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短編小説

始まりの童話

作者: 有寄之蟻
掲載日:2014/05/24

はるか昔、一人の落ちこぼれの魔法使いがいました。


魔法使いは「力」を求めていました。


彼のいた国は戦争をしていました。


魔法使いは国を守るための「力」が欲しかったのです。


彼は自分に「力」が無い事を嘆いていました。


そんな時、地上の争いを眺める一人の悪魔がいました。


悪魔は彼の嘆きを聞いて、彼にこう持ちかけました。


「我の「魔の力」を与えてやろう。

その代わりに、お前から代償をもらうぞ」ーーと。


彼はそれに頷きました。


彼は「力」が手に入るなら、それが悪魔の囁きでも構わなかったのです。


悪魔は自分の「力」の半分を彼にやりました。


彼は「力」を手に入れました。


それは、人間が扱うには余りにも強大な「力」でした。


彼は国を守り、戦争を終わりに導きました。


しかし、その強大の「力」は人々の恐れを招きました。


彼は国から追われました。


彼が守りたかった国から。


そして、悪魔がやってきて、彼から代償を取っていきました。


「人間らしさ」を奪われた彼は、自分の現況に絶望しました。


「これが悪魔に縋った結果か」ーーと。


国に追われ、人ですらなくなってしまった彼は、死を選びました。


流された血から、一つの植物が生え、実がなりました。


一方、魔法使いから「人間らしさ」を奪った悪魔は、人間の体を手に入れて、彼の国へと降りていました。


そこで一人の女と出会い、夫婦となっていました。


ある時、悪魔は魔法使いの事を思い出しました。


魔法使いの元へ行ってみると、そこには亡骸から生えた一本の樹がありました。


その実には、魔法使いの「力」と魂と絶望が宿っていました。


それを見て、悪魔は一つの事を思いつきました。


それは、今、妻としている女に、この実を食べさせる事でした。


悪魔は果実を持って帰り、妻にこう持ちかけました。


「この実を食べれば、お前は「力」を得る。しかし、それには大きな代償が必要だ」ーーと。


女もまた、魔法使いとは異なった「力」を欲していました。


悪魔はそれに目をつけて、女と共にいたのでした。


悪魔はまだ、女から代償を取っていませんでした。


だから、女が果実を食べる事で起きる事を代償にしようと思ったのでした。


女は一も二もなくその実を食べました。


その結果、女は子を身籠もりました。


女自身にはなんら「力」は加わらず、しかしその子供には「魔の力」が宿っていました。


女はそれに失望しましたが、子を産み育てました。


子共は、あの魔法使いと同じく、「人間らしさ」を持っていませんでした。


子は大きくなると、国の守りに着き、国を平和に保ちました。


子は(おのれ)の存在に絶望する事はなく、国に厭われる事もありませんでした。


悪魔はそれを見て、もう少しこの「人で失くなった存在」を見てみたいと思いました。


子の亡骸からも、芽が生え、樹になり、実がなりました。


その実には、子の「力」と魂と穏やかな幸福が宿っていました。


悪魔はその実を手に、新たな女を探しました。


次の子は、自分の「力」に溺れ、争いを引き起こし、最後は恨みをかった者達に殺されました。


その実には、激烈な怒りが宿っていました。


次の子は、(おの)が「力」を隠し、人目につかぬよう大人しく、ささやかな暮らしで独り身を通しました。


その実は、静謐な孤独をやどしていました。


その次は、その次は、その次はーー。


悪魔は「人で失くなった者」の魂を繋ぐかのように、果実を女に与えては、その人生と魂の実に宿る最期の「心」を見ました。


彼らは一人として同じ人生を歩まず、一つとして同じ「心」を宿しませんでした。


気づけば、悪魔は長い長い時を過ごしていました。


悪魔の中には、彼らに対する「心」のようなものが生まれていました。


それは、人間が「愛」と呼んでいるものに近く、しかしどこか異なっていました。


悪魔は、彼ら「人で失くなった者」を絶やしたくないと思いました。


だから、その実を運び、その生を見守ろうと決めました。


……そして、いつか、まだ分からない遠い未来に、代償を還し、「魔の力」を取り戻し、その命の連なりを終わらせようーーとも決意しました。


それから今まで、悪魔は「人で失くなった者」達を繋ぎ続けています。

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