卑屈なオメガは純朴なアルファに餌付けされる
何でも屋をやっている灰原零は主に復讐代行をやっていた。
復讐代行の内容はアルファに捨てられた末に死んだオメガの敵討ちが主なものだった。
その日も、復讐代行を終え、帰宅すると──
俺は灰原零。
何でも屋をやっている男だ。
……そしてあまり言いたくないがオメガだ。
30過ぎてもオメガが一人でいるには理由がある。
簡単だ。
俺は最初の恋人、アルファに捨てられた。
それが不信となってアルファと関わるのは止めている。
何でも屋をやっていると言ったが、実際は復讐屋だ。
我が子がオメガでうなじを噛まれて子どもも居るのに、運命の相手がいると言って捨てられ、死亡してしまった子の復讐を頼まれることが多い。
俺の復讐のやり方は社会的に死んで貰ってから、肉体的に二度とオメガにも手を出せないようにする。
それが俺の方法だ。
「お前の所為で俺は、会社からも妻子からも縁を切られたんだ! どうしてくれる!」
「ほぉ、お前が最初に番にして捨てた人物とその子には何も支払っていなかったんだろう? 子どもくらいにはせめて養育費を出してやらないとな」
俺は皮肉を込めて言う。
顔を真っ赤にして殴りかかってくる男の足を引っかけ体勢を崩して、股間をガン! とかかと落として踏む。
男は痛みのあまりに泡を吹いて気絶した。
感触的に玉と竿は使い物にならないだろうな。
「あばよ」
俺は眼鏡をかけ直してその場を後にした。
隠れ家に戻ると、嫌な奴が嫌がった。
「灰原さん、お仕事終わりましたか⁈」
こいつは皆木真。
アルファだ、俺が大嫌いな。
「皆木、二度と来るなっつったろうが?」
「だって灰原さんが心配で……」
「余計なお世話だ!」
俺は怒鳴りつけるが、こいつはけろっとしていやがる。
「いい加減帰りやがれ!」
「あ、冷蔵庫に夕飯と朝食いれておきましたよ! 上の段が朝食ですから! じゃ!」
「二度と来るな!」
と何度追い返してもやって来る。
鍵は渡してない、理由。
アイツ鍵屋の倅なんだよ。
だから俺の隠れ家の鍵を開けるなんて朝飯前。
厄介な奴に好かれた。
が、飯には恨みはないので食うことに。
温め直して食べると美味い。
「なんであんな20代前半の若いのがこんな30代の枯れかけてるおっさんに興味を持つんだか」
俺は盛大にため息をついた。
皆木の奴を出会ったのは俺が仕事帰りのこと。
「おい、皆木! テメェ人の女に手を出したんだろう!」
「誤解だ! 俺は拒否した!」
「嘘つけ、手を出されたって泣いてたんだよ!」
「はぁ⁈」
一人のお人好しそうな男を囲んでいる連中を見た覚えがあった。
屑はとっととゴミ箱にいってほしかった。
「嘘で脅して金を取る常套句だな」
「な、何だテメェは!」
「テメェの女をけしかけて、それでいちゃもんをつけて金を巻き上げる輩がこの辺りで増えてて有名なんだよお前らは、テメェら全員豚箱行きになるか、それとも色々と終わるか、どっちがいい?」
図星だったからか、男共は俺に向かって来た。
全員叩きのめし、男性器を潰して再起不能にしてやった。
「ったく、やってらんねぇ」
「あ、あの。俺、皆木真っていいます! 助けてくれて有り難うございます!」
「それ以上近寄るな、お前アルファだろう、俺はアルファが嫌いなんだよ」
「え」
「じゃあな」
そう言って二度と会わないはずだったのだが──
「なんでテメェがここにいる⁈」
「灰原さんですよね、行きつけのバーのマスターに色々聞いてきたんです! お礼がしたくて!」
「テメェが来ねぇのが最大の礼だ!」
そう言って家に入ろうとすると、皆木は俺に弁当を差し出した。
「マスターが碌な食事とってないってぼやいてたので俺の手料理ですがどうぞ! 俺家が、鍵屋と洋食屋なんで!」
「お、おい!」
そう言って俺に弁当押しつけて帰って行った。
アレを拒否してれば今こんなことになっていなかったのにな。
真っ当な食事に惹かれて食っちまったのが罠にかかったようなもん。
美味かったからだ。
弁当を返すと、奴は笑顔で──
「これから毎日食事を作って持って行きますね!」
と宣言し、その通りになった。
はぁ、早くどこかのオメガと一緒になってくれれば。
そう思って居たのに──
ある日のこと。
仲よさそうに歩いているアイツと若い女がいた。
ショックを受けた。
これでいいはずなのに、なんでショックを受けてるんだ──
俺はその場から逃げ出した。
その日、何もする気にならず隠れ家にいると、奴が来た。
「灰原さーん? あれ、珍しいですね、いつもならこの時間バーなのに……ってこの匂いフェロモンじゃないですか! 発情期なのに、何で無防備なんです⁈」
奴は鼻を覆い、いつもある、抑制剤を俺に飲ませようとした。
俺は嫌になって拒否したが無理矢理飲ませられた、そうだよな彼女いるんだしな。
「はい水です……」
「っ……ぷは……お前もう来るの止めろ、彼女いるんだろう」
「はい? いませんよ」
「嘘つくんじゃねぇよ……」
弱々しい声で言う。
「あ、もしかして今日歩いてるの見ました? あれうちの姉ちゃんなんですよ!」
「……は?」
ちょっと待て全然似てなかったぞ!
「姉ちゃんは、オメガの母ちゃんに似て、俺はアルファの父ちゃんに似たんですよ。あ、姉ちゃんはベータなので普通に旦那いますよ」
「な、なんで一緒にいたんだよ、じゃあ」
「旦那へのサプライズプレゼント──明後日義兄さんの誕生日なのでそれを選ぶの手伝えって言ってきたんですよ。ベータとかアルファとか関係なく姉ちゃん強いですよ。でも一番強いのはオメガの母ちゃんですかね? 定食屋やりながら俺等兄妹育ててましたし、鍵屋でアルファの親父尻に敷いてますし」
俺は思わずぽかんと口を上げた。
「もしかして焼き餅やいてくれたんですか? うれしいなぁ」
「う、うるせぇ! とっとと帰れ! この馬鹿!」
「今日の夕食はグラタンっすよ。まだあったかいのでどうぞ!」
袋からカバーを掛けたグラタンの器が出て来た。
手袋をしてテーブルに置き、フォークですくって俺の口に持って行った。
「はい、どうぞ!」
「……」
がぢ、と音を立てて食べる。
ちょっと熱いが相変わらず美味い。
「それと……」
皆木は何かをごそごそと取り出した。
箱に入ったそれは指輪だった。
「俺と付き合ってください」
「……馬鹿じゃねぇか、お前」
俺は嗤った。
「噂で聞いたんですよ、灰原さんを探すアルファがいるって、名前が信楽剛って奴で、灰原さんの元恋人だって」
「……‼」
「どうやら運命の相手と称して何人も捨てたのが会社で問題になって退職させられたから、今も独身だっていう貴方を探してるらしいです」
「……」
「そんな奴に俺は貴方を渡したくないです、受け取ってください」
土下座されて言った。
俺は指輪をとり、左手の薬指につけた。
「結婚指輪はサファイヤにしろいいな」
「! 勿論です!」
いつの間にか、純朴なこいつに絆されていたんだなと、俺は自嘲した。
その後、元恋人にこいつを見せつけて戦意喪失させた。
こいつの両親と顔合わせのときは良くされすぎてて自分の環境の悪さにやっと気付いた。
俺の両親は俺がアルファのアイツに捨てられたと知って俺を勘当したからといったら激怒してくれた。
結婚式のケーキは真の親戚のケーキ屋が作ってくれ、数少ない友人達に祝福された。
何でも屋は続けているが復讐代行からは足を洗った。
「零さーん、ご飯ですよー!」
「ああ、分かった」
仕事を中断し、リビングに向かう。
そしてそこでおかずを箸で掴んでいる真を見てため息をつく。
「何で最初の一口は食わせたがるんだよ」
「いいじゃないですか、はい、あーん」
俺は苦く笑って口にした。
唐揚げは美味かった。
こんな穏やかで幸せな日々が来るなんて夢にも思わなかった。
真、お前の純粋さには感謝しかない──
現代恋愛でBLを久々書いてみました。
オメガバースもので。
中々書き慣れてないので、ちょっと苦戦しました。
零はこれからも真に餌付けされながら幸せに暮らすでしょう。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
他の作品も読んでくださるとうれしいです。