表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幕末ブループリント  作者: ブイゼル
第3章(日清日露戦争)
29/65

29(樺太)

安政六年(1859年)秋。


日本全土、特に東北地方は黄金色の波に揺れていた。

ミネルヴァがもたらしたF6世代米が、空前の大豊作をもたらしたのだ。

その光景は、まさに奇跡だった。


蝦夷地の前線基地、箱館の港は活気に満ち溢れていた。

坂本龍馬の「海陸物産交易社」と、水運卿・赤松則良が連携して運営する蒸気輸送船団が、うず高く積まれた米俵を次々と船内へと運び込んでいく。

兵士たちの顔には充実感が漲り、その士気は天を衝くほどに高まっていた。

十分な兵糧、最新の装備、そして連戦連勝の記憶。

彼らには、勝利以外の未来が見えていなかった。


対照的に、海上封鎖下にある樺太のロシア軍陣地は、地獄の様相を呈していた。

夏が終わり、秋風が吹き始めると、大陸からの補給は完全に途絶えた。

食糧は底を尽き、兵士たちは飢えと、日に日に厳しくなる寒さに震えていた。

先の海戦での惨敗と、空から死を降らせる謎の「飛ぶ船」への恐怖が、彼らの心を蝕み、士気は地に落ちていた。



「時は満ちた。これより、樺太奪還作戦を開始する」


箱館の臨時司令室。

俺の号令の下、徳川慶喜を総大将とする日本陸軍の主力部隊が、ついに蝦夷地を出撃した。

部隊を率いるのは、陸軍卿・大村益次郎と参謀総長・土方歳三。

蒸気輸送船団は、海軍の精鋭艦隊に護衛され、一路、樺太南部へと向かう。


「ジン様、上陸予定地点の気象、海流ともに安定。敵の沿岸警備も手薄です。完璧な上陸日和となります」


ミネルヴァの予測通り、艦隊は濃い朝霧に紛れて目標地点へと到達した。


「上陸開始!」


合図と共に、上陸用舟艇が次々と海岸へと殺到する。

ロシア軍がようやく日本の奇襲に気づき、慌てて応戦しようとしたその瞬間、日本軍の新兵器が火を噴いた。


沖合の護衛艦から放たれる野戦砲の砲弾が、ロシア軍の陣地に着弾し土砂と黒煙を巻き上げる。

海岸に展開した日本兵が構えるのは、最新式の国産後装式小銃。

旧式のマスケット銃で応戦するロシア兵を、その圧倒的な射程と連射速度で蹂躙していく。


その時、ロシア兵たちの頭上で、再びあの悪夢のエンジン音が響き渡った。


「来たぞ!空の悪魔だ!」


俺が自ら操縦する『瑞雲』を隊長機とする航空部隊が、戦場上空に到達したのだ。


「全機、目標は敵後方の指揮所及び砲兵陣地!ロシア兵に、我々の存在を思い出させてやれ!」


俺の指示で、編隊は次々と爆弾を投下。

正確な爆撃はロシア軍の指揮系統を完全に麻痺させ、彼らの反撃の目を完全に摘み取った。

ミネルヴァの完璧な航法支援のおかげで、我々航空部隊は全機、一機の損耗もなく沖合の母艦近くへと着水。無事帰還を果たした。


地上では、二人の天才による二つの戦術が、ロシア軍を粉砕していた。


「突っ込めぇ!臆するな!奴らの銃が火を噴く前に、懐に飛び込んで斬り伏せろ!」


土方歳三率いる元新選組や武士、藩士を中心とした突撃部隊は、銃弾が飛び交う中を、巧みな遮蔽と連携で突き進み、敵陣へと躍り込んだ。

一度白兵戦に持ち込んでしまえば、彼らの右に出る者はいない。

凄まじい剣技と組織的な突撃が、銃で抵抗するロシア兵を恐怖のどん底に突き落とし、その戦線をいとも容易く切り裂いていく。


一方、大村益次郎は、その怜悧な頭脳で戦場全体を俯瞰していた。


「砲兵、右翼の敵陣地を制圧射撃!第一、第二大隊はそれに呼応し、敵の左側面を包囲せよ!」


大村の部隊は武士や藩士を中心としつつも、元農民や商人などの志願兵が多く存在していた。

彼らを上手く使い、近代的な砲兵運用と歩兵の連携戦術。敵の動きを読み、先回りして包囲し、効率的に殲滅していく。

それは、旧来の武士の勇猛さとは対極にある、冷徹で計算され尽くした新しい時代の軍略だった。

この二つの戦術――土方の「点」を穿つ鋭利な刃と、その点を大きく広げる大村の「面」を制圧する巨大な鉄槌――が融合した時、日本陸軍は無敵の戦闘機械と化した。


上陸からわずか数週間。

日本軍は、ロシア軍に反撃の暇も与えず、樺太南部の主要拠点を全て制圧した。

ロシア軍は狼狽しながら北へと敗走を重ねたが、日本の追撃は速い。

やがて、初雪が舞い始める頃、ロシア軍の残存部隊は、樺太中部の荒涼とした原野で完全に包囲された。


ロシア軍司令官は、降伏か、あるいは無意味な玉砕かの選択を迫られていた。

函館の司令室で、俺はその報告を受け、静かに頷いた。


「慶喜公を通じて、降伏勧告を送れ。内容はこうだ。『貴官らの武勇は見事であった。だが、戦いは決した。これ以上の無益な殺生は、我が本意ではない。速やかに武器を置き、投降せよ。然らば、貴官らの名誉と生命は、我が総攬の名において保証する』と」


日本の、そして俺の力が、大国ロシアの誇りを砕き、その運命を完全に掌握した瞬間だった。

総攬と参謀総長が突撃してしまった。。。なぜ。。。どうしてこうなった。


・航空母艦

まだ技術が未熟なので、広い甲板に数機の水上機を載せており、カタパルトで射出する機能があるくらいです。

甲板に直接降りる事は難しいため、海に着水して、母艦に回収される流れになっています。


・極東にロシア軍が来れない理由

1860年代はまだシベリアまで鉄道が引けていない状況です。

なのでロシア兵自体が史実の日露戦争などと比べるとかなり少なくなっています。

開国すらしていない弱小国と侮ったロシアが痛い目を見たという話ですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼この作品が面白いと思った方はコチラもチェック▼
2作品目
第二次世界大戦の話
大東亜火葬戦記
あらすじ
皇国ノ興廃、此ノ一戦ニ在ラズ。桜子姫殿下ノ一撃ニ在リ。

日米開戦前夜、大日本帝国は一つの「真実」に到達する。それは、石油や鉄鋼を遥かに凌駕する究極の戦略資源――魔法を行使する一人の姫君、東久邇宮桜子の存在であった 。

都市を消滅させる天変地異『メテオ』 。だが、その力は一度使えば回復に長期間を要し、飽和攻撃には驚くほど脆弱という致命的な欠陥を抱えていた 。

この「ガラスの大砲」をいかにして国家の切り札とするか。
異端の天才戦略家・石原莞爾は、旧来の戦争概念を全て破壊する新国家戦略『魔法戦核ドクトリン』を提唱する 。大艦巨砲主義を放棄し、桜子を護る「盾」たる戦闘機と駆逐艦を量産 。桜子の一撃を最大化するため、全軍は「耐えて勝つ」縦深防御戦術へと移行する 。

これは、巨大戦艦「大和」さえ囮(おとり)とし 、たった一人の少女の魔法を軸に、軍事・経済・諜報の全てを再構築して世界最終戦争に挑む、日本の壮大な国家改造の物語である。
― 新着の感想 ―
完全勝利ですな。 これで大陸をイギリス辺りに押し付けて沼に沈める足掛かりにできるとよいのですが‥
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ