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ルヴィア文字⇒解読不能




 まあ、思い付いた所で本人に訊くことは出来る筈もないが。そんなこと訊くのが失礼過ぎることくらい、朔にも分かる。

 だからここから観察する事で見極めてやる、と朔はデココに視線を集中させる。

 陰部はよく見えないから当てにならない。胸もデココは実にペタンコだ。ぶっちゃけ、オスでもおかしくない。という事は、自然と決め手は顔と声になってくる。

 まず、声は間違いなく少女のモノだ。高くて綺麗で可愛らしい。

 では顔は、というとこれも非常に少女っぽい。但し髪は短めだ。ボーイッシュな髪型をしている。

 よし、と朔は観察を終えて、考察に入る。今までの情報をまとめると、だ。


 結論:多分メス。


「ねえ」

「ひゃっ!?」

「あ、足は止めないで……歩いて……方向は指示するから」


 突然耳元で囁かれて、朔はいたく驚いた。反射的に肩を見ると、そこにはデココが腰掛けていた。慌てて前方を見ると、そこには誰もいなかった。ついさっきまでデココはそこを歩いていた筈なのに。

 つまりは一瞬の内にデココは朔の肩に飛び乗ったのだ。どんな速度だ、と朔は舌を巻く。全く気付かなかった。


「さっきからボーッとボクを見詰めてさ。一体どうしたの?」

「い、いや、なんでも……」

「ふーん……」


 じっと朔の顔を睨み付けてくるデココ。怪しいなぁ、とその視線が語っている。


「まぁ、良いや。でも、ボクは、というかボクらスライムは姿は自由に変えられるからさ。外見で性別を判断するのは無理だって言っとくよ」

(げっ! バレてる……!?)

「一応ボクらの種族は性別を持ってるよ。さっき言った通り、姿は自由だからあまり関係無いケドね」


 朔は小さく溜め息を吐いた。気付かれるほど露骨にデココを見詰めてた筈はないんだが、加減を間違えたかな。


「…………じゃあ率直に。デココはどっちだ?」

「そんなに真剣な顔で訊かなくても、隠す意味も無いから言うよ。ボクはメスだよー」

「想像通りか……」

「あ、そこ、右。それにしても、急に性別なんて訊いて、どうしたの? あ、ボクに恋をしたとか」

「…………」

「やめて! そんな冷たい目でボクを見ないで!」

「…………」

「やめてええええええ! ……って、あ……見えてきた」


 言われて前方を見ると、確かに武器屋らしき看板が道に置いてある。文字が読めないのは相変わらずだが、看板自体が何となく剣のような形をしているので、朔にも何となく分かった。



   ………………



 店内には所狭しと色々な凶器が並べられていた。ダガーやロングソード、ロッドなんて基本なモノから、グラディウスやパルチザン、ワンダーワンドなんて中世の武器もある。

 もっとも、それは地球における中世の武器なのであって、また、地球における名称なのであって、この世界でそれらをグラディウスと呼ぶのか、中世の武器なのか、そこは朔には分からない所だった。

 と、ここで、朔はふと思い出した。


「そういやさ、デココ」

「はい?」

「俺にナイフを突き付けていたゴブリンが言ってたんだよ……『お前、人間。武器出せ』って」


 そして朔は一部始終を聞かせた。デココはなんだ、そんなことか、と言って、


「そいつらが言ってたのは魔法武器の事だよ。森を歩いてる人間は確かに、みんな魔法武器を持つモノだからね」


 例えば、とデココは近くにあった青い剣を手に取った。刃が青く透き通っていて、とても綺麗だ。


「魔法武器の中では、こういう魔剣が一番ポピュラーだね。ダメージに属性を付加したり、攻撃時に魔法が自動的に魔力不要で発動されたり、後は使用者に特殊な力を付加してくれたりね」

「じゃあ、俺がそれを持てば?」

「……そうだね。使えるよ、魔法」

「マジで!?」


 朔の目がキラキラと輝く。憧れの魔法を使う方法。こんなに近くにあったなんて。正に暗闇に射し込む一条の光を見たような気分だ。

 魔剣に手を伸ばす朔。しかし、デココはその手をぱしん、と弾いた。そして魔剣を魔法で朔の手が届かない所に纏めて移動させた。

 そしてデココは冷たく言い放つ。


「ただね、ボクは絶対にキミに魔剣を持たせないからね」


 その目が本気だと告げている。デココは本気で、朔から一条の光を奪い取ろうとしている。

 怒りや驚きよりも戸惑いで固まってしまう朔。デココはそんな朔を真っ直ぐに見詰めて、


「そんな悲しそうな顔をしないでよ。別に意地悪したいんじゃないんだケド。サクを思うからこそなんだよ」

「……だったら持たせてくれよ、使わせてくれよ! 俺が魔法使いたいのは分かってるんだろ!?」

「この方法が正しい方法なら、最初にサクに『なんか方法はないか』なんて訊かれた時にとっくに魔剣を持てば、って答えているさ。つまり、正しくないんだよ」

「正しくないって何が!」

「魔力の体内運搬。及び、その注入」

「……?」

「前に言ったでしょ。『魔力回路』の問題……って」


 魔力回路。

 それは血管のように全身の隅々まで巡る管のようなモノだ。血管と違う点が有るとすれば、その管は血を通すものではない。魔力を通すためのものであると云う点だ。

 体内で練られた魔力はその管を通して魔法使用部分或いは魔法武器装着部分に運ばれて、そうして具体的な『力』に変換される。この変換に使われる器官も、魔力回路の一部だ。

 魔法を使用出来る種族はこの魔力回路を生まれつき持っている。寧ろ、魔力回路を持っているから魔法が使用出来る、と言った方が正確かもしれない。


「ところがサクは、この魔力回路を持っていない。そんな状況で、使用者の意思に関わらずに魔法が発動するような剣を持ったらどうなるかって事だよ」


 魔剣が魔法を発動する、という表現は実は正確ではない。

 魔剣は使用者の魔力を使って使用者に強制的に魔法を発動させている。或いは魔力が不要な剣でも、人間の魔力回路に剣が己の魔力を流し込み、魔剣が『人間』という道具に魔法を発動させている。

 ここで疑問に思う人はいないだろうか。『そんな面倒な事をせずとも、魔剣は魔方陣のように自立作動出来ないのか』、と。答えはNOだ。

 魔方陣と魔剣は違う。魔方陣は対称性や方角、高低、象徴物すらも魔法に組み込むから自立作動が可能なのであって、どこでも使えなければいけない魔剣は自立作動など到底無理だ。

 勿論、魔剣以外の魔法武器全てにそれは通じる。魔法武器は魔力回路が無いと動かすことが出来ない。

 だが。魔力回路を持たないモノが魔法武器を持ったらどうなるのか。答えは実に簡単だ。


 死ぬ。


 ただそれだけだ。

 魔力回路が無いのに魔法武器を無理に使用すると、まず人間から魔力を吸うタイプの武器は動かない。人間に魔力を通すタイプの武器は魔力を無理矢理身体に通そうとする。するとその場合、枝分かれしながらも全身に繋がっている血管に魔力が流入する。

 魔力は強引に血管を通行して、結果として血管を内からズタズタに引き裂く。最悪、脳の血管や心臓が破裂する。

 事実、魔力回路が無いのに魔法武器を無理に持って、内出血で皮膚が青黒く変色した状態で死んでいった人間やモンスターは一杯いる。

 更に、魔力は魔力回路を持たない人間にとっては基本的に猛毒だ。エネルギー量が大きすぎて体内に抑えきれず、身体の一部が変形を始めたり、爆散したりする。


「だからボクは絶対にサクに魔法武器を使わせない。キミがいくら魔法が使いたくても、そしてボクがいくらそれを叶えてあげたくても、この方法は間違ってる。これは無謀なんてもんじゃない。無意味なんだよ」

「ッ……!」


 目の前には魔法を撃てる武器が置いてある。だが、それを使えば死ぬという。

 欲と生。正に二律背反。どちらかを欲しがれば、どちらかが叶わない。


「クソッ!」


 朔はくるりと踵を返すと、扉を押し開けて店の外に出ていった。


「……それで良いんだよ、サク」



 ◇◇◇



『こちら、A142。標的を発見。灰色のローブを頭から被っているのを確認した』


 城内でイライラとしていたE01にそんな連絡が入ってきた。

 正確にはE01の近くに居た通信術士の通信用水晶に入ってきた連絡だが、E01は連絡内容を聞くや否や、通信術士から水晶を奪い取った。


「! 本当か!?」

『ええ。現在、B58、H77と共に追尾中です』

「よし。出来るだけ周囲に人気が無い状況下で確保。場合によっては魔法で眠らせても構わない」

『了解。順次、行動を開始します』


 ぶちっ、と通信が途切れる。

 安心したような、怒りが喜びに変わったような、とにかく凄まじく嬉しそうな顔をするE01。そんなE01に、水晶を奪われた通信術士が声を掛けた。


「確か、A142達は……」

「……! ああ。近くの小さな町に向かわせた筈だ。だからチーム人数も少なくした……」


 そう言うとE01は地図をばさっと広げた。90に分割されたチームのそれぞれの行き先が記してある。

 E01は舐めるように地図を見て、暫くしてから人差し指でとある場所を指差した。


「ここだ」


 そこには町の名前が書いてある。通信術士がへぇ、と驚いたような、感心したような声をあげた。


「第三区第二居住地・フスト……か」



 ◆◆◇



 朔が武器店の前で膝を抱えて座り込んでいると、デココが出てきた。


「……」

「絶望の淵にいる人ってこんな目をするのカナ。まあとりあえず、はいこれ」

「……?」

「ロングソードって呼ばれる、ただの鉄剣だよ。でも攻撃力・耐久力・操作性のバランスが良い武器だから、持っといた方が良いと思う」

「ああ……」


 朔はロングソードを受けとると、その鞘についている金具とベルトの金具とを接続した。ズシリと重いモノが腰にぶら下がる。

 そんな朔をみかねたのか、デココがフォローしようと口を開く。


「そんなに落ち込まないでさ。いざとなったら、ボクが魔法……」

「……しっ!」


 しかしデココの言葉の途中で、いきなり朔がそれを遮った。ピクッ、と震えたかと思うと、右手を耳に当てて後方を振り返る朔。


「ど……どしたの?」


 そのデココの問いに朔は答えず、代わりにどこかへ向けて突然走り出した。

 慌て、そのあとを追うデココ。


「え、ちょっと! どこ行くの!」

「……聞こえた」

「え……」


 朔は通りを走りながら、叫ぶように答えた。


「叫び声が、聞こえた!」




一部間違った知識あるかも。無いかも。確認しないのは、どうせ誰も読んでいないだろうから。

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