61.心の頼み
61.心の頼み
「スペースシフター発進準備!」
レイスターの声が高らかに響き渡る。それはあの時、未来に挑戦しようとネスから飛び立った時と同じく、若い戦士たちの胸を熱くさせ、悪い薬でも飲んだかのような、万能感と高揚感を同時に与えるものだった。
まるで、勝ち戦にいくような響き。しかし、実際は、五分五分だろうな、と、レイスターの隣に座るライラは思っていた。
五分あれば十分。
「ライラ、ちゃんと自分の持ち場に行け」
レイスターは自分の隣に悠々と座っているライラに向かって言った。ライラはなぜそんなことを言われたのかわからなかった。
「ミズがいないんだから、いいだろ」
「お前は、スペードのエースなんだぞ」
レイスターは今一度ライラにその場を退くように言った。
「何を今更」
「ライラ隊長、俺がそこに座ってこの船を守りますから」
そこにアスレイがやって来た。
「ほら、どけ、ライラ」
「そういうことなら、仕方ない」
ライラはアスレイの顔を見て、やっと席を立つことにした。どこかしら寂しそうに席を立つ。
「ライラ、もうお前しかいないんだからな」
「何言ってるんだ? もう諦めたのかよ。あの2人のこと。アスリーンが泣くぞ」
ライラは軽く言った。が、それは軽口で済まされる発言ではなかった。
「それはお前だろ」
? ライラの頭に疑問符が浮かぶ。そしてその言葉がスペースシフターの司令室にピリッとした空気を発生させた。
「何を……」言ってるんだ?
ライラは最後まで喋らせてもらえなかった。遮るようにしてレイスターの声が響く。
「私の息子たちが生きていると、はっきり言え!」
レイスターはライラの胸ぐらを掴んだ。
「総長!!」
いつも冷静なアスレイもさすがに声をあげ、止めに入る。その場にいるハートたち機械班は、ただ動きを止め、その様子を見ていた。操縦桿を握るダリアは、少しばかり浮ついた興味を顔に表してはいるが、緊張感は持っていた。
「なんだと?」
ライラはレイスターに対して怒りを持った。それはライラ自身にとっても意外なことだった。
「実際のところ、どう思ってるんだお前は」
レイスターの腕を掴んで、ライラから引き離そうとしたアスレイだったが、レイスターの腕を触った瞬間、これは無理だと思った。ジャスティーとミズの想いの分だけ強い。と、したならば、この腕を振り払うことなど誰にもできない。
「どうって、言っただろ、ルイたちの目測で、地下にいる……」
「お前は、そこにミズがいると思うか?」
「……かもな」
「信じないのか?」
「信じる? それに意味があるとは思わないが」
レイスターの瞳は燃えているが、ライラの瞳は冷え切ったものだった。
「俺は、貴方を守ることは仕事だとは思ってるが、それだけだ」
レイスターに向かって堂々とライラは言った。
レイスターはその言葉に、ライラの悲しみの影を感じて咄嗟に手を放した。同時に、ライラに対する罪悪感も生まれた。私がライラに頼む義理がどこにある?
「私よりも……」
「レイスター! 命令でなきゃ俺は動かないぞ!」
今度はライラが声を荒げた。
「さっさと命令しろよ! キングよりも、2人の救出を優先しろってな!」
ライラが誘導したが、レイスターからその言葉は出なかった。
「さっさとしろよ。そう言うならば、俺は任務を遂行するぜ」
「命令はしない」
レイスターは先程とはうってかわって呟くように言った。ライラから視線まで逸らした。
「そうだろうよ。安心したぜ」
総長に対してなんて口の利き方だ、という疑問は誰も持つ余裕はなかった。
「……だ」
さらに小さな声がした。
「あ?」
ライラもまたレイスターから体を背け、その場から立ち去ろうとした時に聞こえたその囁きに振り返る。
「頼みだ」
ライラは唇を噛んだ。
そして、そのまま勢いよくレイスターに背を向けて、司令室から出て行った。
「総長、大丈夫ですか?」
張り詰めていた空気はライラの退出と共に緩やかになる。アスレイは下を向いたままのレイスターを気にかけた。
「はあ!」
レイスターは大きなため息と共に顔を上げる。なぜかそこには清々しさがあった。アスレイには理解できない。
「おい! 発進準備はいいのか!」
そして急にハートに向かってそう言った。
「えっ! えぇえ! はい! ちょっとお待ちを!」
ハートの止まっていた手が動き出す。
「発進準備と言ったのが聞こえなかったのか?」
「すっ、すみません!」
「あんなに声高々と言ったのに。なぁ、アスレイ。第一拠点まで、お前に指揮を任せるよ」
レイスターはにっこりと笑って言った。
「はい」
アスレイはそう答える以外なかった。
まだ言うのか。
ライラは♠︎隊の待機場所までの廊下を歩きながら、沸々と湧き上がる怒りをどうにか払拭しようと彼なりに努力はしていた。
レイスターはここに来てからずっと、あいつらの心配ばかり。そして当の本人たちは揃いも揃って母船に帰ってこないというバカ共だ。まったく、生きてたら殺してやる。
「あ、隊長〜! 班分けの話なんですがぁ」
♠︎の控え室でいち早くライラを見つけたミレーは損な役回りを受けるハメになった。
「なんだって!?」
理不尽なライラの超不機嫌な声で場が凍りついた。
「いえ、なんでもありませぇ〜ん」
「なんでもなくなくて!」
こんな時に強いのはルイだった。
「隊長、僕とハルカナは地下の方に探りを入れたいと思います」
ルイの申し出を、軽くあしらうように無言のまま、ライラは無機質に置かれてある椅子に腰掛けた。しばしの沈黙が、ルイの額から汗を流させた。
「わかった」
短い返事が帰ってくる。ルイとハルカナの表情が晴れる。
「俺もそっちに行く」
瞬く間にルイとハルカナの表情が曇った。
「それじゃあ主攻は誰がっ!」
バインズがすかさず叫んだ。
「お前と」
そしてすかさずライラからの返事が返ってくる。バインズの顔を指差すライラ。
「お前」
「えっ! 僕?」
油断していたシスカは急に話の中心に引きずり出された。
「傍観するなよ。お前ら2人に主攻は任せる。俺たちは隠密に内部から中枢を狙う。どちらが先に目的を果たすのか楽しみだな」
「ライラ隊長ご乱心……何かあったのかな?」
ミレーにも心配される始末だった。
「心配だなぁ……」
ルイもそう呟いたが、ハルカナの切り替えは早かった。
「ライラ隊長、よろしくお願いします!!」
深々とハルカナは頭を下げた。堂々と、ジャスティーを救ってみせよう、ハルカナはそう思った。ライラの腕を上手く利用しなくては。
「勘違いするなよ」
その声はハルカナの頭上で冷たく響いた。




