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バトル

少し歩くと、雪がまだ積もってないところにまで来れた。雪道は歩きづらいのなんのだからありがたい。


しかし、町までどれくらい歩いたらいいんだろうか。昔だったらテレポストーン使ってたし、それがなくても召喚獣で馬とか乗れてたんだが…。

あいにく召喚獣の魔法陣はホームのボックスの中だ。ああ、俺は馬鹿か。なんでトップランカーともあろうものがこんな初歩的なミスを…。


…くっ。悩んでても仕方がない。先を急ごう。


なんて思って足をはやめようとした、矢先。

脇道の草むらから何かが飛び出してきた、


「お?」


見ると、そこにいたのは雑魚モンスターの代表格、ラピットだった。

ぽてっとした見た目で、胴体がやたらちっちゃい。耳が愛らしい形をしていて、あからさまな人気取りモンスターだがやはり人気だった奴だ。


…それだけならいいが、いかんせん数が多い。なんなんだ…10体くらいいるじゃないか。


「ま…初戦にはちょうどいい相手かな」


オレはにんまりと笑ってそう言った。現実ではありえなかった、敵との戦い。なんか高揚してくる。

オレの魔法と格闘で蹴散らしてやる。



…本当の初戦のアイスゴーレムには瞬殺されたとか言わない。



「はっ」


一気に距離を詰め、ラピットを右の拳でぶん殴る。その無駄のない所作は、ジョブによって作り出されているのだろうか。まあとにかく、格闘とか剣術を一から覚えるなんて手間がなくてありがたい。


「ギュピッ」


ラピットが断末魔のような声をあげて吹っ飛ぶ。たぶん二撃くらいで死ぬはずだ。


オレはどんどんとラピットを回し蹴りし、アッパーを食らわせ、かかと落としを繰り出し、耳を掴んで他の敵に投げつけたりして倒していく。


キュピーン!レベル2になった!

キュピーン!レベル3になった!


おお、脳内でレベルが上がってる音がしている。こんな風に上がるのか。


…まあ、それはいいんだが。


「ギュピュッ」

「ギャピッ」

「ギュ……ピャッ……」

「ギョピョッッ!!??」



……………うん。


心が痛い!!!


いややめろよ!いちいちこんな悲鳴あげられてたらオレが悪者みたいじゃん!


すでにラピットの数は2、3体となっているが、その死体を見たら罪悪感しか残らない。つらい。


どうしようかな……せめてこいつらは逃がすか……。


なんてことを考えていると、ラピットは変な声をあげはじめた。


「キュポポッ!キュポポッ!」


えーと…これなんのやつだっけ…?


すごい嫌な予感しかしないんだけど…。ていうか嫌な予感感じ過ぎなんだけど。


その嫌な予感は的中。ドンドンドンドン!!と地響きを立て、オレの目の前に…テラピットが現れた。


テラピットはラピットのボス。ラピットをそのまま大きくして胴体を強靭にしたような奴だ。オレの身長の2倍くらいある。ラピットがピンチの時たまに呼ぶんだが…何も今でなくても。


見ればテラピットは普通のラピットも大量に引き連れている。雑魚なオレにはもったいない量だ。


「…ふっ…オレを見くびんなよ…」


テラピットといっても、所詮ラピットの上位モンスター。大してレベルは変わらない。


こんな奴一人で倒して見せてやる。


「ファイア!」


まず、テラピットの目の前に火の玉を投げつける。奴は俊敏な動きで下にかわすが、それは予想通り。

その隙に懐に潜り込み、腹に思いっきり蹴りを入れる。


…が、足が途中で止まった。テラピットが足首を掴んだのだ。そのままオレは宙に投げつけられる。


「うおっ!!」


慌てながらも体制を立て直して着地。

なんて奴だ…。少しはやるようだ、ていうかあんな動き知らないし。

この辺はゲームとは違うってことかな。テラピットもだいぶ賢いようだ。


なら本気をだしてやる。


とか、息巻いてたら。




「おっしぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!」



なんていう雄叫び声をあげ、真横から出てきた何者かにテラピットは切りつけられた。そしてそのままぶっ飛んでいく。


「……え?」


呆気にとられたオレが見たのは、大剣を担いだ赤髪の戦士だった。


若そうだが筋肉もりもりなその男は、爽やかながらもむさ苦しい笑顔をオレに向け、


「大丈夫かい、お嬢ちゃん」


なんてのたまった。


なんだコイツ、俺が襲われてるとでも思ったのか?



「あ、お前、後ろ!」


テラピットをぶっ飛ばして油断しまくりの男の背後に、いつの間にやらラピットが3体突っ込んでいた。

男はそれを余裕全開で確認し、


3体とも矢で射抜かれた。


「はっ、俺の背中を心配してくれんのかい、嬢ちゃん。だが大丈夫だ。俺には信頼できる仲間がいるからな!」



お、おう…。なんか色々暑苦しい男だなぁ…。悪い奴ではなさそうだが…。

とりあえず他にも仲間がいるらしいな。


軽く引いているオレを気にもとめず、男はまた剣を構えた。


「おっと、まだ戦いは途中だぜ。ちょっと下がってな」


不敵な笑みを浮かべ、男が見つめる先に…テラピットが姿を現した。目の睨み具合とか身体から発するオーラ的ななんかから、だいぶ怒ってるっぽい。


そして、テラピットが動いた矢先ーーー男も駆け出す。繰り出されたパンチを上体を左に倒して避け、剣を左下から右上へと振り上げる。鍛え上げられた身体から行われる剣撃に、テラピットの腹がズッパリと傷がつく。


テラピットは体制を立て直そうとバックステップをとったが、男はそれを許さなかった。同時に前へ一歩足を踏み出し、続けて剣を振り回す。


みるみるうちに奴は弱っていった。ほとんど動くことができないらしく…それでも足掻こうと振りかぶった拳を、これもまたどこかかから飛んできた弓矢で止められ…


男は思いっきり縦に振りかぶり、テラピットはついに動かなくなった。



………いや見栄え悪っ!!


なんでこんな血吹き出すの!?いくら現実だからってこの辺くらいならゲームっぽさ出してくれてもいいじゃん!


キュピーン!レベル4に上がった!

キュピーン!レベル5に上がった!


頭の中でレベルアップの音が響く。そうか、倒したわけじゃないけど手伝った形になったからオレにも経験値が入ったのか。


まあそれはさておき、男は剣についた血を拭き取り、背中の鞘に戻した。そしてオレに向き直り、にこやかな笑顔を浮かべる。


「怪我なさそうだな。間に合ってよかったぜ」


「あ、ありがとう…ございます」


別に一人で倒せないことはなかったが、一応礼はしておく。


そんなオレの微妙な表情を警戒していると勘違いしたのか、


「ああ、自己紹介がまだだったな。オレはゴウキってもんだ。あと二人仲間がいるんだが…おーい、こっち来ーい!!」


ゴウキと名乗る男はいきなり大声を出した。なんだコイツ、すごい体育会系だな。ちょっと苦手だぞ。


「うるさいな。聞こえてるよ馬鹿」


草むらからガサゴソと音をたて、二人出てきた。一人は長いパイプ?を咥えた、くすんだ金髪の青年で、弓を背負っている。もう一人は今のオレよりちょっと年上くらいの、可愛らしいピンクがかったショートヘアの女の子。こっちはシスターっぽい服を着ているから、おそらく回復役だろう。


先ほどから弓を放っていたのは金髪の青年によるものだろう。


「よう、幼女。俺はケイだ。よろしく」


「あー、また口悪いこと言って!ごめんね、ほんとはいい人なんだけどね。あ、私はハレって言うの。よろしくね」


そっけない態度なケイと、可愛らしくほほえむハレ。


とりあえずオレも自己紹介を……


「えーと、オレはとう…と…、トウカ!トウカだ!よろしく!」


本名じゃまずいだろうと途中で気づき、女の子っぽい名前にもじった。でもよく考えたらトオルだったら女でも通じるな。浅はか。


しかし、オレのナイス機転にも関わらず、三人は面食らったような変な表情をしている。


「?どうしたんだ?」


「あ、いや。可愛らしい見た目なのに荒っぽい口調だな、ってな」


「あ」


ゴウキに言われてようやく気づく。そうか、オレ今女の子だったな…。そんなとこにまで配慮回らなかったぜ。はは。


「ふん。生意気なガキだな」


「あん?お前、そんなこと言っときながらどうせめっちゃ気に入ったんだろ?口元にやけてんぜ」


「は?馬鹿が、んなわけないだろう死ね」


「照れるなよロリコン」


「もう、落ち着いてよ二人ともっ」


いきなり喧嘩を始めるゴウキとケイ。ていうかケイとかいう奴ロリコンか。口悪いロリコンとかツンデレかよ。ハレちゃんの貞操が心配。


「あ、そうだ。嬢ちゃん、なんでこんな辺鄙なとこにいるんだ?見たところ一人だが、家族とはぐれたか?」


あ、と思い出したようにゴウキは言った。ううむ、これ正直に言うべきなのか?


「え、えーと…はぐれたというか、元々一人だって言うか…」


「一人だと?ガキ、まだ親離れも済んでないような奴が来ていい場所じゃねえぞここは」


急に怒りだすケイ。口は悪いが心配してるのか。ロリコン優しいな。

でも、


「オレはそんなガキじゃねえよ。別に、助けられなくったって一人で…」


「はは、心配しなくても大丈夫だぜ。ちゃんと親元まで届けてやるからな」


「え、いやちょっ」


「たぶん近くの町から来たんだろ?オレらは馬車で来たから送ってってやるぜ」


「いやだからっ」


「別にオレらの心配はしなくていい。急ぎの用じゃないからな」


「話を聞けぇっ!」


どんどん話を進めるゴウキ。送ってくれるのは渡りに船だが、勘違いされたままでは困る。


「どうしたの?」


ハレがオレの表情を察して聞いてくる。この子は天使みたいな子だな。かわいい。


「オレは冒険者だ。迷子じゃねえよ」


「え?ぼ、冒険者?」


「そんな馬鹿な。ハレより年下…おい、その頭」



信じられないといった感じで鼻で笑うケイだったが、オレの頭を見て表情が変わった。


「なに?」


小さい子供だからかどことなく舌足らずな喋り方になるのが気になるが、まあ仕方がない。


「その角…。お前…デービスか?」


「「!!」」


デービスとケイが言った瞬間、他の二人の表情もピリッと引き締まる。確かについ最近作られた種族だが、そんな変なことなのか?


「そうだけど、変?」


「いや、変というかな…」


「デービスなら、親がいないのも…。ごめんね、何も知らずに」


「…え?」


デービス、なら仕方ないことなのか?この世界にとって、この種族の立ち位置は…。


「しかし、本物は初めて見たな。思ったよりオレらと変わらないな」


「でもすっごいかわいいね」


「ふん」


思い思いに喋る三人。そんなことより、オレはデービスの事を知りたいんだ。

わりと大事なことな気がする。


「あ、あの…デービスってなんなんだ?他の人らからしたらどう見られて…」


「あん?お前が一番実感してんじゃねえのか?デービスの、迫害をよ」


「はく…がい?」


迫害だと?どうしてそんな…。いや、オレがデービスについて知っているのはあくまでもパラメータとかの設定だけの話だ。リアルならば、色々背景があるはずか。


ケイはオレの様子から本当に何も知らないと分かったようで、ハア、とため息をついた。


「仕方ねえな。一から教えてやる。…とりあえず、ここじゃなんだから俺らの馬車に来い」


「ケイ…。そうだね、悪い人じゃなさそうだし」


ハレの言葉に、何か引っかかる。どことなく警戒しているような気がする。


「うし、じゃ行こうぜ」


それとは反対に何も恐れてなさそうなゴウキ。まあコイツはアホそうだしな。


……とりあえず、話を聞こう。


「ありがとう」


一言礼を言い、彼らについていく。

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