表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ガチャ】で記憶を失った俺、7年後に再会した親友が「お前が憎い」と復讐者になっていた  作者:
第二章「修羅の修行」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/33

閑話4-3:憎しみの果てに

【モードレッド・視点】


あの地獄の修行から数日後。僕は、ガウェイン様の執務室に呼び出されていた。


「最後の試練だ、モードレッド」


彼の声には、いつものような師としての響きはなく、ただ、非情なまでの静けさだけがあった。その瞳は、僕の覚悟を値踏みするように、まっすぐに僕を射抜いている。


渡された資料には、王国の辺境にある小さな村の情報が記されていた。王家が非道な魔法実験に失敗し、その結果発生した疫病によって見捨てられた村。ガウェイン様は、それを「我々の活動の障害となりうる、不安定要素」と断じた。


「この村を、浄化しろ」


その言葉に、僕の心臓が、嫌な音を立てて軋んだ。(また、村か……。僕の故郷と、同じような……)



黄昏時、僕がたどり着いた村は、活気がなく、まるで死んでいるかのようだった。家々の壁は崩れ、屋根には穴が空き、人の気配そのものが希薄だった。炊事の煙も上がらず、子供の声もしない。ただ、時折聞こえてくる、病に苦しむ者の、弱々しい呻き声だけが、ここがまだ墓場ではないことを示していた。


その時、通信用の魔道具から、ガウェイン様の冷徹な声が響いた。《村人を、皆殺しにしろ。抵抗する者はもちろん、女子供も、老人ですら、一人残らずだ。これは、命令だ》


(これは、試験のはずだ……。だが、もし本気だとしたら? 僕は、この人々の命を、本当に奪うのか?)(そうだ……7年前、僕の妹を殺したのは、こんな、どこにでもいる、ただの村人たちだったじゃないか……!)


憎悪が、僕の全身を焼き尽くそうとする。僕は、一軒の家の前で、幼い娘をかばう若い母親と遭遇した。


「お願い……この子だけは……どうか……」


娘の、怯えた瞳が、死の間際のリリアの顔と、鮮烈に重なる。


脳裏に、あの日の地獄が蘇る。「お兄ちゃん……痛いよ……」そう言って、腕の中で冷たくなっていくリリアの体。妹の亡骸を抱きしめる僕に、遠巻きにした村人たちが投げかけた言葉。「化け物の妹が死んでせいせいした」「これで村も安心だ」という、残酷な囁き。


憎しみが、頂点に達した。僕は震える手で、双剣を、母娘に向かって振り上げる。


「……すまない」


だが、その刃は、母娘の隣の地面に、深々と突き刺さった。


「……逃げろ。村の者、全員に伝えろ。今すぐ、西の森へ」


母親は、信じられないという顔で僕を見つめ、やがて、全てを悟ったように、涙を流しながら深く頭を下げた。そして、娘の手を固く握りしめ、闇の中へと消えていく。僕は村人たちを殺さず、解放した。そして王家の監視の目を欺くため、誰もいなくなった家々に火を放ち、村が壊滅したかのように偽装した。



帰還後、僕はガウェイン様の前に、全ての顛末を報告した。命令違反。どんな罰でも受ける覚悟だった。


ガウェイン様は、何も言わなかった。ただ、そのマスクの奥の瞳で、じっと僕の心の奥底を覗き込むように、見つめていた。重い沈黙が、部屋を支配する。


やがて、彼は、静かに言った。


「……合格だ」


その声は、どこか安堵したように聞こえた。


「しかし、僕は命令に背きました」


「それでいい。お前は、憎しみに囚われなかった。殺せる力を持ちながら、殺さない選択をした。それこそが、本当の強さだ」


ガウェイン様は、静かに僕の前に歩み寄ると、その大きな手で、僕の頭を、子供にするように、優しく撫でた。僕の体が、びくりと強張った。7年間、この人から受けたのは、厳しい指導と、剣の鍛錬だけだった。こんな風に、優しく触れられたのは、初めてだった。


「モードレッド……お前は、俺の息子の仇を討つための道具ではない。お前は、お前自身の人生を生きるべきだ。だが……今の俺には、お前をこの闇から解放してやることができない。すまない……」


その、初めて聞く、弱々しい声。その、あまりにも温かい手のひら。僕の目から、堪えていた涙が、こぼれ落ちた。7年間、誰にも見せることのなかった、孤独と悲しみの涙だった。


「僕は、あなたについていきます。それが、僕の選択です」


憎しみだけではない、確かな絆が、僕たちの間に結ばれた瞬間だった。



翌日。ガウェイン様から、新たな任務が告げられた。


「王家に追われている、古代オートマタの姉妹機を確保しろ。それは、邪神封印を解くための、重要な鍵だ。何としても、我々の手に収める」


彼は、含みを持たせるように付け加えた。


「……お前は、そこでアーサーと再会するかもしれん」


「構いません」


僕は、迷いなく答えた。


「今度こそ、僕は勝ちます」


その夜、僕は一人、自室の窓辺で月を見上げていた。手には、影渡りの双剣が握られている。


(リリア。僕は、まだ迷っている。ガウェイン様は、憎しみに囚われるなと言う。でも、僕の心は、まだアーサーへの憎悪で満ちている。なぜ、あいつは全てを忘れているのに、幸せそうな顔で、仲間と笑っているのか。なぜ僕は全てを覚えているのに、すべてを失ってしまったのか)


(答えは、まだ出ない。でも、一つだけ分かったことがある。僕は、もう無闇に人を殺さない。この手は、お前が望まない血で、これ以上汚したくない)


(次にアーサーと会う時、僕は本気で戦う。殺すためではなく、勝つために。そして、いつか答えを見つける。この憎しみの、本当の意味を)


同じ月を、遠い場所でアーサーも見ているかもしれない。


「……待ってろ、アーサー」


その呟きは、夜の闇に静かに溶けていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ