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世界について

「この世界は神が作ったってのは知ってるか?」


「まあ一応は。それを天使と悪魔が取り合ってるんだろ?」


「そうだ。まあ正確には、人間を追い出して自分らのものにしようとしてるのが悪魔、それを守ってるのが天使だ。悪魔は自らを世界に顕現して戦い、天使は人間に力を与えて戦わせている。その力っていうのが、魔法とか神法だな」


 三人の使っていた馬車に入り込み、町への道すがらケイにこの世界について教えてもらっていた。とはいえ、この辺はゲームのあらすじで知っている。


「戦いは何百年と続いていた。だが、ついに人間たちはその数を増やし悪魔の撃退に成功する。技術を身につけ、悪魔が使っていたゲートをすべて封じたとき…戦いは終わった」


「あ!ゲートっていうのはね、悪魔が住んでいるところからこっちに繋がる出入り口みたいなものなんだ。天使様はそういうのを作れなかったから仕方なくヒトに力を貸すだけになってたんだよ」


 かわいらしく補足を入れてくるハレ。ああかわいい。ハレという名前に良く似合う太陽みたいな子だ。…オレが女の子じゃなかったらなあ。まあ、男だったとしてアプローチできるかは別だけど。


 ちなみにゴウキはぐっすり寝ていた。


 ケイは続ける。


「そんなわけで、人間たちは平和を手に入れた。荒廃した土地を回復させ、方々に町をつくり、文化を広げた。生態系を広げ、そんな時代が何千年と続いていた」


 ああ、たしかにそんなだったな。昔に設定を見たが、ゲームをやるぶんには関係ないから忘れてたよ。


「だが、今から数十年前か。突如、世界にヒビが生じた。それはまさしく、悪魔の生み出したゲートだったわけだ。とはいえヒビは小さなものだったから、出てきた悪魔も弱かったしゲートもすぐに閉じられた。」


「でも、それから世界中にどんどんヒビの報告が増えていったの。長い歴史の中で、封印が解けてきてたの」


「大昔の聖戦の再来、つーわけだ。人間は再び来る悪夢におびえた日々をすごしていた。そんなときに現れたのが、勇者一行だ。そいつらは次々と悪魔をなぎ倒し、ついには北方に出現していた大悪魔との対決にまで至った。そんで、結果は相打ち。二人は刺し違え、しかしその結果悪魔の進行は目に見えて収まった」


「それをたたえて各地に勇者像が作られて、他の勇者パーティはその知識と経験をもとにギルドをつくったの。昔の一行みたいに、何人かで組んで悪魔を退治するためにね。まだ、悪魔の進行は消えたわけじゃないから」


「それでまた平穏がおとづれる…とはならなくてな。今度は悪魔たちが新たな力を生み出しやがった」


「…力?」


 それは聞いたことのない話だ。もしかしてデービスと一緒にやられた大型アップデート?しかし、そこまで大きなものならオレが気づかないはずが…。


「ああ。いわゆる、『喰』と『欺』だ。」


「ハミ、と、ギ?」


「そうだ。喰は共食いの力で、仲間の悪魔やらモンスターやらを食って、その力を奪う能力。欺は、生物に入り込み、そいつの自由を奪う」


「…まじか。わりとやばそうだな」


「うん。やっぱりそうなっちゃって、どんどん押されていったの。しかも、北方の地…私たちが踏み入れたことがないところに、突然悪魔の大群が現れたの」


「勇者の封印は完全ではなかった、ってことだな。今はまだとどまってるが、これからどうなるか分からん」


「そうか…。それって本格的にやばいやつじゃんか。なんか、天使は新たな力授けてくれないの?」


「そう!それなの!」


 急に大声をだすハレ。何事だ。


「やばいなーどうなっちゃうかなーってなってたんだけどね、ついこの間信じられないことが起こったの!」


「信じられないこと?」


 すごいうれしそうに話すから、それはそれはいいことなんだろう。


「待て、とりあえずデービスのことを先に言うから」


「えー!?なんで!?ケイのけち!」


空気の読まないケイの言葉にぷんぷんするハレ。ああかわいい。癒されるぅ。


「…なんだガキ、ふにゃけたツラしやがって。かわいこぶったってそうはいかねえぞ」


「はにゃっ!?かわいこぶってなんかないわ!ガキ扱いすんな!」


急に変なこと言い出すからつられて変な声出してしまった。というかそうはいかねえって何がだ。


「まあまあまあまあ…」


「チッ。まあとにかく、悪魔が勢力をのばしてるまさにそん時に、突然デービスってのが生まれたんだ。人間の母体に悪魔が何らかの干渉をした結果、角の生えた赤ん坊が産まれた。もちろん、どうなるか分かるよな」


「…迫害…?」


「そうだ。喰とか欺っつう力がある以上、そいつらも悪魔の手先かもしれねえ。そういうわけで産まれた子供や親は差別され迫害され、最悪の場合…殺される」


「……」


 …なるほど。だから、デービスなら仕方がない、か。


「呪われた悪魔の子供。だからデービス。名前からして、蔑んだ呼び方だ」


「もう、ケイ!もうちょっとやさしい言葉で…」


「いや、大丈夫だよハレ。本当のことだ」


「トーカ…」


 どうせ、オレは今さっき転生?したばかりだ。この世界に親はいないし、迫害なんてされたこともない。


「まあ人によっちゃあ気にしてない奴もいるしな。とくにギルドの奴らなんか、腕に自身あって大雑把な奴ばっかりだから、デービスだってかまいやしねえだろうさ。俺らだってそうだしな」


「ケイ…。なんだ、心配してくれてんのか?」


「は?んなわけねえだろうぬぼれんなガキ」


 いきなり早口になってそっぽ向くケイ。かわいらしい性格してんな。まあハレは全部がかわいいけど。


 話は終わったのか、無言になりしばらくの間馬車が揺れる音だけが響く。

 こんなの乗ったことないから新鮮だなあ。


「ついこの間信じられないことが起こったの!」


 ふと思い出したようにまた叫びだすハレ。そういやさっき遮られてたな…。


「別にそんな大声ださんでも」


「えっとね、私たちがいつもみたいにクエストやってて、その帰り道にね。突然空から光が降ってきたの!それはもう、何本も!」


「光?」


「そう!すっごいきれいな光の柱でね。いろんなとこにおりてたなあ。それでその一本がデスロー山のちょうど山頂くらいにあったのを見てね、見たい!ってなってね」


「これはもしかして天使の授けものなんじゃねえかなってな」


「そうそう…って、ケイ!?一番大事なとこ!」


 涙目で抗議するハレ。ケイをぽこぽこ叩いているが、コイツはものともしていなかった。ああ、ハレかわいい…て。


 デスロー山の山頂?


 …それ、オレのことじゃね?


「どうしたの、トーカ。冷や汗かいて。具合悪い?」


「え、いやだいじょう…くちゅんっ」


 急にくしゃみが出だした。ああ、びしょぬれだったの忘れてた…。今は乾いたけど、そのせいかな。


「風かな?デスロー山の近くだったもんね。毛布あげるから、あったかくしてね?」


「あ、うん。ありがとう」


 いや、しかし。突如降り注いだ光の下に、オレがいつの間にかいた、とは…。偶然には思えない。

 それに光は何本も落ちたのか…。もしかしたら、他のプレイヤーも飛ばされてきた、とか?


 …会ってみないと分からないな。しかし、どうせ飛ばすならオレのメインキャラにしてくれたらよかったのに。なんでレベル1からスタートしなきゃいけないのか…。


 毛布を被ってぬくぬくとしているオレを二人は興味深げに見つめていた。


「…なに?」


「あ、えーと…ね。実は…私たち、あなたがその天からの贈り物なんじゃないかな、って思ってるの」


「ぶふぉっ!?」


 いきなりオレの見解にたどり着くとは、侮れない奴。


「な、なんでまた?」


「…デスロー山の近くに住んでる奴なんて見たことねえ。それに、そんな軽装であのあたりにいるなんて、普通ありえねえからな」


「え、えーと…」


 軽装って言っても、装備は見えてないんだけど。なんて言おうとしたが、やめた。こういう風に言うってことは、普通の人間にはこういう機能がないからなんだろう。

 プレイヤーだけの特権、てとこか?


「その人間離れしたかわいらしさも、それに似合わない口調も。お前、なんか隠してるだろ」


「いやあ、そんな」


 問い詰められてる。めっちゃ問い詰められてる。というかまじめな顔で人間離れしたかわいらしさとか言うなんて、お前はロリコンの鏡だな。まあ超はりきって作った美少女だから、そう思うのは仕方あるまい。へへへ。


 いやしかし。これはばれていいことなのか?ただでさえデービスという種族なのに、そこに救世主なんて称号をつけられたら最後、この世界での平穏なんて望めないのでは…。


「うーんと、実はオレ…記憶がないんだよね」


「何?」


 結果たどり着いたのは、記憶喪失という安易なごまかし方。


「気づいたらあそこにいたって言うか…。口調とかも元からでね、いやデスロー山?あそこに光が落ちたの見てオレも行こうとしたんだけど、モンスターが強すぎて命からがら逃げてきたんだよ」


「…本当か?」


「ホントホント」


 いまだ疑いの目を向けてくるケイ。うう、嘘は苦手なんだからそんな目で見つめないでくれ。


「…チッ。仕方ねえが、腐ってもロリが言うんだからそうなのかもしれねえな。忘れろガキ」


 …おお?なんとかごまかせたか?しかし、腐ってもってなんだ腐ってもって。そこは忘れんぞ。


「もう、そんなつんけんしないでよー」


「……んあ?お、見えてきたぜ!」


 ちょうどよく起きだすゴウキは、外を見てはしゃぎだした。


「寝起きなのに元気だなお前は…。おらガキ、もうすぐ町だ」


「あなたのこと何かわかるといいねえ」


「…そうだな」


 あってすぐの自分にここまでやさしくしてくれるなんて、オレはいい人に出会ったもんだ。これには素直に感謝しないと。


 

四人を乗せた馬車は、ゆっくりと町へと近づいていった。

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