愛しのボディーガード
「はい、櫂理君」
雲一つない青空の下。
季節はもうすぐ初夏を迎えようとして、少しだけ汗ばむ気温の中、私は櫂理君の前に今朝作った自慢の卵焼きを口元に差し出す。
「……ん、今日も美味しい。莉子愛している」
そして、もはや今となっては息を吸うように甘い言葉を囁かれ、それに段々と慣れ始めていく自分がいる。
櫂理君と付き合うようになってから、私はほぼ毎日彼のためにお弁当を作るようになった。
お母さんには料理の腕を磨きたいからと誤魔化してはみたけど、もしかしたら、私達の異変にもう気付いているかもしれない。
だって、日に日に櫂理君のスキンシップが増して、今では両親の前でも堂々と抱き付き、唇以外の場所にキスを落としてくる。
家の中では秘密にしようって言ったのに、全く隠そうとしない彼の振る舞いはあまりにも潔くて、もはや両親は黙認しているような気がしてきた。
それぐらい櫂理君の愛が毎日溢れていて、私も負けじと返そうとしているのに、その勢いには到底敵わない。
「…………なあ。莉子は俺のこと、たまに負担に感じたりする?」
それから、お弁当を食べ終わった後、いつものように膝枕をしてあげると、何やら神妙な面持ちで投げてきた質問に私は首を傾げる。
「急にどうしたの?」
さっきまで甘い雰囲気に包まれていたのに。
そんなことを聞いてくるのは初めてかもしない。
「前に優星に言われたんだ。暴力的な行為は莉子の負担になるって。確かにそれでいつも莉子に叱られるし、俺もう少し大人しくしてた方がいい?」
なんと。
我が校きっての最恐人物として恐れられている櫂理君が、まさかこんな弱気な発言をしてくるとは。
そのギャップにやられた私は、見事に心を打ち抜かれてしまった。
……けど、これはいい機会かもしれない。
「うーん……そうだなー。もう少し私以外の人に優しくして欲しいかな。とりあえず、虫扱いはダメだよ」
「…………前向きに検討する」
そう思ってここぞとばかりにお願いしてみたのに。
まるでやる気のない政治家のような答えが返ってきて、私はがくりと肩を落とした。
「でも、私が櫂理君を負担に思ったことは一度もないから」
何はともあれ、未だ表情が芳しくない彼にはしっかり気持ちを伝えなければと。
私は櫂理君の頭を撫でながら、柔らかく微笑んだ。
「いつも私を全力で守ってくる櫂理君には感謝の気持ちしかないよ。確かに少しやり過ぎなところはあるかもしれないけど、それが櫂理君だから……」
そして、胸の内を余すことなく、愛しい気持ちと共に一つ一つ丁寧に伝えてく。
「だから、そんな櫂理君が私は大好き」
それから、最後に一番言いたかった言葉を私は満面の笑みで伝えた。
すると、暫く石のように固まってしまった櫂理君。
なかなか反応がないことに、私は何か変なことを言ってしまったのかと段々不安になり始めた時だった。
突然櫂理君が起き上がり、私の首元に抱き付いて顔を埋めてくる。
「ねえ、今ここでめちゃくちゃキスしていい?」
どうしたのかと尋ねようしたところ、不意に上目遣いで可愛くおねだりをされてしまい、私は喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
「……え?あの……ちょっとそれは……んっ」
いきなり刺激的な要求をされ、どう返答しようか迷っていると、その隙に櫂理君は容赦なく私の唇を奪ってくる。
そして、あっという間に彼の熱に取り込まれ、満たされてしまうのは、いつものこと。
結局、私はどうしたって彼に抗うことは出来ない。
でも、もう抗おうとは思わない。
これまで頑なに守り続けていた姉弟としての境界線は、今となっては何の意味をなさないから。
だから、これからも素直に愛し続ける。
この荒々しく真っ直ぐで狂おしい、唯一無二な私だけのボディーガードを。
〜〜END〜〜