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赤い山脈 蒼の王国  作者: 木葉
第11章 戦う王妃候補
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その2

 何を言われたのか理解できないまま、私はカルダーンの両腕に抱き締められていた。窒息してしまうのではないかと思うほどの強さに、私は身動きできず、カルダーンの表情を窺うことができない。

 カルダーンは私の耳元で囁いた。

「君は悪い魔女だよ……。俺の決心を崩壊させるし、弱点を容赦なく見せつけてくるし。どういう魔法を使ってるんだ」

「……私、一介の官僚だけどね」

「うん。でも――」

 急に視界が開けたと思うと、目の前に私のよく知っている優しくて凛々しいカルダーンの顔がそこにあった。カルダーンはそっと私の頬に片手を添えている。

「今度こそ、役所勤めは辞めて俺の奥さんになってほしいな」

「そのつもりで、あなたを追いかけてきたのよ」

 溜め込んできた感情が爆発してしまいそうで、私は必死に涙を堪え、ぎゅっとカルダーンの手を握り締めた。本当にこの人は暴君なんだから……!

 彼は私の手を握り返し、少し言いにくそうに自分の言動を弁明し始めた。

「君が王宮に戻ってしてくれた報告を聞いて、俺は心底後悔したんだ。危険は承知だったけど、やっぱり行かせるべきじゃなかったって。君を手放せば、もう王妃候補じゃなくなるだろ。そしたら、辺境自治区のことと君は無関係になるし、何よりも、再びアルメイス殿に君を会わせなくて済むからね」

「もしかして、嫉妬したの? バルダミアが私に求婚したから」

「それは……、まぁ、あの……、君は彼を高く買ってるみたいだし、俺なんか愛想尽かされてしまうんじゃないかって……。でも、それより君を危ない目に遭わせたくなかったから、俺との縁を切ってしまえばいいと思って……」

 恥ずかしそうに視線を逸らしながら言うカルダーンは、なんだか可愛くて、私は忍び笑いをしてしまった。

「私のことを考えてくれたから、敢えて突き放したのね。ごめんなさい、私が余計なことを言って、あなたを不安にさせて」

「いや、君は何も悪くない。全部、俺が未熟なせいだ。それでも俺を許して、また俺について来てくれる?」

「もちろん」

 そのままカルダーンを見上げていると、彼の顔が近づいてきて私は瞼を閉じた。唇と瞼に優しい口付けを感じ、私はようやく心が開放された気分を味わった。暴君のくせに、こういう時は信じられないくらいに穏やかで優しい人なのだ。

 でも、この時はちょっと違った。触れるだけの口付けだったのに、いつの間にかカルダーンの仕草に熱がこもり始めている。

「ちょ、ちょっと待って」

 私は思わず身を仰け反らせた。忘れてたけど、今はギュリド国王との交渉の真っ只中で、いつバルダミアたちが会議室に戻ってくるかわからない。

「あなたの気持ちがわかってすっごく嬉しいけど、先にやることがあるじゃない。まずは自治区を奪還しなきゃ」

 私が諭すように言うと、カルダーンはすぐに冷静に戻って頷いた。私たちは椅子に座り、バルダミアの要求とこちら側の譲れない一線をおさらいする。

「ギュリド王国としては、ギュリド人が住民の多数を占めるということと豊富な資源の存在という観点から、ルトガ自治区を自国に帰属させたいと考えてるんだよな。何よりも、霊峰と崇めているルトガ山脈を取り戻したいと」

「そう。我々は自治区を割譲する気はさらさらないわけだから、できるとしたら、区長を区内から選出し、国境を正式に開放すること。それから、鉱山業を共同で開発することね」

 既にカルダーンには伝えていたけれど、我が国の譲歩事項はバルダミアによって一蹴されている。カルダーンもこの譲歩が妥当だろうと判断しているから、余計に悩ましい。

「これに加えて、今まで鉱山資源局で汚染と奇病の実態を隠蔽してきた幹部たちを洗い出して処分を下すっていう条件はどうだろう。どのみち、俺の知るところになったんだから、責任者に事情を聞いて罪を問わなきゃいけないしさ」

「それは必要なことだけど、だからこそバルダミアはそんな条件はただの前提だって言うでしょうね」

 経済的な理由よりも宗教的な理由の方に意味がある今回の事案では、交渉できる素地がこちらとあちらでは元から違う。議論は平行線を辿ったまま、行き着くところは武力での解決になってしまう恐れがある。

 それだけは何としても避けなければ。私は言うか言わないか迷っていたある提案をカルダーンに告げた。

 鼻先が触れんばかりの距離まで顔を近づけて小声で言った内容に、カルダーンは目を瞠った。

「それは……、ものすごい賭けだよ。確かに、どちらに転んでも流血を見ずに済むけど、俺たちの方が賭けに負けたら、俺はきっと玉座から追われるだろうな。いや、それどころか怒り狂った重臣や国民から血祭りに上げられるかもしれない」

 カルダーンはまるで他人事のような口ぶりで言い、苦笑を浮かべている。でも、私の提案は冗談ではなく本当に国王の威信を賭けたものだ。

「で、シャイラはそれで俺が勝てるって考えてるんだよね?」

「ええ、国王であるあなたが辺境自治区に自らやって来たことが重要なの」

 そして私が具体的な話をしようとした時、勢いよく会議室の扉が開いた。

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