幕開け
初めて投稿します。拙い表現で表現もところどころ不安定ですが、まったりと読んでいただけたら幸いです。
熱い。
暗闇の中にうずくまっていた『何か』はそう思って小さく身じろぎした。
この殻をぶち破りたい。
自分を縛りつけているこの重い鎖を振りほどきたい。
早く出たい、という身を焼くようなじれったさ。
もうずっと、これを引きずっているんだ、と『何か』は不満を言った。
ずっとずっと、……ううん。違うな。
『何か』は否定した。
自由を知っている、だから、その中にもう一度飛び出したいんだ。
『何か』は少し上を見上げた。
きっと、この殻の向こうにある「自由」に触ったことがある。
だから――
まだだ。
月明かりに照らされた校舎の中を一つの影が疾走していた。
息は切れるし、月明かりでちらつく校章は目障りだし、首から下がるネクタイは頬を打つし、靴下だけの素足に大理石の床は冷たいし、スカートの裾はひらひらして邪魔だし、何より、どうして走っているのかが既に分からなくなりはじめていた。
教室を三つほど勢いよく通り過ぎて、廊下を曲がった人影は、そこで立ち止まって息をつく。
「…っは…はあ…もう、大丈夫、かな……」
だいぶ長いこと走っていたのだろうか、よくわからない。けれど、汗ばんだ背中に重厚な造りの木の扉はひんやりとして気持ちよかった。
「えっと……」
呼吸を落ち着かせながら、彼女はこんがらがった思考回路を一本ずつほぐし始めた。
――忘れ物を取ろうと思ってフェンスを乗り越えて……
――確かに教室に置いてあったそれを回収して……
――物音に、好奇心半分、教室の向かい側の倉庫の扉を開けて……
――半透明のヒトガタに襲われた。
「そこだよ、わかんないのは!半透明じゃなければタチの悪いイタズラってことで済んだのに!」
大体、半透明で自立して動くヒトガタって、そもそもファンタジーとかホラー映画とかによく出てくるゴーストとか幽霊の類じゃないのか?そんなものが、この現実にあるわけが……
そう思いかけて、しかし彼女はふと思いとどまった。
「……痣、だ」
手首にくっきりと指の形に痣が付いている。そういえば、逃げ出す直前、掴まれていたような気がするような……
「って、あれ…」
いつの間にか、扉を背に彼女は囲まれていた。右からも、左からも、壁から溶けて出てくるように、立体の、そして半透明のヒトガタが現れる。一体、二体なんてもんじゃない。まさに、次から次へと言った様子。とどまる所を知らないと言うのはどうしてなかなか厄介なものだった。
「ああ!めんどくさい!」
なんで逃げなくてはいけないのかはわからない。
ただ、記憶のどこかで何かが叫んでいる。
――逃げろ、と。
この後、彼女は必死になって暗い校舎を走り続けた。
感想、指摘など、ありましたら、よろしくお願いいたします。
今後の参考にしたいと思います。
次はいつ更新になるかわかりませんが、気長に書いていくつもりです……。