50.終わりの余韻
EP2 ジャスティーとミズ から始まります。
シリーズものです。
Space Shifter Spade
Ep.4 jokerの帰還
50.終わりの余韻
ジャスティーは森の中を歩いていた。どこからが蛮族の領域に入るのかはわからない。ただ、暫く歩いていると、まるでここはネスではないか、という感覚に何度も陥った。懐かしくもある場所。なぜだろう? ネス、愛おしき我が星を想っても、ジャスティーは不安だった。ネスとコウテンは、なにか繋がりがあるみたいだ。それに、俺はきっと、この土地と無関係じゃないのかもしれない。本当に……。
イリスが恐れていた『バンゾク』。一体なんなんだ? 俺は一体なんなんだろう? 思い出せないけど……、イリスを信じるなら、俺は確かに、『力』を使ったんだ。『バンゾク』特有の。
「あー! だめだだめだ!」
ジャスティーは俯いていた顔をあげ、自分の頭を思い切り殴った。
「いてぇ……」
思い切り殴ると、当然痛かった。それにフッと笑ってしまう。
「悩んでもしょうがねぇ。前に進んでるんだ。ミズだって許してくれるさ」
ジャスティーは気持ちを切り替えて進む。アリス、イリス。俺にできることは、こうやって進んで行くことだけだよな。正しいことなんて、俺にできるかわからないけど、正しいと思うことを追求していくことをやめたらだめだ。納得できることをしなければだめだ。自分自身の存在を、ちゃんと自分が認識できないとだめだ。胸を張って、俺は俺だと、自己を確立できないと、中途半端な行動しかできないと思うから。
だけど、なんだかレイスターとアスリーンには悪い気がしてならなかった。ジャスティーは心の底ではわかっていた。俺は、自分の出生の謎を探しているって。
―スペースシフター―
ミザール渓谷。地図にはそうあった。山々に囲まれ、常に光の届かない場所だった。そこは隠れるのにはうってつけの場所だったし、近くに川も流れていた。暫く時を凌げそうだ。スペースシフターはそこに着陸した。
「みんなは暫く休んでいてくれ。ダリア、ハート。何かあった時に備えて発進に支障がないかのチェックだけはしといてくれ」
レイスターはそう言った。
「わかりました」
力なくハートは答える。みんな疲れきっていた。興奮の熱が覚めた途端、体が無理をしていたことを悟る。
「ライラ」
「ああ」
レイスターはライラを呼んで指令台から離れた。それに続いてライラも席を立つ。
「……ミズさん、どこいったんでしょうね」
レイスターとライラが部屋を出た後悲しげにハートは呟く。
「同じ星にいるんだからいいじゃないの。ほら、しゃんとして!」
ダリアは頼もしくもあった。
「何があった?」
レイスターは廊下に出るとすぐにライラに詰め寄った。胸ぐらまで掴みそうな勢いだ。
「おい、撤退は最善の策だって、合意したよな?」
ライラは怪訝な表情でレイスターを見る。
「わかってる! ちゃんと撤退しただろ? とりあえずの無事を確保した。だから、一体何が起こって、これから何をすればいいのか、それが早く知りたいんだ」
「とりあえずは、頭を冷やせ」
「だからっ……!」
「わかった。報告するぞ。♠はネスの軍隊の主力であろう部隊の隊長格を2人殺した。しかしキングの首をとることはできなかった。もう少しだった。もう少しで手が届く範囲までいけたんだ。だがそこで、お前の愚息が邪魔をした」
ライラは冷静に話しているつもりだったが段々と言葉に熱がこもってきていた。レイスターはそれに伴って冷静さを取り戻していくようだった。
「愚息……」
レイスターは呟く。
「お前の愚息は1人しかいないだろ?」
「私には2人息子がいるが」
「バカ息子だよ」
「……とにかく、会えたんだな」
ほっとするレイスターの表情にむっとするライラがいた。
「ああ。感動の再会だ。あとちょっとでキングの側近の部隊をやれるって時に、きれいに邪魔してきやがった」
「邪魔?」
「ああ……邪魔だ。コウテンの奴らを庇い、俺たちの戦闘をとめようと必死に叫んでたよ」
ライラはレイスターを見ることなく話す。
「なぜ……」
「なんて言ってたかな……。とにかく、あいつが戦わないから……、あいつを庇ってアリスが死んだんだ」
ライラはさらりと言ってのけたので、レイスターはいまいち実感が湧かなかった。想像することができなかった。その状況を。
「アリスが……死んだ」
だから、レイスターはただライラの言葉を反芻した。
「俺はいいんだよ。戦争してんだ。そりゃ誰も死なせたくはないが死人がでてしまうことにはある程度納得してる。自分だって死んでもいいさ。戦争をしてるんだからな。だけど、あれは許せなかった。間違ってたよ。あいつは、悪いが全くの腰ぬけ野郎だった」
レイスターは言い返すことができなかった。ここにミズがいないこともレイスターの情緒を乱す要因になっていた。
「それに……」
ライラは口ごもる。
「なんだ?」
「いや……」
「なんだよ? 今更隠すな、全部言え! 確かにバカ息子だろうが、アリスが命がけで守ったそのバカを、一体どういういきさつで置いてきたんだ!?」
言葉にすると、レイスターはやはりジャスの味方だった。何を聞いても。
ああ、やはり父親なんだな、とライラはなんとなくそう思った。
「……悪いが、説明のできないことが起きた。俺だって、あいつを怒鳴りつけてやりたかったさ。だけど、消えた」
ライラは言った。
「消えたよ。グリーンの光だ」
「何?」
「あいつが、あの爆発を起こした。見ただろ? レイスターも」
レイスターとライラは目を合わせる。説明できないことは、自分が理解できていないという証拠であり、もやのようなものが頭にかかってスッキリしない。
「とにかく、そこからはもう撤退するしかなかったんだ」
だから……。
「謝らなくていい」
レイスターはライラの言葉を待たずにそう言った。
「お前のことは信じてる。悪かった。すまなかった。きっと、バカ息子が悪いんだろう」
レイスターは本当にそう思っていた。ライラから体を背けた。レイスターの背中が悲しそうに見えたので、ライラも少し落ち込んでしまいそうだった。
「なぁ、でも俺がいちばんおかしいと思うのはさぁ」
その悲しそうな背中に向かってライラは言った。
「ミズの行動だよ」
読んで頂きありがとうございます。再開いたします。どうぞ、読み続けて頂きたい。書き続けます。