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59.蛮族の少年(2)

59.蛮族の少年(2)




「なぁ、お前、なんで1人で出てきたんだ?」

ジャスティーは少年と手を繋いだまま、ゆっくりと茂みの影を歩いていた。

「すげぇ静かだよな、本当にこの先であってるんだよな? お前の家」

「……あってる。けど、あいつ、何してるんだ?」

少年は上空を見上げる。

「……さあ」

俺の捜索?って訳じゃないよな。ジャスティーは思ったが、まだ誰にも自分の行動はバレていないはずだと思った。それに、一機だけっていうのも変だ。

何かを、念のために確認しにきた、って感じだ。つまり、蛮族の森が静かであれば、そろそろ帰還するはずだ。

「お前、人間じゃないのか?」

そこで少年が突飛な質問をしてきた。ジャスティーは上空への視線を少年へと向ける。

「は? 何言ってるんだ、人間に決まってるだろ?」

そして怪訝な表情をしたまま少年の質問に答えた。

「人間は、人間が敵なのか?」

「いまいち質問がわかんねぇよ」

「あいつらは、人間だ。俺たちを殺す、人間だ」

少年の目は頭上を飛ぶコウテンの戦闘機を睨みつけていた。

「え?」

「でも、お前はあいつらの敵だと言った。だから、一緒にいるだけだ」

「何言ってるんだ?」

ジャスティーは少年の言葉にきょとん、とした表情をした。少年は少し苛立った。

「お前も、人間じゃないか」

ジャスティーはそう言った。

今度はその言葉を聞いた少年がきょとん、とした顔をした。

「俺が、人間?」

「俺とお前、何が違うんだ?」

ジャスティーはそう言うと、少年から視線を上空へと戻した。

少年は、目をまん丸くしてジャスティーを見たが、ジャスティーとは目が合わなかった。

「にしても何してるんだ? ただのパトロールにしては、長すぎるぜ」




―蛮族の森上空―



「はーあ、無駄足じゃない。やっぱり静か。静かすぎるほど静か」

ケイトは、白の戦闘機に乗って蛮族の森を上空をずっと旋回していた。無駄足だとボヤくが、ひとつの異常でも感じ取ればすぐに特攻しようと思っていた。静かすぎるほど静かってことは、いつもと違うってこと。

「また一発撃っとく? でもさすがに私1人じゃあ、白の団長といえどねぇ」

ケイトはもう帰ってもいいと思っていたが、何も収穫がないことが嫌だった。異常なかった、と、もう一度キングに言うことがなぜか自分の無能さを報告することのように思えた。蛮族との戦線は、私のテリトリーだ。今回のコウテン城襲撃と、蛮族に何かしらの繋がりがあった時、それは私のミスになる。それは許せない。私は、蛮族の行動を一番熟知していなければいけないのだから。それが、白の騎士団の務めだ。

しかし、最近じゃめっきり、おとなしいのも事実。

昔は、もっと酷かったと聞く。確かに、私たちの出番も、もう少し多かった。実戦を経験していないポーンが多すぎたことも、今回の敗因でもあるわ。

「まだ、負けたわけじゃないけど」

そして1つため息をつく。帰還しよう。異常なほど静かだったと、平常ではなく異常だったと伝えよう。そう思った。

「でも、とりあえず私が来たってことだけは、伝えておきましょうか」

ケイトは薄っすらと笑って、軽く一発森の木に焦げをつけようと思っただけだった。機体はコウテン城へと向きを変え、振り向きざま印を発射した、が、そこで報告に値する出来事が起こった。

バチん。

ケイトの印は蛮族の森の木へと刻まれずに跳ね返される。

「あれは……!」

ケイトには見覚えがある。

「ネスの蝿が!」





「あー、やっべ、急に撃ってくるんだもんな! 走るぞ!」

ジャスティーはネスのペンライトで青いバリアを張った。ケイトの弾を吸い込む。

「早く突っ走れ!」

ジャスティーは叫ぶ。

「お前はっ!?」

少年は駆け出そうとしたが、ジャスティーの足が止まるのを確認すると自分も足を止めた。

「こいつを森の中までいかせるわけにはいかねぇだろ」

「何言って……」

俺より大きいだけで、まだ子どもじゃないか、少年は思った。

「父ちゃんに会えなかったら許さねぇからな! さっさと走れ!」

ジャスティーは強く叫ぶ。

「安心しろ、初めてじゃねぇからな、こいつを撃ち墜とすのは」

その言葉を聞くと、少年は唇を噛み締めてジャスティーに背を向け走り出した。


父さん! ごめんなさい。勝手に外に出たから、こんなことになった。

だけど、助けてほしい。僕のせいで仲間が死んじゃうかもしれない! 少年は驚くほどの駿足で森を駆けていった。


「ふう、行ったか」

俺、あいつからかっこいいお兄ちゃんって思われるかな。なあ、ミズ。ジャスティーはミズを思ってた。だけど、なんかよくわかんねぇけど、俺のせいでこいつが怒ってる気がする。余計なことしたかな、俺。ジャスティーは上空で唸る機体を見ていた。

せっかくここまで来たのに。この森から離れるしかない。


「まさか一匹とはね。ちょうどいいわ。捕まえて拷問してやる!」

ケイトの目が燃える。操縦桿を握りつぶしそうな勢いだ。そして砲撃のスイッチを押し続けた。


「うわぁっ! やっぱり分が悪すぎるよ!」

上空から雨のように降り注ぐ銃弾。ジャスティーはケイトがまさか自分を捕まえようと思っているだなんて思わなかった。殺しにきている。

「くそぉっ! スピードがあれば戦えるのにぃ!」

ジャスティーは逃げるしかない。できる限り、ここから離れるんだ!

ジャスティーはペンライトの青い傘でなんとかケイトの攻撃から身を守っていたが、それにも限界があった。ビリッという電子の音が聞こえ、青いバリアは突破される。

ジャスティーの五感は研ぎ澄まされ、それをスローモーションで見ることができた。ああ、これで終わる。もう、俺を守るものがなくなっちまう。

ケイトは低空飛行でジャスティーにとどめを刺そうとする。嬉しさのあまり、顔がにやける。

その時、

『ヴォオオオォォオオオオ!!!!』


猛々しい咆哮が響いた。ジャスティーはあまりの声の大きさに耳を咄嗟に庇う。

なんだっ!?

同時にバリアも完全に消え、地面に倒れこむ形となった。


「くそったれが……。 今出てくるのかよ!」

ケイトの口もとからは笑みが消え、一切の余裕が吹っ飛んだ。

「しかも……、王が自らね」



ジャスティーは耳を塞ぎ、倒れ込んだまま、ケイトの機体を目で追う。ジャスティーから照準を外し、それが咆哮をあげたであろう人物へと向かう。が、瞬時に機体を急上昇させた。

その瞬間、エメラルドグリーンの光が空を切った。そして、その光の道筋がくっきりと示される。雑草一つ残すことなく綺麗な更地ができあがっていた。


白い戦闘機はそのまま蛮族の森から去って行った。


「ふぅ……」

ジャスティーはようやく息をつくことができた。今回は本当に危なかった。

そして立ち上がった時、全身から鳥肌が総立ちした。

ゆっくりと近づいてくる巨体。逃げる時間もあったが、体を動かせる神経が麻痺していた。

「お前は誰だ?」

ジャスティーを覗き込むその目は赤を通り越して、黒くみえる。しかし、確かに赤い光が瞳の中で蠢いていた。ジャスティーの同じく赤い瞳もゆらゆら揺れる。

「ん?」

その瞳の中に何か見つけたのか、全身から出していた殺気を解いた。


「はあ、はあ、はぁ……」

ジャスティーは息を乱されつつも、解放された体で背中に抱えていた剣の柄を握った。

「お前……やはり人間か!?」


「お兄ちゃん!」


そのとき聞こえた声が、ジャスティーの目を覚まさせた。







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