第七話「命の価値」
炎の奇襲によって、敵の陣形は完全に崩壊した。
俺たちの、反撃の始まりだ。
「ケイ、エレイン! 一気に行くぞ!」
混乱し、燃え盛る炎から逃げ惑う鎧の男たちに、俺は真っ先に斬りかかった。
「風よ、彼の剣となりなさい!」
エレインの声に応え、風の精霊が俺の剣に纏わりつき、その切れ味を増す。
統率を失った彼らは、もはや修行を積んだ戦士ではなく、ただの烏合の衆だった。
ケイが盾で薙ぎ払い、俺が剣で切り裂く。
エレインの放つ風の刃が、逃げようとする者の足を的確に射抜く。
阿鼻叫喚の掃討戦は、数分もかからずに終わった。
森の静寂の中に、俺たちの荒い息遣いだけが響く。
地面には、おびただしい数の男たちが転がっていた。
ただ一人、リーダー格の傷の男だけが、仲間を見捨てて森の奥へと逃げていくのが見えた。
「逃がすか!」
この男だけは、絶対に逃してはいけない。
俺の直感がそう告げていた。
だが、距離が離れすぎている。
今から追いかけても、森の闇に紛れてしまう。
俺は、思考を巡らせた。
ストックの中に、一つだけ、遠距離攻撃ができるアイテムがあったはずだ。
第三話の10連ガチャで手に入れた、アレを。
俺は即座に、ストックからそれを具現化させた。
右手に現れたのは、刀身15センチほどの、投擲用の(R:小ぶりのナイフ)だった。
逃げる男の背中に、全神経を集中させる。
俺はナイフを、逃げる男の背中に向けて放った。
刃は唸りを上げて闇を切り裂き、寸分違わずその背中に突き刺さる。
「ぐっぁ」
短い呻き声を残して、リーダー格の男は前のめりに倒れ、動かなくなった。
これで、本当に、全てが終わった。
俺は、大きく息を吐いた。
隣では、ケイが盾を下ろし、エレインが彼の傷ついた腕に、そっと治癒の光を当てている。
俺は、自分の手についた返り血と、男の背中に突き刺さったままのナイフを、ただ黙って見つめていた。
これが、俺が生まれて初めて人を殺した戦闘だった。
その瞬間、俺の頭の中にだけ、あの半透明のスクリーンが、淡々と結果を告げた。
(人間型の敵対存在を10体討伐。獲得ポイントにボーナスを加算)
(ガチャポイント:2550 pt を獲得)
ガチャポイント:2582 pt
ゴブリン一体で、せいぜい10ポイント。
それが、たった一度の戦闘で、2500ポイント以上?
十数人の命が、10連ガチャ2回分以上の「ポイント」に変わった。
冗談じゃない。人の命が、俺のギャンブルのコインに変わったっていうのか?
「……っ、う……うぇっ……」
喉が痙攣し、酸っぱい液体が逆流する。
冷や汗が背中を伝い、膝が勝手に折れる。
涙と唾液で顔を濡らしながら吐き続け、震える指先で地面を必死に支える。
「はぁ、はぁ」
まだ動悸と吐き気がおさまらない。
(俺のこの力は、一体、何なんだ?)
答えの出ない問いが、鉛のように、俺の心に重くのしかかっていた。
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