冒険開始
オレは部屋に設置されたアイテムボックスを開いた。すると、空中に画面のようなものが出現し、どんなものが入っているかを表示した。
こういうところはゲームっぽいな…。
見てみると、メインキャラを使っていたときに入れたアイテムがぎっしりあった。その中から使えそうな装備を探す。
なんせオレはトップランカーなわけで、金にも困ってないからアイテムは手当たりしだいボックスに入れていた。そんなわけで最弱レベルのアイテムから、他プレイヤーが泣いてほしがる武器なんてのもある。
まあ、レベル1のオレには使えないが。
とりあえずレベル無制限武器の中からもっとも強い格闘装備を一式取りだした。よくよく考えたらまだ初期装備の下着だけだったから、なんか恥ずかしくなってさっさと着替える。
…着替えようとしたが、まず着方が分からない。男女兼用装備だが、自動的にオレに合わされるようで、女モノの服はいまいち分からない。
どうしようかと悩んでいると、ふと頭に『装備』という文字が浮かんできた。よく分からないまま装備、と口に出してみると、なんと自動的にオレに装備されてしまった。
すごい便利だな、これ。
こんなとこまでゲーム感出してくるとは、まるっきり現実というわけではないのかもしれない。
…ということは、ゲームどおり装備と服装は別々なんだろうか。というのも、ゲームではがっつりとした鎧とかの装備をつけていても、服装をつけたら防御力そのままに装備を消しておしゃれを楽しむことができるのだ。
かわいさと防御力は両立しないので、運営の気遣いである。
オレもどうせ超美少女デービスなんだから、もうちょっと雰囲気でる格好にしよう。女用装備もまとめてボックスに詰め込んどいて正解だったな。
どんなのがいいか。やっぱりゴスロリとかすごいかっこいいんじゃないか?あからさまに闇の力使いそうだし。
とはいってもやはりオレは元男なわけで、考えるのと実際着るのではわけが違う。誰が見てるわけでもないのに、だいぶ恥ずかしがりながらまだシンプルなほうのゴスロリ服を着た。
ボックスの横に設置された鏡をみる。ふむふむ、かっこいいじゃないか。
これで準備はばっちりだ。さあ、ファンタジーライフの始まりだ。
家のドアを開け、意気揚々と外へ飛び出――――――――
「さぶっっっっっっっっっっ!!!!!!」
寒い!!!!当たり前か!!雪山だもん!
かっこいいからとかいう理由で山のてっぺんにホーム置くんじゃなかった。これ凍死するレベルだよ。
やばいやばい。こんなのふもとまでおりれる気がしないよ。こんなことをなぜかちょっとがんばってから思い至った。
―――そうだ。ホームにはテレポートストーンがあるはずだ。これで王都まで行こう。そこならいろいろ便利だし、宿泊施設なんかもあるはずだ。幸い金には困ってない。ボックスにたんまりと入って―――。
ドズン!!!!!!!
「…え?」
轟音と共に、目の前が雪の塊で覆われた。それにより、ちょっと先にあったオレのホームが見えなくなる。
……いや、大丈夫だ。ホームが壊れるなんてシステムないし。雪の塊程度なんてことな、い?
なんで雪の塊?
おそるおそる首をあげる。目に映ったのは、巨大な雪の化け物。
「アイスゴーレム……!!!」
言うや否や、もう一発こぶしが振り下ろされる。先ほどとは違い、確実にオレをやりにきてる!!
あ、やば…。足がすくんで、動けな…!
「ふぇ、フェイク!!!」
こぶしがぶち当たる直前。目をつぶりながら発動できるのか確信がなかったスキルを叫んだ。発動しなかったら、オレは、死ぬ…!
ドスン、という轟音が響く。薄目を開けると、数メートル先にこぶしが地面に突き刺さっていた。
よ、よかった、発動した。
「いや、よくは、ない!!」
アイスゴーレムはオレを再度にらみつけた。まずい、アイスゴーレムのレベルは50.とても太刀打ちできない。
なんとしてでも、ホームに入らねば…!!
「フリーズ!」
アイスゴーレムに向かって、もう一つのスキルを叫ぶ。数秒あれば、懐をかいくぐることができる。
「って効いてない!?」
そりゃそうですよね!レベル1の奴のスキルなんてせいぜいゴミですよね!
………て、これじゃあホームに入れない。なんとしてでもスキをつかないと。
「……え?」
本日何度目か、というようなアホな声をあげる。アイスゴーレムが出した技は。
アイスブレイク。雪崩を引き起こす技―――!!!
途端、地面が膨れ上がる。山頂だからって関係ない。アイスゴーレムがだした大量の雪が勢いよくオレにせまってくる。
「う、うわああああああーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
こんなもの、レベル1にはなすすべもないわけで。オレの叫び声は雪にかき消された。