51.存在の露呈
51.存在の露呈
警報が鳴りやむ頃には、コウテン軍事塔、会議室にはアヴァンネル騎士団が集結していた。不思議なことに、アヴァンネル騎士団屈指の強さを誇るはずのナイトの称号を得た2人の隊長はそこにはいなかった。
白のルーク、ケイトの顔はいつもの澄まし顔なんてつくれるはずもなく、いかにも暗く落ち込んでいるようでもあったが、もしかしたらただぶすくれているだけかもしれない。思い通りにいかないことなんて経験したことがない幸せ者だったのだ。
そして黒のルーク、ザルナークはしっかりと目に光りを宿し、失った者の意思を無駄にせずに引き継ぐ男だった。ザルナークはアザナルをかわいがっていた。目にかけていた。大きな男になると、ゆくゆくはキングになるかもしれない男だったのだと、ザルナークがいちばんアザナルに期待していた。白のナイト、コーネルとともに未来のコウテンを担う逸材だったのに……。ケイトと2人、『残ってしまった』。そう思った。ああ、時間を戻せたなら、絶対に身代わりになったのに。
アザナル、お前の無念は私が必ず……。
「キング。わたくしの不徳のいたすところ、申し訳ありませんでした」
ザルナークが己に熱中している間、キングが会議室に入ってきた。キングが部屋へ一歩足を踏み入れたその瞬間、ケイトは声を発した。
「……」
キングはとりあえずそれを聞き流し、自分の壇上へと向かう。嫌な沈黙が流れていた。
「私の耳に入っている情報が正しければ、大きな駒を二つ失ったらしい」
キングが口を開く。
「はい」
「二つだけで正しいかな? それにしては随分と駒が少なくみえるが」
「……はい。白のビショップには、すでに任務に取りかかってもらっておりますゆえ、ここにはおりません」
ケイトは苦虫をつぶしたような顔をしてそう言った。リアの姿はそこにはなかった。ポーンたちも、特にコーネルの部下のポーンたちはリアに対して憎しみに似た感情を持っていた。
「我々は、同じ星の下に生きている。我々は大きな家族だ。その絆なしでは何も守ることはできなだろう。この星を想うならば、それぞれの胸に抱える負の感情は家族の為に捨てろ」
キングは、仲間が敵対し合うことだけは避けたかった。それが敗戦のいちばんの要因になることはわかっていた。
場が少し落ち着きを取り戻す。表だって騒ぎたてる者はそもそもいなかったが、
「ザルナーク、報告を」
「例の光ですね」
ザルナークはキングをしっかりと見た。
「蛮族特有の波動を感じ取り、警報が発動しました。我々が確認したところによると、それは……確かに蛮族のもつグリーンの禍々しい力だった」
「蛮族の侵入を許したということ!? 誤作動じゃなかったの!?」
ケイトは血相を抱えてザルナークに噛みついた。
「あり得ないわ! じゃあ私たちはなんでこんなところで悠長に喋っているの!」
「ケイト、少し落ち着け」
ザルナークはケイトを睨みつけた。ケイトはそれに負けてしまった。自分の蛮族戦の失態が頭をよぎってケイトを黙らせた。いつもなら食ってかかるはずの勢いは少し押さえられたようだ。
「確かに、あれは、あの光は蛮族が持つ『プルート』と呼ばれる光だった。だけど、あの場に蛮族なんていなかったんです」
「どういうこと?」
ケイトが聞く。
「ネスの一人の少年が、あの力を使ったように見えた」
「意味が……」
「わからないのは、私も同じだ。目で見たことしか報告できない。初めてのことだったんでな!」
ザルナークはキングに報告しているはずだったがいつの間にか興奮して誰に喋っているのかわからなくなった。語尾が強くなる。
「……ネス……」
ケイトは呟く。
「キング、確かネスとは荒れ果てた未開の星であり、我々の罪人の罰の一つ、流刑に当たる星ですよね」
そこで冷静な声がこの場で涼しげに響いた。
「最近ではもう行使されることがなくなった幻の罰とも言われておりますが」
黒のビショップ、アレンは顔も涼しげだ。
「ああ、確かにネスとはそのネスだ。我々と、深い因縁とも呼べる確執がある。しかしそれは……、過去の話だ」
キングの目が少し細くなる。
「いえ、そのネスが攻めてきたということは、やはり過去から逃れることなどできない、ということですよ。我々は、過去からの繋がりの上にしか存在しえないのですから」
「アレン、黙っててくれ」
ザルナークは飄々と語るアレンを止める。アザナルの陰に隠れてこの男のことを見落としていたが、ビショップの地位だけあってなかなか捉えどころのない難しい男だった。アザナルとは親しくしていたように思う。
「いや、そうだ。あいつ、変なこと言ってたぞ」
アレンの言葉によりポーンたちが騒ぎだす。
「俺は聞いた。俺たちが戦線布告をしてきたって、まるで正義面してやがった」
「ああ、そうだ。なぜか知らないが仲間割れみたいなことも起こって……」
「黙れ!」
ザルナークが叫ぶ。
その場はそれで静かになった。あと一秒でも遅かったなら、きっとキングが同じ言葉を発していただろう。
「キング、指示を」
ザルナークがキングに言った。
「蛮族の力を持つ、ネスの少年……」
キングは呟く。誰にも聞きとれないぐらいの声だった。
「まぁ、お前たちのしょぼくれた顔を見ると、もちろんその少年含め、ネスの人間は誰一人捉えることはできていないんだよな」
「……申し訳ございません」
ザルナークが頭を下げるが、ケイトも同時に顔を伏せた。
「この状況は、ネスにとって有利で、こちらにとっては不利だ。この機に再び総力戦をしかけてくるかもしれん。戦闘配置につけ。対蛮族戦と同じだ。奇襲でないのなら、こちらの方に分がある。各自隊長の命に従いこの城を死守しろ」
「はっ!」
ポーンたち全員が引き締まった。
「ザルナーク、ケイト、私の部屋に来い」
キングがそう言うと、ザルナークとケイトは噛みしめるように頷いた。
「ケイト、まず、蛮族戦に出た先に蛮族は一人もいなかったのか?」
少しリラックスしたようにキングは椅子に腰をかけた。自分の部屋はやはりどのよな状況になっても落ち着くものらしい。
「はい。それはそれは誰もいませんでした」
ふざけたようにケイトは答える。
「おかしいだろ。あいつらは交戦の準備をしていた。それにしていなくとも、いつだって出てくるような輩だ」
ザルナークがそれに疑問を唱える。
「そうよ、おかしいわよ。ほんと、すごく静かだったわ。まるで、自分たちが出て行かなくても、私たちの城がやられることを予見していたみたいにね」
「繋がってる……?」
ザルナークは呟く。
「ありえないわよ。あいつらが人間と繋がるなんてこと」
「裏切り者がいるぞ」
キングが言った。
「裏切り者……?」
「ああ。あいつらに語りかけ、コウテン襲撃を成功へと導くようにした裏切り者が。ネスの中か? いや、ネスの奴には無理だろう。いつだって……、本当の敵は内部にいるんだ。弱くも強くも何者にも化けれる……JOKERがいる」
「それは……」
ザルナークがごくりと唾を飲んだ。隣のケイトは不思議に眉を潜めるだけだった。
「裏切り者くさいのはリアぐらいだけど、反省したのかちゃんと仕事してるわよ? ぶっとぶような魔法の実験中よ。一発で終わり」
「リア? ああ、白のビショップか」
キングは確認するように言った。
「ケイト、蛮族の領域に偵察機を出せ」
ザルナークが言った。
「え? いいけど、なんであなたに……」
「いいから! 隠密だぞ! まだ不安が残る。行ってくれ!」
その必死の頼みにケイトは恐れすら感じた。わけがわからないことばかりね、ケイトは呆れた様に手をあげてその場から去った。
「報告を怠るなよ!」
その後ろ姿にザルナークがしっかりと念を押して言った。ケイトは聞こえていたが返事をすることなく部屋を出た。
「キング、JOKERとはまさか……」
「騒ぐなよ。まだ、誰を信用すべきかわからぬ」
「ええ。もちろん。あの日のことは……特級機密ですからね」




