呪術師訓練生の解呪試験
「やべ、呪われた!」
20XX年の日本のどこか。
俺達は、呪術師の訓練生として、呪われた箱やら筆やらを解呪している所だ。
そしたら隣の同期のアホがそんなことを言った。
視線を向けると、呪いの影響を受けて、よぼよぼのじーさんになっている。
けれど、同期のアホが「ふんっ」と言いながら、体を硬直させると、よぼよぼ状態ではなくなり、元に戻る。
こいつ、呪いを跳ね返す特殊能力持ってるからなぁ。
アホの体から、黒いもやみたいなのが出てきたので、離れた所にいた試験監督がそのもやを素手で掴み上げた。
そして、試験監督が持っていた籠の中にポイっと入れる。
「気を抜くんじゃないぞー。ここの呪物は程度が低いやつばっかだが、実戦じゃそうもいかないからなー」
「はいっ! 気張っていきます!」
アホが呪われて注意されるのはいつもの事なので、俺はアホから視線を外して、自分の作業に戻った。
呪術師ってのは、なんかこう。
呪いの品を大丈夫な品にする連中の事だ。
そんでもって、人々から依頼を受け、解呪してお金をもらっている。
昔はこんな職業なかったみたいだけど、人間の思念の力が強くなった影響で、何でもない物が危ない物になるらしい。
物に意思が宿るだけなのは可愛いほうだが、呪いの品となって人間に危害を加える事がある。
それじゃダメだろという事で、俺達みたいなのが育成されるようになったのだ。
「呪術師協会から発行されてる雑誌、うちにこねーんだけど。なんか手違い?」
「うちはきたぞ。まあ、汚れてたり折れてたけど」
「確認してねーのかよ。忙しそうだな。人材不足っぽいからな」
育成学校から帰る最中、同じ訓練生の会話に耳をすませる。
呪術師の育成は始まったばっかりだから、まだまだ人が少ないのだ。
でもだからこそ、しばらくは一度なってしまえば職に困る事がなさそうなのが、あれだ。
考え事しながら帰っていたらアホが走ってきた。
アホが俺の背中を背中を叩く。
「なあなあ、コツ教えてくれよ。昼間上手くいかなくて、追試なんだよ」
「嫌だ。そもそもお前の精神的なガードが緩すぎるんだろ。まずそこを何とかしろよ」
呪物を浄化するには、自分の思念を強化して呪われた品者にぶつけるひつようがある。
その際には、魔法石ーーとか呼ばれているただの鉱石、に一度思念エネルギーを注入して、増幅しなければならない。
けれど、こいつはその前の段階。
浄化するとなった時に、即呪われてるからあかんかった。
「うーん、心が広い事が欠点になるとはな」
「危機感がないの間違いだろ」
人の心配なんてするつもりはないけど、こいつこんなざまでよく平気そうな顔して、道歩けるよな。
「特訓つけてくれよ! 頼む、友達だろ!」
面倒くさいからほかっておきたい。
数日後。
「うん、合格だ」
「やったー。ありがとな。俺のフレンド!」
アホは追試に合格していた。
何をやったのかと思えば、呪いにスキを突かれないように、精神力を強化する訓練をやっただけだ。
気を紛らわせるな、他の事を考えるな、やる事だけ考えて集中しろ。
口を酸っぱくして、特訓させたかいがあったというものだ。
「面倒面倒、言いながら付き合ってくれたお前のおかげだぜ」
アホが走り寄って来て、俺の背中を叩こうとした。
だが俺は避けたので、アホは体勢を崩して倒れた。
照れ屋だのなんだの言って調子に乗ってるアホを置いて、俺はその場から去る。
はあ、何でこんな事したんだろうな。
敵に塩を送るような真似を。
呪術師は確かに人材不足だ。
猫の手も借りたい状況になっている。
しかし、全員がプロになれるわけじゃない。
付喪神とかいう神クラスとの戦いが行われる最終試験では、限られた人数しか受からないようになっていたのだ。
それは、新米でもなんでも、プロになったらすぐ命をかける現場に駆り出されるからだ。
最終試験の質を上げて、ふるいにかけておかないと、ただ犠牲者を増やすだけという判断からだろう。
俺はアホの様に喜んでいるアホを見て、ため息をついた。
精神のガードはゆるゆるだが、あれでも他の面では筋が良い。
このまま成長すれば、最後にはきっと強力なライバルになるはずだ。
時間、巻き戻せないかな。