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幕末ブループリント  作者: ブイゼル
第6章(世界大戦)
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60(鉄槌)

ドイツ軍の進撃は、雷鳴そのものだった。

シュリーフェン・プランに基づき、ドイツの灰色の大軍は中立国ベルギーへと雪崩れ込む。

彼らの前に立ちはだかったリエージュ、ナミュールの難攻不落と謳われた要塞群は、日本の技術協力を得て生み出された新型攻城砲「クルップ・タナカ式速射砲」の前に、わずか数日で沈黙した。

史実の「ディッケ・ベルタ」を遥かに凌駕するその砲弾は、コンクリートの要塞を、まるでビスケットのように砕いていく。


「Gott im Himmel...(天の神よ…)これが、我らの新しい槌か…」


ドイツ軍の若き砲兵は、自らが放った一弾で敵の砲塔が吹き飛ぶ光景に、畏怖の念を抱いた。

フランス軍の予想を遥かに超える速度でベルギーを突破したドイツ軍は、進軍と同時に、日本の技術で改良された高性能「野戦電話」の回線を工兵が敷設。

これにより、驚異的な指揮連絡能力を維持し、フランス北東部へと殺到した。


その進撃を、空の目が導く。

日本の技術を応用した高性能な偵察用「ツェッペリン飛行船」が、長時間、戦場上空に滞空し、フランス軍の配置を地上の司令部へ正確に伝達。

フランス軍が迎撃に差し向けた戦闘機隊も、護衛のフォッカー戦闘機との熾烈な空戦の末、撃退された。


そして、ドーバー海峡。

フランスを救うべく派遣された英国大陸遠征軍(BEF)を乗せた輸送船団は、日本の技術供与で生まれたドイツの最新鋭Uボート部隊の待ち伏せにあった。

海峡は、瞬く間に炎と黒煙、そして英国兵たちの悲鳴に満たされた。

BEFの主力は、大陸の土を踏むことなく、冷たい海の藻屑と消えた。


英国からの援軍が到着しないという絶望的な報は、フランス軍の士気を打ち砕いた。

ドイツ軍右翼は、シュリーフェン元帥の当初の計画通り、パリの西側を大きく迂回。

フランス軍主力を、背後から完全に包囲する。

開戦からわずか6週間。

パリは陥落し、フランスは戦争から脱落した。


§


西部戦線でドイツが圧勝するのと時を同じくして、東と南でも火の手が上がっていた。

オスマン帝国は、日本の軍事支援で近代化された陸軍を、ロシア領カフカスへと進撃させる。

雪深い山岳地帯で、両軍の激しい消耗戦が始まった。


その背後を、ギリシャが突いた。

アテネの英国大使は、ギリシャ国王ゲオルギオス1世にこう囁いた。

「陛下、今こそ、かつてのビザンツ帝国の栄光を取り戻す時です。オスマンはカフカスでロシアに釘付けにされている。コンスタンティノープルは、熟した果実のように、陛下の手に落ちるのを待っておりますぞ」

その甘言に乗せられ、ギリシャはオスマン領トラキアへと侵攻を開始したのだ。


「アッラーよ!裏切り者どもに鉄槌を!」


首都イスタンブールに迫るギリシャ軍に対し、オスマン軍はカフカス戦線から急遽引き抜いた予備兵力で、必死の防戦を繰り広げる。

日本の軍事顧問団が立案した防御陣地と、供与された最新の機関銃が火を噴き、ギリシャ兵の突撃を何度も食い止めた。

多大な犠牲を払いながらも、オスマン帝国は、かろうじて首都への進撃を食い止めることに成功した。


一方、オーストリア=ハンガリー帝国もまた、ロシア領ポーランドと、連合国に加盟したイタリアとの二正面作戦を強いられていた。

アルプスの険しい山々と、ポーランドの広大な平原で、両軍は互いに塹壕を掘り、睨み合う。

機関銃の掃射が、密集隊形で突撃してくる兵士の列をなぎ倒し、大砲の応酬が大地を耕し、風景を変えていく。

兵士たちは、何の意味もない数メートルの土地を奪い合うために、何万という単位で命を落としていった。

「弾薬がない!砲弾をよこせ!」

前線からの悲鳴のような要請に、後方の司令部は愕然とする。

開戦からわずか数ヶ月で、想定の数年分に相当する弾薬が消費されていたのだ。

ヨーロッパは、誰も経験したことのない、巨大な泥沼へと足を踏み入れつつあった。


§


アテネ、王宮。

ゲオルギオス1世は、トラキア戦線からの惨憺たる報告書を握りしめ、震えていた。

「話が違うではないか、大使! 我々は瀕死の病人を叩くはずだった! なのに、どうだ! 我が軍の精鋭が、奴らの機関銃の前に、麦のように刈り取られている! これが、貴殿の言った『熟した果実』か!」

英国大使は、青ざめた顔で弁明する。

「へ、陛下、これは想定外の…。日本の支援が、あれほどとは…」

「言い訳は聞きたくない! 英国は、いつになったら我々を支援してくれるのだ! 約束の艦隊は、まだ来ないのか!」

「そ、それは…目下、地中海艦隊を再編中でして…」

ゲオルギオス1世は、絶望に顔を歪ませた。

連合国という名の泥船に乗ってしまったことを、彼は骨の髄まで後悔していた。


§


ヨーロッパが血みどろの消耗戦に突入している頃、太平洋では、全く次元の違う戦争が繰り広げられていた。

海から敵性艦隊の姿が消えた今、そこは日本陸軍の独壇場だった。


南洋州ミンダナオ島と台湾から、陸軍第一師団、第二師団を乗せた大船団が出撃。

目標は、スペイン領フィリピンの心臓部、ルソン島。

夜陰に紛れ、上陸部隊はマニラ湾の遥か南方、敵が全く警戒していない海岸線に静かに上陸。

同時に、第四機動部隊の航空隊が、マニラ周辺の飛行場と港湾施設を夜間爆撃し、敵の目と足を完全に奪う。

夜が明ける頃には、日本の先遣部隊は内陸深くまで浸透。

後方から上陸した戦車部隊が、その突破口を押し広げていく。

装甲車の車上で、若い日本兵たちが軽口を叩き合っていた。


「おい、もうマニラの郊外だぞ!」

「まだ一発も撃ってないのに、戦争が終わっちまう!」


補給路を断たれたマニラのスペイン植民地軍は、戦わずして包囲の内に落ちた。


蘭領東インドのジャワ島も、オーストラリア大陸やニュージーランドも、全く同じ運命を辿った。

日本の陸海空軍は、有機的に連携する「浸透戦術」によって、敵の防御線を正面から叩くことなく、その神経網と血管を内側から断ち切っていく。

広大なジャングルも、灼熱の砂漠も、日本の機械化部隊の進撃速度を止めることはできなかった。

連合国の植民地軍は、自分たちが誰と戦っているのかさえ理解できぬまま、降伏か、あるいは無意味な玉砕かの選択を迫られた。



そして、戦争の趨勢を決定づける、最後の一撃が放たれる。


§


セイロン島沖。英国東洋艦隊旗艦「ヴィクトリア」の艦橋。

艦長は、双眼鏡越しに空を覆う日本の航空機を見つめ、侮蔑に満ちた笑みを浮かべていた。

「見ろ、蝿の大群だ。あのような豆鉄砲で、このヴィクトリアの装甲が抜けるものか。全対空砲、撃ち方始め!」

だが、次の瞬間、彼の自信は絶望に変わった。

日本の航空機が投下したのは、爆弾ではなかった。

艦の腹を抉る魚雷と、装甲を貫くために設計された徹甲爆弾。

「浸水、止まりません!」「機関室、大破!」

艦長は、自慢の巨艦が内側から破壊されていくのを、なすすべもなく見つめていた。

「馬鹿な…我々が10年かけて築き上げた無敵艦隊が…たった数時間で…」

それが、彼の最期の言葉となった。


ロンドン、海軍省。

セイロンからの電信が途絶えた後、もたらされたのは、偵察機からの断片的な報告と、絶望的な沈黙だけだった。

「東洋艦隊、壊滅…。ヴィクトリア級も、全て…」

報告を聞いた海軍大臣は、その場に崩れ落ちた。

大英帝国の海の支配が、音を立てて崩れ始めた瞬間だった。


§


インド洋の心臓、セイロン島。

英国東洋艦隊は壊滅したが、島には数万の英印軍が守りを固めており、難攻不落の要塞と化していた。


「…総攬。これより、作戦を開始します」


大戦略室の通信機から、陸軍空挺部隊司令官の、緊張を帯びた声が響く。

俺は、静かに頷いた。


「頼む。日本の新しい歴史を、その翼で切り開いてくれ」


その夜、スマトラ島の基地から、数百機の大型輸送機『富嶽』が、夜の闇へと飛び立った。

その胴体には、完全武装した陸軍第一空挺団の兵士たちが、静かに出撃の時を待っている。

数時間後、セイロン島上空。

漆黒の空に、無数の白い花が咲いた。日本の落下傘部隊だ。

彼らは、島の中心部にある飛行場と、軍港を見下ろす高台、そして通信施設に、寸分の狂いもなく降下していく。


「天皇陛下万歳!大日本帝国万歳!!!」


降下と同時に、奇襲を受けた英印軍の守備隊は、大混乱に陥った。

暗闇の中、どこからともなく現れた日本の精鋭部隊によって、指揮系統は寸断され、防御拠点は次々と内側から制圧されていく。

夜が明ける頃、セイロン島の主要拠点は、完全に日本の空挺部隊の手に落ちていた。

そして、朝日を浴びて港に悠然と入港してきたのは、日本の輸送船団と、それを護衛する海軍陸戦隊。


セイロン島は、陥落した。

大戦略室の作戦地図盤から、青い駒が、また一つ消える。


セイロン島は、即座に日本の巨大な補給基地へと変貌を遂げ、急ピッチで整備が進められていく。


そこを拠点に、日本の潜水艦隊が、紅海のスエズ運河、そしてアフリカ南端の喜望峰へと進出。

大英帝国の生命線である、インドやアフリカ植民地からの補給路を、完全に遮断した。

さらに、日本の機動部隊の一部は、マダガスカル島やインド洋の諸島を次々と占領。

インド洋は、名実ともに、日本の「内なる海」となった。


南太平洋上には、移動式の補給拠点となる「大型タンカー船団」が配置され、帝国海軍の活動範囲を無限に広げた。

他国ではまだ実戦配備されていない、無線通信を使って互いの位置を確認出来る、日本ならではの戦略だった。

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2作品目
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大東亜火葬戦記
あらすじ
皇国ノ興廃、此ノ一戦ニ在ラズ。桜子姫殿下ノ一撃ニ在リ。

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都市を消滅させる天変地異『メテオ』 。だが、その力は一度使えば回復に長期間を要し、飽和攻撃には驚くほど脆弱という致命的な欠陥を抱えていた 。

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異端の天才戦略家・石原莞爾は、旧来の戦争概念を全て破壊する新国家戦略『魔法戦核ドクトリン』を提唱する 。大艦巨砲主義を放棄し、桜子を護る「盾」たる戦闘機と駆逐艦を量産 。桜子の一撃を最大化するため、全軍は「耐えて勝つ」縦深防御戦術へと移行する 。

これは、巨大戦艦「大和」さえ囮(おとり)とし 、たった一人の少女の魔法を軸に、軍事・経済・諜報の全てを再構築して世界最終戦争に挑む、日本の壮大な国家改造の物語である。
― 新着の感想 ―
ワクワクが止まらない! もういけるところまで突き進んで下さい! 次の更新が待ち遠しいです。
じわじわとなぶり殺しにされてますね‥。太平洋を与えとけばよかったのに欲張ったせいで太平洋を完全に掌握されインド洋も取られてやっと死ぬ寸前と気づいたイギリスの哀れな姿よ。
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