。
「にしても、衛兵はとんだふぬけだ」
ザルナークは呟く。そして改めて、といった様子でイリスと向きあった。
「ええ、そうです。白には偵察に出てもらいましたよ」
ザルナークはイリスの肩に触れ、部屋へと戻るよう促した。
「でも! 方向が!」
飛んで行った方向が! イリスは顔をしかめていた。
「……何か問題でも?」
「いえ……、でも……」
ジャスティー、絶対に見つからないで! イリスはそう深く祈ることしかできなかった。
「残念ながら、我々の敵は多いのでね。蛮族の様子もきちんと把握しておかなければなりません。さ……、もう我々に任せて……」
「ねぇ、私の母のことを教えて」
その思いがけない言葉にザルナークは言葉を詰まらせた。イリスは潤んだ瞳でザルナークを見つめる。イリス自身も、その言葉がぽん、と無意識に出たことに驚いた。
「どうしたのです?」
「きっと私も、真実が知りたいの」
私も? ザルナークはそう思ったがすぐにその疑問は捨てた。
「とても、優しく、美しいクイーンでしたよ。イリス様は年々彼女に似てきていらっしゃる」
ザルナークは優しく微笑んでそう言った。ザルナークもとある日のクイーンを思い浮かべていた。
「本当?」
「ええ、それはそれはよく似ておいでです。だからこそ、アヴァンネル様はあなた様のことを深く深く愛していますよ」
「でも、写真の一つも見せてくれないわ」
イリスは俯いた。
「……まだ、見つめることができないのでしょう」
意味深にザルナークはそう言った。
「え?」
「いえ……。ですがイリス様、あなたの思い出の中に、お母様はまだいるのではないですか?」
「もちろん、いつも一緒にいるわ。だけど……」
ザルナークはイリスの前に跪いた。
「イリス様。あなたこそが真の王家の娘です」
「そんなことを言っては……!」
「それが真実ですよ」
ザルナークは優しくそう言うと立ち上がった。
「さ、どうかキングに見つかる前にここから離れたほうがいい。どうでしょう、ローズ様の隙をついて、クイーン塔のお母様の部屋へ行ってみるのもよろしいのではないでしょうか?」
「え!?」
イリスは不思議とそんなことを考えたことがなかった。
「昔の部屋のまま、残っていますよ」
「ありがとう! そうするわ!」
「衛兵をすり抜けるイリス様なら朝飯前でしょう」
ため息をつきながらザルナークは言った。
「ええ! でも……」
「そうですね、くれぐれもご注意ください。あなたの今の母君は、衛兵よりも腕がたつかもしれませぬ」
「本当だわ。ザルナーク! お父様をお願いね!」
イリスはなんだかスッキリした様子で駆けて行った。後ろ姿を見届けたザルナークは深くため息をついた。
「やれやれ、手のかかる家族だ」
「ザルナーク!」
その声にザルナークの肩がビクッと上がった。
「?」
滅多に見ないその反応に首を傾げるのはアヴァンネルだった。
「き、キング、こちらにいらしていたのですか」
「何を言ってる? 会議室の前だろうが。白のビショップから話があるそうだ」
「白のビショップから?」
すぐにザルナークは黒の団長の顔へと戻った。目を据わらせ厳しい顔をした。よりによって白のビショップか……、そう思った。
「珍しいこともあるよな」
キングは呑気にそう言った。




