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∴異世界、転生

最初こそ固めの文章ですが、多分後からどんどん軽くなります。

サブタイトルは毎回数学記号入れますわー



 その日、彼の部屋は崩壊した。


 扇風機の羽根が空気を掻き乱すように、世界がいきなり大きく、靡くように歪む。

 猥雑に屈曲した空間は、最早人的に支配出来る領域を越えた。物理的な法則を越えた捻転がそこかしこで乱発し、色彩は非科学的な変化を魅せた。

 いきなり、ぐぱっ、と机の上に真っ白な口が開く。白い穴は次の瞬間には黒く変色しており、そして嫌な感じに大きくなった。丁度人間の輪切り位の直径に。


 しかし、突如としてその災は終わりを告げる。

 というのも、黒い穴が突然縮んだからだ。まるで、風船から突然、空気が抜けるように。

 そして、あれだけ歪んでいた部屋も、その内部も、すぐに完全に元に戻った。

 あれだけ掻き乱された筈なのに。

 部屋には再び平穏が訪れる。


 天井から静かに垂れる縄――先端は輪っかになっている――すら、その平穏を享受していた。

 その輪っかに誰の首も嵌まっていないことから、この物語は始まる。


 これは、偶然の物語。




 ◆◇◆




 果たして、偶然の中に必然が介入する余地は0%なのだろうか。

 或いは、偶然とは既に必然が介入した後の現象なのかも知れない。

 ――なんて、岡山朔は夢の中で静かに考えていた。……こんな無意味な事を夢に見る者が普通な訳は無いことなど、言うまでもない。


「むにゃ……王の左手……漆喰の剣……」


 漆喰の剣。何かの儀式にでも使うのだろうか。朔の寝言には彼の趣味が完全に現れている。


「む……にゃ、あ」


 ごろり、と寝返りを打つ朔。周囲の喧騒のせいもあって、その意識は徐々に覚醒しようとしていた。

 軈て、いつからか起きていた、頭を締め付けるような痛みがその眠りに終止符を打った。


「あー……ふぁ、あいててて……」


 目を閉じたまま欠伸をしようとした朔は、頭の痛みに小さく顔をしかめる。

 既に意識は完全に覚醒している。朔は小さく唸りながら、目を開けた。

 そして。


 大きな、くりっとした目。小さく尖った鼻。大きく裂けた口。そこから覗くギザギザの牙。細く突出した耳。耳には、薄汚れた骨のピアスが付いている。そして、しわくちゃの皮。


 そんな醜悪なモノが、朔の視界を支配していた。


「……え」


 なんだこれ、と寝起きの回転が悪い頭で考える。目の前に横に広がる黄色い歯と歯の隙間から漂う臭いが、酷く堪えた。

 人間か? いや違う、こんな奴が存在する訳がない。それは別に、その顔面偏差値の問題ではない。パーツが人間としては有り得ないのだ。

 ならば、何か人間に似た……例えば、猿のような動物か。朔はすぐにそれも否定した。有り得ない。猿がピアスをつけるなんて、聞いたことがない。

 人形か、ぬいぐるみ? しかし、その目は確かに生きていると主張している。何より、こんな卑猥な人形を作るヤツはセンスがぶっ飛んでいるだろう。口臭までオプションとしてつけるなら、余程良い趣味をしているに違いない。

 だが、それでは。この目の前にあるモノはなんだと云うのだろうか。朔をじっと見つめているコイツは。

 と、いきなり、その猥褻な顔面は朔を覗き込むのを止めた。視界が急に開けて、緑色が飛び込んでくる。

 それは、木々の緑。


(な、なんだ? 森?)


 異常事態を感じ取り、慌て上体を起こそうとする朔。しかし、起こしきる前に何かに後ろから掴まれて、そのまま地面に押し倒された。


「!?」


 再び仰向けになりながらも、目を見開いて驚く朔。

 だが、彼が驚いたのは倒された事にではない。その押し倒される寸前に、視界の端に映ったモノに、だ。

 人型なそれは、しかし人とは程遠い。湾曲した背骨と、ガリガリに痩せきっている褐色の手足。紫と青の服に身を包み、丁寧に帽子を被っているそれは、人間より遥かに背が低い。……おおよそ、100cm程度。

 そして朔は、これとよく似た生物を知っている。と言っても、それを実際に見たことはないし、見ることも出来ない。

 ……と、思っていた。今までは。


 それは、空想世界の住人。ゴブリン(小鬼)である。



   ………………



 ゴブリンに捕らえられた。その、本当に非現実的な事実が朔の脳内を蝕んだ。

 状況を整理しよう、と朔は考える。

 現在、自分はゴブリンに捕らえられている。周囲の声の数から判断するに、三匹ほど。場所は森の中、体勢は仰向け。

 念の為、と右頬を強くつねってみる。普通に痛い。

 そして……、と朔はその右手をそのまま自分の喉の辺りに手を当てた。


(いや……)


 今はそれを考える場合ではないだろう、と結論づける。まずはこの事態から逃れる努力をしなければ。

 まず、ここはどこだ? 答えは出ない。

 いや、出る。ここは森だ。でも、それだけだ。それから先が無い。状況解決に繋がる手掛かりが全く無い。

 だが、ただひとつ分かることもある。

 恐らく、恐らくだが……ここは、地球上ではない。

 かなり馬鹿げた話だし、正に夢物語的でもあるのだが、しかしながら小鬼などを見てしまってはその結論を下さざるを得ない……と朔は思案する。

 ――まあ確かに、小鬼がロボットか何かかもしれないのだが、それはそれで製作者の意図が知れない。

 と、いうか。こんな変なサプライズを用意するような精神と技術を持った友達は朔にはいない。

 ギャアギャアと甲高いわめき声が耳に障る。寝ているときの喧騒はきっとこれだったんだろう、と朔は適当に検討をつけた。

 軈て、三匹の内の一匹がテトテトと朔に近付いてくると、素早く朔の喉元にナイフを当てた。

 朔の背中に、さっと冷たいモノが走る。


『グギャ。ダセ……』

「……出せ? 何を……」

『トボケル……ナ……ギャア、オマエ……ヒト……ブ、キ……ワタセ』

「武器?」


 なんだコイツ。武器? お前さんが今俺の喉に押し当てているのは武器ではないんですかね……。

 朔は心の中で毒付き、しかしゆっくりと首を横に振った。


「無いよ。お前が言う武器が何なのかは分からないが……、そもそもその類いのモノは持ち合わせない」

『ウ……ソ』

「嘘? 何を根拠に……」

『コ……ンキョ? キマッ……テル……』


 そこで朔の上体は突然起こされた。再び目を見開いて驚く朔。両脇の辺りに圧迫感が有る。見れば、両脇共に別のゴブリンが朔の肩を抱え込むように支えていた。

 視界に映り込む緑が眩しい。地には背丈の低い草が広がっていて、天井は背の高い木が覆い隠していた。


『オマエ……ニンゲ……ン!』


 喉元からナイフが離されるのが、喉への妙な圧迫感の消滅で分かった。

 朔が視線を脇から正面のゴブリンに戻すと、そのゴブリンはナイフを逆手でしっかりと握り締め振りかぶり、左足を前に出し右足を後ろに下げて踏ん張る姿勢を取っていた。

 そして、朔はそのゴブリンの視線からその狙いも瞬時に読み取った。

 それは、朔の……左目。


「はっ!? ちょっ、待て!」


 朔の制止も効果無く、容赦無く降り下ろされるナイフ。

 声にならない悲鳴をあげながら、目をギュッと閉じる朔。目蓋程度では当然なんの防御にもならないが、それでも目を閉じずにはいられなかった。反射的な問題だ。

 ドズッ! と嫌な音がする。それはごくごく小さな音で有るはずだが、不思議と朔には良く聞こえた。

 同時に、朔は叫ぶことを一旦止めた。これから来るのは激痛だろう。目を抉り出された経験など勿論ないが、それくらいは予想できる。

 或いは、あまりの痛み故に多少痛みが訪れるのが遅れるかもしれない。

 何にせよ痛みが訪れたその時に、大きな声で叫べるように。

 可笑しな話だが、朔の心は今、完全に冷静だった。冴えきっていた。処理仕切れない大きさの事象が次々に押し寄せた為、脳の処理機能がパンクしてしまったんだろう、なんてちらと思う。

 だが。

 そんな朔の冷静な準備を嘲笑うかのように、痛みは来ない。


「……?」


 音がしてから既に二十秒が経過。痛みが訪れるには、あまりにも遅すぎる。

 もしかして、痛みが強すぎて、痛覚が麻痺したか。または、あまりの痛みに脳がショック死を避けるために痛みの受容を拒否したか。

 頭に色々な仮説が浮かんでは、消えていく。

 だが、そのいずれも否である事を、朔は目を開いた瞬間に知った。

 そろり、そろりと目を開ける。左目の目蓋は脳からの命令を正常に受け取り、右目目蓋と何ら遜色無い働きをした。

 そして、目を開いたその先。そこに広がっていたのは、


 これこそが、正に虐殺である。


 そんな光景だった。

 先ほどまでナイフを握っていたゴブリンは、首と腕が曲がってはいけない方向に曲がった状態で転がっている。両足は着脱可能なパーツとなってバラバラに投げ出されていた。

 おまけに腹に穴でも空いているのか、そのゴブリンの周りの草の根元がじんわりと朱に染まっていく。

 脇の圧迫感の消滅にふと気付き、脇を見れば、脇の二匹も大体おんなじ状態で地に伏している。

 朔はへたり、と尻餅をつくように座り込んだ。

 ゴブリンの変死体を見た朔には、恐怖より安堵があった。

 危機を脱した。どうやってかは分からないけれど。

 もう既に朔の脳は完全にパンクしそうだった。異世界、幻想住人、生命危機、エトセトラエトセトラ。それに、首に……。

 ――もう十分だ。ここらで一度、眠らしてくれ。

 朔は誰に頼むでもなく願った。これ以上何かに晒されたら、もうどう頑張っても現実逃避に走ってしまいそうだ。寝てしまえば、一時的にそれら全てを意識しなくて済む。

 だが。

 朔の非日常は、これだけに留まらない。


「はぁーい」

「っ!?」


 どこからか、可愛らしい高い声が朔の耳に届いた。


「そんなに脅えないでよ。ボクが助けてあげたんだし」

「誰、だ……?」

「誰? あ、ボクは小さすぎるから見えないよね……足元」


 足元。言われて朔が見ると、そこには何か青い物体があった。草に隠れて良く見えないが。

 朔は何の躊躇いもなくそれに触れようとして、触れられなかった。青い物体は急にそこから消えた。


「なっ!?」

「あはは。そう簡単には捕まらないよ。でもまあ取り敢えずは、挨拶から」


 とすっ、と頭に何かが乗っかったのが分かる。


「初めまして、こんにちは。異世界へようこそ。ボクは、スライムのデココと言います」


 ぺしぺし、と何か小さなモノで頭を叩かれる朔。恐らく頭の上に青い物体……スライムの、デココとやらがいるのだ。


「よろしくねー! 異世界人さん!」


『異世界へようこそ』。

 その言葉が朔を強く揺さぶった事など、



 言うまでもない。







 



 初めてプロットやらあらすじやらキャラ設定やらを作って書きました。よろしくお願いします。あんぎゅら。

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