第六話「反撃の狼煙」
「皆殺しだぁ!」
リーダー格の男の非情な号令。
四方八方から、10を超える数の鎧の男たちが、殺意をむき出しにして襲いかかってきた。
「早い」
真っ先に斬りかかってきた男の剣筋は、そこらのゴブリンやごろつきとは訳が違う。
きちんと修行を積んだ者特有の、無駄のない鋭さがあった。
モンスターとの戦いには普段から慣れているが、人間との命のやり取りはほとんど経験がない。
相手の鋭い剣が俺の喉元を抉る寸前、俺はなんとか半身でそれを受け流し、すれ違いざまにその剣を握る右腕を浅く切り裂いた。
「チッ!」
男が痛みによろめき、体勢を立て直すよりも早く、俺は追撃を繰り出そうとする。
だが、別の二人が俺の背後から迫って来ていた。
「多勢に無勢、だな!小僧ども」
「アーサー、下がるんだ!」
ケイが、俺とエレインの前に躍り出た。
彼は巨大な盾を地面に突き立てると、大きく息を吸い込み、腹の底から叫んだ。
「お前たちの相手は、この俺だ!」
ケイの雄たけびが戦場に響き渡り、俺たちに向かっていた全ての男たちの視線が、憎悪に燃えるような赤い光を帯び、ケイただ一人に向けられた。
弓兵までもが、エレインを狙うのをやめ、ケイに向かって矢を放ち始める。
ケイのスキル、(挑発)が決まった。
「ケイ!」
「問題ない!」
ケイは盾を構え、四方八方から降り注ぐ剣戟と矢の豪雨を、その巨体とスキルで完璧に防ぎきっていた。
盾にぶつかる剣撃は、一撃一撃が大型の魔獣の突進にも匹敵するほどの重さだ。
しかし、ケイは足の裏に根でも生やしたかのように、一歩も揺るがない。
だが、それは、彼が完全にその場に釘付けにされることを意味していた。
あれでは、じり貧になるのは時間の問題だ。
「エレイン!」
「ええ!」
俺の意図を察したエレインが、杖を地面に突き立てる。
「芽吹き、絡げ、彼らの足枷となれ! 大地の精霊よ!」
エレインの杖から、緑色の光が放たれる。
ケイに群がる男たちの足元から無数の木の根が突き出し、鎧ごと締め上げた。
動きが鈍った好機を逃さず、ケイは吠えた。
彼は、ただ盾を構えるだけの男ではない。
その巨体が生み出すパワーを全て乗せた一撃、シールドバッシュがさく裂した。
ゴッ、と鈍い音が森に響く。
鎧ごと叩き潰された男が、後ろにいた仲間を巻き込んで、木の葉のように宙を舞った。
二人まとめて、森の木に激突し動かなくなる。
だが、それも一時しのぎだ。
この状況を打開できるのは、俺の(ガチャスキル)だけだ。
このスキルは、ガチャで出たものを専用ストレージにストックでき、俺が見ている範囲、およそ5メートル以内なら、どこにでも具現化できる。
俺は頭の中にストックしてあるガチャの結果を思い浮かべる。
ストックには、Rランクの攻撃魔法もいくつかある。
だが、敵がケイに密集しすぎている今、使えばケイまで巻き込みかねない。
ならば・・
俺の脳裏に、一つの映像が浮かんだ。
あの、バカでかい干し草の塊。
そして、R(火起こし)のスキル。
組み合わせれば・・!
「Nランクを、なめるなよ!」
俺の思考に応じ、敵の頭上に、巨大な干し草の塊が出現する。
「なっ!?」 「なんだ、上だ!」
突然頭上に出現したそれに、男たちが一瞬だけ空を見上げた。
その、コンマ数秒の隙。
俺は、ストックしておいたスキルに、全神経を注ぎ込んだ。
(スキル:火起こし(R))
「燃えろ!」
俺の指先に灯った小さな火種が、落下する干し草の塊に着弾した瞬間、爆発的な炎となって燃え上がり、灼熱の塊となって男たちの頭上へと降り注いだ。
「ぐわぁっ!?」 「熱い! 体に火が!」
灼熱の熱風と奇襲に、敵の陣形が完全に崩壊する。
炎をまともに浴びた二人が、悲鳴を上げながら地面を転げ回り、やがて動かなくなった。
残りの者たちも、鎧の隙間に入り込んだ火の粉を払いのけようと、必死にもがいている。
「ケイ、エレイン! 今だ、行くぞ!」
混乱する敵の集団に斬りかかりながら、俺は叫んだ。
俺たちの、反撃の始まりだった。