第二話「金色の復讐者」
月の光だけが差し込む、冷たい石造りの部屋。
豪華ではあるが、どこか人の温もりが感じられないその一室で、モードレッド・アシュフォードは一人、小さなリボンを握りしめていた。
それは、彼が7年前に失った最愛の妹、リリアの形見だった。
「リリア」
唇から漏れた声は、自分でも驚くほど乾いていた。
脳裏に蘇るのは、歓声と、そして恐怖の眼差し。
あの戦いで気を失っていた俺が目を覚ました時、戦いは終わっていた。
村は救われ、俺とケイ、そしてエレインは、村人たちから英雄として迎えられた。
天にも昇る心地だった。
だが、一人足りなかった。
いつも俺たちの中心で、馬鹿みたいに笑っていたはずの、あの男アーサーの姿だけが見えなかった。
俺がアーサーのことを尋ねても、村人たちは「誰のことだ?」と首を傾げるばかり。
エレインとケイに視線を向けると、二人は、何か痛みをこらえるように、ただ俯くだけだった。
エレインは唇を噛み締め、ケイは拳を強く握りしめている。
まるで、何か言いたいのに、言えないそんな風に見えた。
「お前ら、何か知ってるのか? アーサーのこと」
「すまない、モードレッド。俺たちは、何も・・」
「何も、知らない・・」
二人の声は、震えていた。
奇妙な違和感を胸に抱いたまま、俺はいつの間にか手に入れていた不思議な力【ガチャスキル】を、村の復興に役立てようとした。
最初は、村人たちもその便利な力を喜び、もてはやした。
だが、その力がどこから来たのか、なぜ俺だけが使えるのか、その得体の知れなさが、次第に感謝を恐怖へと変えていった。
「あれは神の力じゃない」「邪神の呪いだ」「あいつは化け物だ」
そして、その恐怖は、俺の家族にまで向けられた。
「少し村を離れた方がいい」
ケイの忠告を受け、俺は騎士になる夢と、家族の立場を守るため、一人王都へと旅立った。
騎士団の入隊試験は、過酷だった。
スキル使いへの侮蔑と、貴族たちの妨害。
だが、俺の実力で全てをねじ伏せた。
「合格だ」その一言を聞いた時、心の底から歓喜した。
これで、リリアに良い暮らしをさせてやれる。
村の連中も見返してやれる。
俺は、胸に合格を証する紋章を抱きしめ、急いで故郷へと馬を走らせた。
吉報を、一刻も早く伝えたくて・・
俺が村で見たのは、荒らされた家と、冷たくなった妹の亡骸。
そして、「化け物の妹が死んでせいせいした」と笑う、俺たちが救ったはずの村人たちの声だった。
「ああ」
憎しみが、腹の底から込み上げてくる。
俺から希望を奪った愚かな村人たち。
俺の力を認めながら、その家族を守れなかった、腐った王国。
そして、この理不尽な悲劇を許した、この世界そのもの。
全てが、憎い。
「モードレッド」
静かな声に、モードレッドはゆっくりと顔を上げた。
部屋の入り口に、仮面をつけた白髪の男。
この組織のボスであり、彼が唯一尊敬する男、ガウェイン・アークライトが立っていた。
「ガウェイン様」
「辛気臭い顔をするな。お前の気持ちは、俺が一番よく分かっている」
絶望の淵で生きる希望を失っていた自分を拾い上げ、戦う術と、復讐という目的を与えてくれた男。
彼の声には、不思議な説得力があった。
「「静寂の森」の準備は進んでいるか」
「はっ、いつでも」
「そうか。あの遺跡は、我々の悲願を達成するための、最初の鍵だ。失敗は許されん」
「ご心配なく。邪魔が入れば排除するだけです。誰であろうと」
モードレッドの青い瞳に、冷たい光が宿る。
その光は、天才と呼ばれ村中の人々から慕われていた少年の面影を、どこにも残してはいなかった。
「リリア見ててくれ。お前を奪ったこの世界を、俺が必ず、この手で壊してやるから」
握りしめたリボンに、復讐を誓う。
彼の心を満たすのは、もはや英雄への憧れではない。
ただ、全てを焼き尽くす、黒い炎だけだった。
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新人作家の、識です。
初めての小説執筆で、ドキドキしながら投稿しています。
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