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番外編③ 美南ちゃんの恋人探し

とある文化祭での出来事。ただのギャグです。




「いいか、お前ら!覚悟は出来てるな!?ここで怯んでる奴いたらぶっ飛ばすぞ!!」


「んなわけねーだろ!こっちは全員潰すつもりだ!」


「有り金は全部かき集めろ!なんなら資材は他のところから奪え!」


「百万円は俺らのものだぁぁ!」



今日は珍しくクラス全員が揃い、皆白熱した討論(?)を繰り広げている。



「えー……皆さん。ご承知のとおりだと思いますが、暴力行為は失格となります。勿論強奪は論外ですよー」


そんな怒号が飛び交う中、終始冷静な担任の先生は教壇の脇に立って静かに突っ込む。


その佇まいは小柄だけど、なかなかの貫禄があり、私は感心しながらその光景を眺めていた。




季節は灼熱の夏が通り過ぎ、紅葉が色付き始める頃。

今年もやってきた、文化祭シーズン。


けど、ここは荒れに荒れまくったヤンキー校なので、殆どの生徒は文化祭に対する熱がなく、屋台は申し訳程度にしか出ない。


それどころか、ここぞとばかりに他校生の不良達が押し寄せてきて、毎度実力試しの格闘大会となってしまう。


それを見兼ねた校長先生は、今年こそは文化祭を盛り上げようと、ある大きな決断をした。



それは、出し物で最高売上を出したクラスには賞金百万円を贈呈するとのこと。


しかも、その百万円は宝くじで当てたもので、そのまま生徒に捧げるというから驚きだ。  


その甲斐あって、全校生徒は今までにない程一致団結し、皆本気で文化祭を盛り上げようと一念発起している。


こんなヤンキー校にそこまで献身的になれるなんて、なんて素晴らしい人なんだろうと。

尊敬の念を抱きながら、私は黒板に書き出された出し物リストに目を向けた。



鉄板屋、お化け屋敷、射的屋、喫茶店などなど。


暴力行為が禁止されているため、出てくる案は皆健全なものばかり。


これでようやく普通の文化祭を味わえると思うと、期待値がどんどんと膨らみ、思わず頬が緩んでしまう。



「それでは、これから出し物の投票にうつります。皆さん一人一票ですよ。不正はしないで下さいね」


それから、ある程度案が出揃ったところで、先生は白い紙を配った後にやんわりと念を押してきた。



うーん。


どうしよう。



投票用紙が回ってきて、私は黒板と睨めっこしながら頭をフル回転させる。



鉄板屋は面白そうだけど、煙が気になるし。

お化け屋敷は暫く控えたいし。

射的屋は珍しいから興味を引くけど、そのうち物じゃないものが標的にされそうで少し怖いし。


そうなると、ここは無難に喫茶店がいいかなと。

  


答えが決まった私はスラスラとペンを走らせ、投票箱に票を入れた。




__十分後。



「それでは、うちのクラスの出し物はBAR風カフェに決定しました」


開票の結果、圧倒的多数で喫茶店に票が入り、その中で何をやるか討論したところ、BARとカフェを融合させた出し物に決まった。


その理由が、お酒を飲める場所を作りたいという、法律も規則もガン無視の意見が大多数を占め、当然ながら許可なんて出るはずもなく。


せめて雰囲気だけでもということでカフェに落ち着いた。



BAR風カフェ……。


そもそもバーに行ったことがないので詳しいことはよく分からないけど、きっとお洒落な雰囲気になると思う。


カクテルに真似たジュースを作ってみたり、カウンターを設置してみたり、ジャズを流してみたりとかして、憧れていた大人の世界に一歩踏み出せるかもしれない。








…………そう思ってたのに。





「……………なんか、思ってたのと違う」




文化祭当日。

出来上がった内装を前に、私は呆然と立ち尽くしながらポツリとそう呟く。


「そう?あたしはイメージ通りだけど」


そんな絶望する私とは裏腹に。

乗り気な様子で満足気に教室内を見渡す美南。 


これで何故そんなに喜べるのか不思議に感じながら、改めて自分も教室内に目を向けた。



完成されたのは、まるで無法地帯にある不良の溜まり場のようなお店。


教室内は壁もテーブルも黒一色で統一され、照明は妖しさ満載な紫色のライト。


壁にはドクロマークや、ナイフが突き刺さったダーツや、暴走族が掲げるような旗が飾られている他。


高校であってはならない空のビール・焼酎瓶がずらりと壁一面に並べられ、落ち着いた雰囲気とはかなりかけ離れた内装に、理想がガラガラと音を立てて崩れていく。



「やだ、私もう帰る!ここに居るだけで怖いよ!」


これでは、あっという間に不良達が集まりそうで、文化祭を楽しむどころではくなった私は、教室を本気で出ようと一歩足を踏み出す。


「大丈夫だよ。莉子は櫂理君の彼女だし、雨宮君と圭君もいるし。後ろ盾最強過ぎだから堂々としてればいいじゃん」


けど、それを許さないと。

すかさず美南に腕を掴まれてしまい、逃げ道を塞がれた。


「いい、莉子。ここは戦場だよ。普段ヤンキー共しかいない場所に堅気が来るんだよ。こんなまたとないチャンスをみすみす逃すなんて、絶対にあり得ないから!」


そして、急に血相を変えて鬼気迫ってくる美南の圧に押され、私は唖然とした。


「で、でも美南さん。こんなヤンキー校にまともな人が来るとは到底思えな……」


「諦めたらそこで試合終了だよ!」


それから、冷静に突っ込もうとしたところ、某漫画のセリフで語尾強く押し切られてしまい、私はこれ以上何も言えなくなってしまう。




◇◇◇




「……は?前の学校の奴ら?」


「うん。雨宮君の前の学校ここからそんなに離れてないでしょ。だから、来るのかなーて。ていうか、誰か良い人いたら紹介して」



何を思い立ったのか。

既に売り物のジュースで一杯始めてる雨宮君の隣に座り、猫なで声でおねだりをする美南。


なんだかその様が、やさぐれたOLと少し悪なお兄さんがお酒を飲み交わしているようで、私は遠目で二人を見守った。



「まあ……来るかもしれないけど、ここの奴らと大して変わらねーぞ。それと、あんたの出会いサポートするつもりないから」


「ちっ、使えねー」


すると、期待を込めた表情から一変。

雨宮君から一刀両断され、美南の表情がひどく歪み、本音が駄々漏れてる。


「とりあえず今年は出店も多いし、イベントも多そうだから、一緒に回りながら出会いを探そう」


そんな彼女をフォローするため、私は急いで彼女の元に駆け寄ると、笑顔で肩に手を置いた。



「……確かに。莉子と歩いたら目立ちそうだよね」


それから暫く私の顔を凝視した後、ポツリと呟いた美南の目が、まるで獲物を狙った鷹の如くキラリと光る。



美南さん、なんか怖いです。



そのただならぬ気迫に押され、私は思わず生唾を飲み込む。



こうして、彼女の勢いに押されるまま、文化祭という名の出会い探しが今幕を開けようとしたのだった。




◇◇◇



文化祭開始後、一般公開が始まったと同時に来客が校舎の中に押し寄せてきた。


今年は賞金が掛けられているだけあって、注目度がかなり高く、例年よりも圧倒的に人が多い気がする。


来る客は大体柄の悪い人達ばかりだけど、中にはまともな学生もちらほらいるので、もしかしたら美南の言う通り、今回はかなり期待出来るかもしれない。



「それにしても、なんで急に?今まで彼氏欲しいなんて一度も話したことなかったじゃん」


店番の時間になるまで私は美南と校内を回りながら、ふとそんな疑問をぶつけてみる。


「まあ、確かに始めはそこまでじゃなかったよ。でもさ……」



「莉子!」



その時、前方から私の名前を呼ぶ声が聞こえ、振り向くと、そこには黒色タキシードに黒ネクタイ姿の櫂理君が笑顔でこちらに駆け寄ってきた。


「櫂理君、執事コス似合ってるね。凄く格好良いよ」


その姿に惚れ惚れしながら、私は手を広げて彼の抱擁を快く受け入れた。


こうして、今では公衆の面前でイチャつくことも厭わなくなり、最近は自らも積極的にスキンシップを取っている。


それが良いのか悪いのかよく分からないけど、日に日に櫂理君の好き具合が増していき、自分でも抑えることが出来なくなってきた。



「……くそ。リア充が」



すると、突如脇から舌打ちと共に、美南の低い呟き声が耳に入り、私はビクリと肩を震わせる。


「いいよねー莉子は。中身はさて置き、イケ散らかした弟君に愛されまくって。それを毎日見てるとさ、こっちも段々やさぐれてくわけよ」  


そして、これまでは呆れながらも微笑ましく私達を眺めていた美南の顔が、今日は酷く歪んでいた。


「あ?なんだお前。俺らにひがんでんの?そんなんで彼氏なんか出来るわけねーだろ」


「櫂理君、言葉の暴力が酷いよ」


それなのに、平然とした顔で挑発的な態度を取る彼の暴挙を、私は即座に制した。



「それより、櫂理君はこの時間まだ店番じゃないの?ここに居て大丈夫?」


確か、今朝見せてくれた当番表では朝一から当たっていたような気がしたけど……。


「なんか見せ物にされて疲れたから、莉子に癒されに来た」


そう言うと、櫂理君は眉間に皺を寄せながら深い溜息を一つ吐く。



「おい。客寄せパンダがこんな所で油打ってたらダメでしょ」


その時、前方からドスの効いた声が聞こえてきた瞬間。


突然櫂理君が私から勢いよく剥がれ、何事かと視線を向けると、そこには彼の首根っこを掴みながら闇深い笑顔を浮かべている圭君が立っていた。


「別に俺じゃなくても圭が居れば十分じゃねーかよ。もう女共に囲まれるのは嫌なんだ!」


すると、まるで駄々をこねるように櫂理君は何とかその場に留まろうとする。


「そんなんで賞金獲れるわけないでしょ。いいから、さっさと戻るよ」


けど、圭君は容赦なく櫂理君をそのまま引き摺り、教室へと引き返した。



あの櫂理君を片手一つで従わせるのは、おそらくこの学校内では圭君しかいないと思う。



そんなことを切実に思いながら、折角なので櫂理君達の出し物を見に行こうと、私達もこのまま彼等に付いて行くことにした。







「………え。凄すぎ……」


そして、教室の前に辿り着くと、そこには秋葉原顔負けの西洋調な執事&メイドカフェが出来上がって、思わず感嘆の声が漏れる。


内装はまるでお屋敷の一室を再現したように、赤色のカーテンと絨毯が引き詰められ、真っ白なクロスが掛けられたテーブルの上には可愛らしい花瓶とマグカップが置かれていた。


他にも、壁には絵画が飾られていたり、一体どこで手に入れたのか。天井には立派なシャンデリアが吊り下げられていたりでかなり本格的。


その中で、一際異彩を放つ執事コス姿の櫂理君と圭君。


彼等の周りには尋常じゃないくらいの女性客が群がり、用意された白いソファーの前で無数のフラッシュが焚かれている。


そして、その脇にはちゃっかりと撮影料千円という、なかなかにエグい金額か書かれていて、思わず二度見してしまった。



「流石だわー。でも、確かに暴力行為を封じられている最強コンビを好き勝手に出来るのは、この時しかないかも。あたしも写真撮ろうかな」


「一回千円だけどいいの?」


すると、何やら惹きつけられるようにふらりと撮影の列に並ぼうとするので、私は冷静に突っ込んでみた。


というか、この数だったら百万円狙わずとも、売上だけでかなりの額が見込めそうな気がするけど……。



それにしても、これでは櫂理君が逃げ出したくなるのも無理はないと思う。


いくら賞金のためとはいえ、こんなにフラッシュを焚かれたら誰だって嫌な気分になる。



…………というか。



私だって執事コスの櫂理君撮りたいのに。


文化祭とはいえ、知らない女の子達ばっかり櫂理君を撮っているのは、何だか見てて悔しくなる。



家に帰ったら、もう一回執事コスしてくれないかな……。



相変わらず凄まじくモテる彼等を、側から見守りながら内心そんなことを目論んでいた時だった。




「ねえ、君達可愛いね」


突然背後から声を掛けられ振り向くと、そこには他校の制服を着た、いかにも好青年らしい高校生男子二人組が立っていた。


「ここは女子が殆どいないから全然期待してなかったけど、君達みたいなレベル高い子もいるんだ」


そして、爽やかな笑顔を振り撒くのは、うちの学校では絶対にいない小麦肌をした短髪のスポーツマンみたいな人。   


顔はそこそこにイケメンで、軽い感じはあるけど、そこまでの嫌悪感を抱かないのは、この屈託のない笑顔が要因だからか。

私はもの珍しさに見入ってしまい、暫くその場で立ち尽くす。



「お前ら死にたいのか?」


すると、不意に私達の脇から長い腕が伸びてきた途端。

今にも人を殺めそうな目を向けながら、櫂理君は男子生徒の胸ぐらを掴んできた。


「櫂理君ダメ!」


間髪入れず私は慌てて彼の背中に抱き付くと、怒りのボルテージが一気に下がったのか。

呆気なく男子生徒から手を離してくれた。


「せっかくの美南の出会いを邪魔しちゃダメだよ。だから今日は我慢してくれないかな?お家帰ったら、いっぱい甘えていいから」


そして、こっそり耳打ちすると、険しかった櫂理君の表情は段々と緩み始めていく。


「約束だからな」


しまいには、目を輝かせながら笑顔を向けてきたので、一先ず私は胸を撫で下ろして首を縦に振った。



「あの、私達はBAR風カフェやってるので、もし良かったら遊びに来て下さい」


それから気を改めて。


美南のために勇気を振り絞り、宣伝も兼ねて男子生徒に笑顔で用意していたビラを配る。


「ほら美南も。絶好のチャンスだよ?」


一方、先程から全く反応がない彼女を不思議に思いながらも、さり気なく促してみた矢先だった。


「来たけりゃどーぞ」


興味など1ミリもないといった表情で、なんとも雑な扱いをしてくる美南。


「そ、それじゃあ気が向いたらということで」


その空気を読んだ男子生徒は苦笑いを浮かべながら、逃げるようにこの場を離れて行ってしまった。




「…………あの、美南さん?さっきの人達それなりに良い感じだったと思うんですけど」


まさかの自らチャンスを潰すという事態に驚きを隠せない私は、恐る恐る彼女の顔を覗いてみる。


すると、突然勢い良く肩を掴まれ、思わず軽い悲鳴を上げてしまった。


「どうしよう莉子。櫂理君達の顔に見慣れてしまったせいか、そこらの男子が芋にしか見えない」


「…………え?」


そして、至極真面目な顔で何とも残酷な事を言ってのける美南に、私は目が点になる。


「確かに今の二人は全然悪くなかったけど……ダメだ。櫂理君と肩を並べると、どうにも彼等が視界に入ってこない。ねえ、どうしてくれるの!?」


「は?俺のせいか?」


それから、言われた通り大人しく隣で静観していた櫂理君に食ってかかる美南さん。


「まあ、そんなに焦らなくてもまだ文化祭は始まったばかりだし、じっくり探せばいいんじゃない?」


そんな荒れ狂う美南を宥めるように、いつの間にやら脇に立っていた圭君は、穏やかな笑みを浮かべながら美南の頭を優しく撫でる。


「それなら圭君が私と付き合ってよ。この際年下でも全然ありだから」


「うん。絶対無理」


その流れで優しい言葉を返してくれるのかと思いきや。

満面の笑みで清々しい程バッサリと切り落としてきた圭君には、相変わらず恐れ入る。



それから私達は櫂理君達と別れ、お店のビラ配りついでに美南の出会い探しの旅を再開させた。




「ねえ美南。外見も良いけど中身の方も大事なんじゃない?」


各フロアを回っている最中、何人かの人に声を掛けられるも、相変わらず興味を示さない美南にお節介だとは思いながら一応助言してみる。


「そうなんだけどさ。あたしって極度の面食いだから、初見微妙だと性格見るまでに意識がいかないの」


「へー、そうなんだ」


けど、予想通りの答えが返ってきたので、私は軽い返事だけすると、これ以上余計な口を挟むのは止めた。



結局歩き回った結果、美南のお気に召す人にはなかなか巡り会えず。 


そうこうしていると店番の時間が来てしまったので、私達は教室へと引き返した時だった。


「なんか、やけに人多くない?」


いつの間にやら教室の周りには沢山の人集りが出来ていて、しかも、その大半が他校の女子高生達。


尚且つ、皆同じ制服を着ているということは、もしかして……。




「雨宮君久しぶり。あたしのこと覚えてる?」


「なんか、このお店雨宮君のイメージにピッタリだね」


「ねえ、写真撮ってもいい?」



やっぱり。


人集りを掻い潜り教室に入ると、雨宮君の周りには他校生の女の子達がひしめき合っていた。


流石は雨宮君。

前の学校の子達がここまで押し寄せてくるとは。


うちは女子が圧倒的に少ないから人気具合がいまいち分からないけど、普通校にいけば相当モテるんだということが、これでよく分かった。



それにしても、あの破天荒な雨宮君にあそこまで女子が臆せず寄り付くということは、もしかしたら前の学校では雰囲気が少し違うのだろうか。


マイペースな彼だから、環境が変わっただけで態度が変わるとは到底思えないけど……。



なんだか、凄く気になってきた。



「あの……すみません。前の学校では雨宮君ってどんな感じだったんですか?」


居てもたってもいられなくなった私は、思いきって近くにいた他校生の女子にこっそり尋ねてみると、何やら物凄い剣幕で睨まれた。


「え?なに?雨宮君はもうそっちのものだから、余裕ぶってるわけ?」


「………………へ?」


「いいよね。そっちは毎日彼の顔拝められて。うちらは眼福失ってモチベーションだだ下がりなんだけど」


「あの……そういうつもりで聞いたわけでは……」



なんだろう。


なんか、触れてはいけない領域に触れてしまった気がする。


そんな危機感を抱き、話が拗れる前にこの場からさっさと身を引こうとした矢先だった。


「てか、もしかして雨宮君の彼女?だから、彼のこと知りたいとか?」


「え?あの、全然違いま……」


「ここって女子少ないから、ちょっと可愛いだけでも結構目立ちそうだよねー」


「えと、人の話を聞いて下さ……」


「まさか、それであたしらの事哀れんでたりする?」



なにこの人達!?


釈明する余地すら与えられない!



あの質問一つで何故にこうも話が拗れてしまうのかよく分からないけど、周囲の殺気が怖過ぎて泣きそうになる。


「ちょっとあんた達いい加減にしなさいよ!」


すると、脇から美南が私を庇うように飛び出してきて、少しだけ緊張の糸が緩んだ。


「莉子が可愛いのは当然でしょーが。歪んだあんたらの顔鏡で見てみれば?それでよくマウントとろうなんて思うよね。傍から見れば痛過ぎなんだけど?」


「はあ!?あんたがそれ言うか!?」


けど、安心したのも束の間。

思いっきり波風立てる美南の挑発的な態度にこの場は収拾つかなくなり、今にも殴り合いの喧嘩が始まりそうになる矢先だった。



「おい。さっきから大人しく聞いてれば、誰がいつお前らのものになったんだ?」


突如脇から聞こえてきた雨宮君の静かな低い声に、激しい論争がぴたりと止む。


「そもそも全員知らねーし、騒ぐならさっさと帰れ」


そして、無表情で放たれた容赦ない一言はかなりの効果を発揮したようで。

一瞬にして勢いが萎んだ他校生の子達は、言われた通り大人しく教室を後にした。



「……やば。今のちょっとグッときた」


すると、暫く呆然と立ち尽くしていた美南から溢れた一言に、私はピクリと反応する。



「おい雨宮!お前なに追い返してんだよ!?良い金づるだったのに!あの宇佐美&木崎ペアに対抗出来んのお前しかいねーんだぞ!!」


すると、間髪入れずにクラスの男子達が雨宮君にくってかかり、今度は違う意味でこの場は騒然としだす。


いつもは彼に歯向かうことなんかしないのに、賞金の力なのか。


まるで悪徳経営者のように、なりふり構わず血走った目で卑劣なことを言って退ける男子達に私はドン引きした。


 

「すみませーん。そこにいる女の子二人指名したいんですけど」


その時、二十代前半くらいの男性客二人が中に入ってきた途端、突然私達の方を指先してきて何やら訳のわからないことを要求してきた。


「あの、何のことですか?」


まったく意味が理解出来ない私はきょとんとした目で尋ねると、何故か相手も同じ反応をしてくる。


「え?だって入り口にホスト•キャバクラ風カフェって書いてあるけど?」



………………は??



まさかと思い慌てて教室の入り口前まで戻ると、そこに立て掛けてあった看板を見て絶句した。


そこには”BAR風”の文字に二重線が引かれ、ホスト•キャバクラ風(お触り禁止)と書き直されてる。



「何これ!?いつの間に変わってる!?てか、文化祭の出し物としてアウトじゃないの!?」


「背に腹はかえられないからな」


美南の真っ当な訴えを、真顔で即座に跳ね除ける男子達。


一体この人達はどれ程お金に目が眩んでいるのかと。


同じ学生ながら呆れてものが言えず、私は美南達のやり取りを暫く黙って眺めていた。



「ねえ、さっきから待ってるんだけど。サービスあるの?ないの?」


すると、痺れを切らした男二人組は、若干苛立った様子で私達の方へと歩み寄ってきた時だった。


男達の行手を遮るように、いつの間にか脇に立っていた雨宮君の弾丸のような前蹴りが看板を直撃する。 


そして、それは見事真っ二つに折れて地面に転がった。


「こんなふざけたサービスあるわけねーだろ。いいから、さっさと失せろ」


それから、ドスの効いた声で雨宮君は鋭い睨みをきかせると、その迫力に怖気付いた男達は何も言わず逃げるようにこの場を去って行った。



「あああああ!雨宮何してくれてんだよ!?せっかくの賞金を狙えるチャンスが!」


その直後、男子達の悲痛な叫びが教室中に響き渡る。


そこから非難の嵐が飛んできたけど、我が道を行く雨宮には全く響くことはなく。


それどころか怒りを露わにした瞬間、男子達は一瞬にして大人しくなり、折れた看板は補正され、店名は再びBAR風へと書き直された。




「……はあ。なんか疲れた」


ようやくほとぼりが冷めた頃、どっと押し寄せてきた疲労感に、思わず深い溜息が漏れ出る。


何やら大分賞金に振り回されているような気がして、果たしてこれが得策なのか疑問に感じながら、私は先程から微動だにしない美南に視線を向けた。


「あの……美南さん?」


何故か呼び掛けても無反応で、ある一点を見つめている先に一体何があるのか確かめようとした矢先だ。


「……ねえ、莉子。あたし、今莉子の気持ちがようやく分かった気がする」


何の前触れもなくポツリと呟いた美南の一言に、私は首を傾げる。


「誰かに守られるって……めっちゃそそるよね!」


すると、まるで恋する乙女のように目を輝かせながら雨宮君に視線を向ける姿に、私はある勘が働いた。



どうやら、美南の恋人探しはここで一段落つきそうな。



そんな気配を感じながら、私は今まさに恋に堕ちようとする美南を、その場で黙って見守ることにしたのだった。





※結局、賞金は櫂理&木崎クラスが獲得しました。

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