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66.出撃、再び

66.出撃、再び



 ルイは自分のスピードの下に潜り込んで、カチャカチャと部品をいじる音を鳴らしていた。特段、ルイのスピードが何か不具合を起こしたわけではない。綺麗に乗って、綺麗に母船まで帰ってきた。だけど、ルイは自分の機体が決まったその日から、機体への愛情を注ぎ続けた。触れる、ということで。そして自分もまた、安心したかった。触れる、ということで。

「信用できないの?」

 ルイはその声がした方をみた。機体の下に潜っていたルイはその人物のブーツだけが見える。そして、その人物はしゃがみこんでルイと目を合わせた。

「好きなだけか」

 そう言うと、いつも通りの笑顔でにっこりと笑った。

「シスカ」

 ルイもまたにっこりと笑った。

「ほら、そろそろ終わりにしないと、スペードの出撃命令がそろそろ出るよ」

「ああ、もうそこまで来たのか」

 ルイはそれからしばらくまた音をカチャカチャと鳴らした後、「よし!」と機体をポン、と触り、やっとシスカの前に出てきた。

「安心するんだよね。昔からずっと、機械ばっかり触ってたんだ」

「ふーん、僕たちと一緒だね」

 工業地区出身のシスカは、アスレイのほうがなんでも目立ってしまうが、同じように機械には強かった。

「僕も工業地区に生まれればよかったかな。僕の育った地区じゃあ、変人扱いだったよ。僕って、ほら、あんまり得意じゃなくて……」

 ルイは言葉を濁らせる。シスカは相変わらずの笑顔だ。

「嘘ばっかり。僕より友達多いくせによく言うよ」

 シスカはそう言ってルイを肘でつついた。

「ああ、まあそうだよね。ジャスとミズに出会ってからは、忘れてたな……」

 ルイも思い出したように言った。「え?」とシスカが聞く。

「忘れてたな、捨てられたことなんて」

 ルイはボソっとそう呟いた。シスカは少し悲しそうに笑ったけれど、それだけだった。

「ああ、懐かしいなぁ」

 ルイはネスでの日々を思い返していた。

「ルイ! じじぃみたいなこと言うな! もうすぐ帰れるし、ついこの間のことじゃないか」

 シスカは声を大きくしてルイの目を覚ますように言う。ルイはその意図通りにパチっと目を見開いた。

「そうだった。早く連れ戻さないと」

 ルイは力強くシスカの目を見つめて言った。満足そうにシスカも頷く。

「シスカも、兄弟の手は離しちゃだめなんだよ」

 そんなルイの言葉に、シスカはルイの手を取った。ルイはちょっと顔を赤らめた。

「いや、僕が言ったのは、アスレイのことで……」

 と、なぜか焦ったようにルイは言う。

「みーんなの手を離さないようにしなくちゃね」

 惚れ惚れするように、清々しいシスカの顔は勇敢すぎてルイは少し妬けた。

「はあ、シスカはアスレイよりもあざといね」

 捻くれ者のルイの最後に出てきた言葉はこれだった。

「なんだよそれ!」

 よくわからないが、褒められたのかなんなのかわからないシスカはとりあえずそう言って笑った。


『総員 第2戦闘配置』

『総員 第2戦闘配置』


 そこで、スピーカーから全艦に響き渡るアラームが鳴った。

「おっとぉ、やっとか」

 なぜかシスカは待ってましたとばかりの反応だった。


「すぐに発進命令がくるぞ! 急いで仕上げて」

 まるで楽しいことをしに行くみたいだ。シスカの笑顔が無邪気すぎるから。ああ、ウマが合うのはなぜだろうと思っていたけど、簡単なことだった。ジャスと笑い方が似てるんだ。

「うん!」

 ルイは今一度機体の下に潜り込み、最終チェックを行う。空を、全速力で駆け抜ける。いつだって本気で命を乗せれるように。



 「あっれー? 早いね」

 ぞろぞろとスペードのカードたちが集まる。ミレーが背伸びをしながらルイとシスカに近づいていく。

「ああ、いよいよだな、ミレー」

 シスカが言った。

「うん、今回はシスカにべったりとくっついていくよ」

 ミレーがシスカの肩に手を置いて馴れ馴れしく言った。ミレーが可愛いことを忘れてしまう。男っぽくてバカっぽい雰囲気が顔の良さを台無しにしてる。

「ある程度の距離は欲しいな」

 シスカはそっとミレーとの距離を取った。

「ルイ、しばしのお別れだね」

 シスカはミレーを置いて、ルイの方を見る。ルイはスピードのチェックも完全に終えて満足気にしていた。これからだっていうのに、これで終わったかのような清々しい顔がおかしかった。

「うん、しばしの、お別れだね」

 ルイもシスカに向かってそう言った。

「無理しないで」

 ルイはそう付け足した。


「♠︎隊第1戦闘配置!」


 扉が勢いよく開いたと思ったら、ライラがそう声を上げながらツカツカと速歩きで入ってきた。

「怖っ」

 ミレーは今回ライラ隊ではないので緊張感に欠けていた。

「ねぇ、僕はライラ隊長でも兄さんでもないから、守ってあげられないんだよ?」

 シスカにしては珍しく怒ったようにミレーに言う。

「わかってるわよ」

 ミレーが少し落ち込んだ。それくらいがちょうどいい、とルイとシスカは思っていた。

「ルイ、今度はさ、ネスの大地で、一緒に何か作ろうか」

「え?」

「きっと、僕たち2人なら、色んな乗り物を発明できる気がして」

「もちろん」

 ルイはシスカの手を取った。

「もちろん! 一緒に戦うだけなんて悲しすぎるよ。一緒に遊ぼう。僕たち、友達なんだから」

 そしてルイとシスカはしっかりと抱き合った。なんだか永遠のお別れみたいだ。

「大げさじゃない?」

 それをじっと見つめて、ミレーは首を傾げていた。

「でもないぞ」

 横からバインズがスッと入ってきた。バインズの姿を見ると、なぜか思い出してしまう。

「そうだね」

 ミレーはアリスの姿を頭に思い浮かべる。



『ライラ隊長、総員第1戦闘配置です』

 ライラのカフスからアスレイの声が聞こえる。現♠︎のクイーンはアスレイだ。

『ああ、了解』




「♠︎隊、全員いるな。これより、第2次コウテン出撃に出る。目標はコウテンのキング。頭を叩く。コウテンの絶対的存在はキングだ。後はただの駒だ。キングを取ること、すなわちコウテンを取ること。余計なことは考えず、自分の役目を全うしろ。俺たちは♠︎だ。ネスの中で、いちばん速くて、強くなけりゃいけないんだ。俺たちが的確に動き、スペースシフターを城まで無事に誘導するぞ」

 ライラが少なくなった♠︎のカードに向かって言った。

「はっ!」

 力強い声が返ってくる。ライラは頼もしくなったもんだ、と素直に思った。

「バインズ、シスカと協力してキングに攻め入れよ」

 ライラがバインズの肩に手を置いて言う。その置かれた手に熱を感じ、バインズは「必ず!」と、ライラに敬礼した。


『アスレイ、最終的な判断は、レイスターとお前で決めてくれ。俺との連絡も途切れる可能性が高いからな』

『わかりました。出来るだけフォローしたいと思いますが、気をつけて』

 司令室に残るアスレイは静かに答える。そして、後ろを振り向く。

「何か言わなくていいんですか?」

 アスレイはそこに重苦しく佇む♠︎のキングを見た。

「いいんだ。始めてくれ」


『ライラ隊長、いつでもいいですよ』

 アスレイはGOサインを出した。



「分離ポイントにきたら合図する。お前らは俺についてこいよ」

 ルイとハルカナは「はっ!」と、ライラに敬礼した。


「♠︎隊、全機発進準備!」


 全員がスピードに乗り込む。もう一度、飛び立つ。ネスの大地から飛び出した時とは心持ちがだいぶ違う。希望が少し減った。この短時間で急にみんな大人になった。「死」が隣にある。それがわかった。また全員そろってネスで笑い合う。それは不可能なことになった。だけど、生きなくては。積極的に生きなければ。油断をすればすぐに自分の命など簡単に撃ち落とされてしまう現実を知ったから。

 ♠︎のカードは強くなった。

「もう、減って欲しくない」

 ぼそ、と言ったのはバインズだった。


「なーんか、忘れてないかなぁ?」

 張り詰めた空気の中でミレーが言う。エンジンをかけてフォンフォン……と、宙に浮いている機体。

「おい、お前いい加減にしろよ」

 バインズがイラッとする。

「違うよ、なんか忘れてるって! 飛び立ってからじゃ遅いって!」

「なんだよ?」

「なーんか、足りないって」

「あ?」

「少ないよね」

「ランドバーグならいるぞ。大丈夫なのか知らねぇけど」

「ちゃんといるよ!」

 恐ろしく静かだったランドバーグはちゃんとバインズの後ろについていた。

「ほら! あのときと一緒!」

 ミレーが何かを思い出し、それを口にしようとした瞬間、


「全機発進!」


 ライラからの号令が発せられた。全員、条件反射で操縦桿をグッと握りしめた。ミレーの言葉は気になるが、とりあえず、話は中断され、一機も遅れることなく綺麗に空へと飛び立った。







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