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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ウツスモノ

作者: Hide-Kaoru

目が覚めると私はベッドにいた。いつもの自分の部屋だ。脱ぎっぱなしのスーツもあるし、紛れもなく私がいつもいる空間だ。窓からは陽が指し、鳥のさえずりが聞こえる。

体を起こしていつものように着替えて仕事に向かうための支度をする。


家族はいない。独り暮らしだ。

家から離れ、大学を卒業しそれなりに良い企業に就職した。不自由な気はしないし、寂しくもない。親とはそれなりに上手くいっているつもりだ。


そんな私には一つ変な趣味というか嗜好するものがある。それは鏡だ。私は誰よりも鏡を愛していると自負している。もちろん、こんな奇妙な感覚は他人には分からないだろうし不快に思うだろうから、親にすら打ち明けたことはない。


どんなに辛いことがあろうと、鏡を見ると安心した。心を平静に保つことができる。物心ついたときから鏡の魅力に私は溺れていた。ぼーっと鏡に写る自分と周りを見つめる。まるで別世界にいる自分を覗き込んでいるような気分に陥る。また、ありのままに写る自分の姿を見返すという意味でも素晴らしさを感じていた。

もちろん、合わせ鏡もやってみたことがある。無限に写る像を見て、全てを吸い込んでいくようなスリルと何処かへ行ってしまうのではないかという興奮にも似たある種の恐怖心を煽られる。その他、三面鏡や万華鏡など色々な鏡を見たが最終的にはコンパクトミラーを所持することで落ち着いた。あとは部屋の脱衣室や職場の手洗いにある鏡があれば十分だと判断した。

私はありのままにそこに設置された鏡が好きなのだと納得した。もちろんそれだけではどこか心許ない気分になるのでコンパクトミラーを持っている。これでいつでも見れるようにしている。


中学の頃だっただろうか。その辺りから私は鏡の中の自分に語りかけることをしている。もちろん他人の見ていないところで。その日あったこと、辛いことや嬉しかったこと、自分自身を励ましたりと向こう側の世界にいる自分に話しかけた。最初のうちは返事は返ってこなかった。それは物理的にそうだと自分でも分かっている。

だが、いつからか返事が聞こえてきた。鏡の中の自分と会話が出来ていた。嬉しくもあったが同時にとうとう頭か精神が侵されたかとも自覚している。それでも、私はこの行為を続けている。何故ならおかしくなろうとこの先どうなるのか楽しみだったからだ。


そして、私は今日も鏡に語りかけて家を出る。


帰宅した。晩ごはん食べて、風呂に入り、テレビを見て、寝る。そして、起きる。

起きたが、何かが違う。はっきりとは言えないが何か違和感がある。いつもの朝のはずなのに。脱ぎ捨ててあるスーツもある。何が違う?

そして、私は気付いた。壁にかけてある時計の数字が反転していることに。

私は悟った。此処は私が今まで行きたかった、語りかけていた鏡の向こう側の世界だと。すぐさま脱衣室の鏡に話しかける。写るのは今まで自分が住んでいた世界と自分の姿だ。返事も今まで通りに返ってくる。


その日、私は一日中鏡と会話していた。仕事になんて行ってられない。大丈夫だ、仕事は真面目にこなしているし、風邪でもひいたと伝えておけば問題はない。

満足して、私は一日を終えた。そして目が覚める。やはり鏡の世界だ。それを知った上で仕事へ向かう。左右が反転しているだけで慣れてしまえばどうということはない。普通に今まで通りだ。


こうして数ヶ月が過ぎたある日。ふと、私は二つの世界を自由に行き来してみたいと思った。鏡の前に達と右手の指先を鏡に触れさせて力を入れる。無論、なにも起こらない。

何度も拳を押し付ける。鏡にヒビが入ってしまった。


一か八か拳を思い切り当てることにした。割れるだろうなと思うがやってみることにした。右手を大きく振りかぶり鏡に目掛けて一直線に拳を放つ。

向かい合う自分同士の拳が当たる。そして、すり抜けるような感覚で勢いを保ったまま引き摺られる。向こう側の自分も同じようにやって来る。やった!成功だ!向こう側の自分も笑っている。頭、胴体、足と鏡の中へ入っていく。自分自身の体が入ったと確信した。



目を開けると真っ白な空間が広がっていた。一体どこだ?辺りには何もない。私は白い服を着ている。鏡の中へ、もとの世界へ来たつもりだが、此処はどこだ。呆れるほどに何もなく静けさが広がる。歩いたがやはり何もない。声も出したが自分の声が響くだけだ。他に人や動物は一切いない。紛れもなく私だけだ。

なんだ、鏡を愛した果てはこの空間か。よく分からないがこれもまた運命なんだろう。考えるだけ無駄だ。私は私のやりたいようにやって、ここにいる。それでいい。それで構わない。とりあえず、今は眠るとしよう。



『昨夜未明、マンションの8階に住む男性が遺体で発見されました。男性は何者かに襲われ、左腕の部分が切り落とされていたようです。死因は出血多量によるショック死であると見ていますが警察は現在も捜査中です。』


外で各局のリポーターが現場の状況伝えている。現場の8階には刑事や鑑識が捜査に入っていた。


「外のマスコミうるさいっすね。それにしても警部、今回の遺体は流石に気味が悪かったです。」


「そういうのは言うもんじゃない。と、言いたいところだが俺も同感だ。あの仏さん、左腕が無くなってるのに笑顔だった。奇妙すぎる。それに、腕を切断したというよりは飛び散り、破裂している。破損した腕の肉片が部屋中に散ってるからな。遺体のある場所も脱衣室で、鏡が割られている。鏡も一部分からクモの巣のようにひび割れてやがった。どうして、鏡を割る必要があったんだ?」


「発見したのは隣の住民で壁を何度も叩く大きな音に嫌気がさして、インターホンを鳴らしても部屋から出てこない男性にしびれを切らし、大家さんにたのんで鍵をつかって開けたらこの遺体をここで見つけたんですよね。」


「ああ、そうだ。」


「……あの、警部。本当に夢物語だと思って聞いてほしいんですけど、この男自分でこれをやったのかなあって思うんです。自分の腕で鏡を割って、腕が飛び散るくらいに殴ってたとか。めっちゃ怪力だったりして…。あ!鏡に吸い込まれたとか!」


「ばーか。んな訳あるか!漫画の読みすぎだ。まあ何にせよ捜査は難航しそうだ。この男、恨まれるようなことはしていないようだし、場合によっては自殺だとすることも考えておかなくちゃな。あーあ、こういう事件が一番面倒なんだよな。」


「そう言わずに頑張りましょうよ。警部。」


そして、二人は話をしながら捜査を続けていた。テーブルの上に置いてあるメモ帳に新米刑事が気づいて手を伸ばす。開くと被害者が書いたであろう文字が並んでいた。


『ふざけるな。私は鏡が嫌いだ。あいつは分かっていない。そこに写るのは自分自身だ、自分の都合の良いようにしか写らない。故に反転した私はお前からは見えない、一生な。それは私にも言えることだが、そうとしか考えられない。この世界では気が狂ってしまいそうだ。なぜ、お前は平気なんだ。私は気持ち悪い。もう此処にはいたくない。どうせ、死ぬならお前を道連れにしてやる。大好きな鏡の前で死ぬといい。せめてもの救いだ。私もその時は此処にいないがな。さようなら。』


「何だこれ、気持ちわる。とりあえず押収しておくか。」


そう言って静かにメモ帳を閉じた。

つまり、鏡はありのままの己しか事実しか写しません。今ある現状を真摯に受け止めようねっていう意味があります。うーん、あまり怖くなかったかな。もっとこうゾッとするようなものを書けるようになりたいですね。

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