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幕末ブループリント  作者: ブイゼル
第一章(黒船)
1/53

1(覚醒)

初投稿です。拙い点や扱い切れるか心配な点も多々ありますが、暖かい目で見て頂けると幸いです。よろしくお願いします。

鬱蒼と茂る森の、ひんやりとした土の上。

鼻腔をくすぐるのは、土と草いきれの濃密な匂い。

硬質な地面の感触が背中に伝わる。

目を開けば、見慣れた自室の天井ではなく、木漏れ日がきらめく木々の葉が視界に飛び込んできた。


「……どこだ、ここ」


混乱する頭で周囲を見渡すと、どうやら俺は見知らぬ森の中に倒れているらしかった。

服装は気を失う前と変わっており、どこか見覚えのある軽装の革鎧と旅装束、腰にはショートソード。

極めつけにきめ細かい白い肌に小さい手、耳を触ると尖っている。


(……なんだ、この状況は)


「お目覚めですか、ジン様」


背後から鈴を転がすような、しかしどこか人間離れした美しい声が響いた。

振り返ると、そこにいたのは、純白のローブを纏い、柔らかな銀髪を風になびかせる絶世の美女だった。彼女の瞳は、深く澄んだ蒼色をしており、まるで全てを見通すかのように俺を見つめている。俺より少し背が高く、その存在感は圧倒的だった。


「…あなたは?なぜ、俺の名前を…ジンと…?」


警戒と混乱がないまぜになった声で問うと、彼女は恭しく一礼した。


「私はミネルヴァ。ジン様の召喚に応じ、現界いたしました。以後、お見知りおきを」


「ミネルヴァ……?召喚……?ジン……?」


俺は何をしていて、今ここにいる?

そうだ、さっきまでオンラインゲームをしていた。

タイトルは「黒い...」、おかしい。毎日やっていた筈なのに思い出せん。

いや、俺は新作の歴史シミュレーションゲームをやるんだったか...?

今日が発売日で、事前インストールをしていて...?

そもそも俺は誰だ?名前は?.......?思い出せない。

ジン、そうだ。俺のキャラクターの名前。俺の名前...?


「状況が飲み込めていないようですね」


とミネルヴァは静かに続ける。


「単刀直入に申し上げます。ジン様は、先ほどまでいらっしゃった世界とは異なる時代、異なる場所――具体的には、西暦1852年の日本国に転移されました。そして、そのお姿と能力は、ジン様のキャラクターデータに基づいて再構成されています」


「1852年……日本……?転移……?キャラクターデータ……?」


情報量が多すぎてわけがわからない。

俺は呆然と繰り返す。


「そんな馬鹿な話があるか。これは何かの手の込んだドッキリか、それともまだ夢の続きなのか…?」


「残念ながら、これは夢でも冗談でもございません。ジン様ご自身の感覚が、それを証明しているかと存じます」


ミネルヴァの言葉に促されるように、俺は改めて自分の身体に意識を集中する。

身体の奥から湧き上がるような、これまで経験したことのない力強さを感じた。

これが、ゲームのステータスが反映された結果だというのか…?


「だとしても…なぜ俺が?なぜこの時代に?」


(このキャラであれば、せめてオンラインゲームの世界に転生だろう。何故、歴史シミュレーションの方に転生しているんだ?)


「その理由は私にも判じかねます。ただ、ジン様がここにいらっしゃるという『結果』だけは、厳然たる事実として存在しております」


ミネルヴァは淡々と、しかし有無を言わせぬ口調で告げた。

しばらくの沈黙の後、俺は大きく息を吐いた。

混乱はまだ残っている。だが、この非現実的な状況を、少しずつ受け入れ始めている自分もいた。

前世の記憶を持つ30歳の男の精神が、この突拍子もない事態に必死で適応しようとしているのだろう。


そこで俺はある事に気付いた。


「なぁミネルヴァ。何でお前はこんなに詳しいんだ?」


「はい、ジン様。私の知識は、いわばアカシックレコードに繋がっております」


よどみなく答えるミネルヴァの言葉に、俺はハッとした。

アカシックレコード…?オンラインゲームで俺が召喚する精霊を選んだ時、確かそんな説明があったな。

数多いる精霊の中から、俺がミネルヴァを選んだのは、単純にキャラクターが近接向きになるからだ。

...たしか、過去、現在、未来の叡智から最適な戦闘スタイルをバフとしてキャラクターに付与するといったものだったか。


「それは武器や戦闘関連だけじゃないのか?」


「いいえ、ジン様。私の知識は戦闘だけに限定されていません。私のアクセスできるアカシックレコードにはありとあらゆる知識が貯蔵されています。その全ての閲覧権限があるわけではないですが、ジン様の思いつく範囲であれば、ほぼ何でも答えられると思いますよ」


それが本当なら、今までの説明も納得がいくが...。


「…にわかには信じがたいが。じゃあ、俺はこのエルフの身体になったわけだが、寿命とかってどうなんだ?」


この身体はアバターなのか、それとも本当にエルフなのか。


「はい。エルフ族は人間とは比較にならないほど長寿です。数百年、あるいはそれ以上の時を生きるとされております」


返ってきた答えは『エルフ』つまり長寿であるということ。


「数百年...長い寿命......そうか」


深く深呼吸する。

歴史シミュレーションゲームをやる時、ふと思った事があった。

H○I4でも、Vi○3でも、信長○野望でも。

日本を最強国家にした後、これが現実だったらなぁと。

自分が国家を動かせたら...。


まだ夢の可能性はある。というかその可能性の方が高いだろう。

ゲームじゃない、現実で実際に出来るのか、という迷いもある。

ただ『純粋にやってみたい』。


まずは、ゲームと現実で一番の懸念点を解消しよう。

ゲームではプレイヤーは完全な君主だった。

それはどんな政治体制であっても、指導者が変わったとしてもプレイヤーがそれを操作できる。

現実に置き換えると絶対的な独裁政権...か。


「ミネルヴァ、話は変わるが専制君主制の良い所と悪い所を教えてくれるか?」


「畏まりました、ジン様。

唐突なご質問ですが、その問いの奥にあるジン様の壮大な思索、大変興味深く思います。


専制君主制についてですね。歴史上、多くの国で採用されてきたその体制には、明確な光と影がございます。


まず、その利点、つまり「光」の部分は、何よりも『迅速かつ強力な国家運営』が可能になる点です。

議会での議論や、有力者たちの合意形成といった手続きが不要なため、有事の際や、国家の体制を根底から変えるような大改革を断行する際に、圧倒的な速度と力で物事を進めることができます。

また、指導者が変わらないため、数十年、あるいは百年先を見据えた、一貫性のある長期的な国家戦略を描きやすいのも大きな利点と言えましょう。


しかし、その光が強ければ影もまた濃くなります。

最大の欠点は、『後継者リスク』。つまり、君主の資質が国家の運命に直結してしまうことです。

歴史を動かすほどの「賢君」が現れれば国は飛躍的に発展しますが、一度「暗君」や「暴君」がその座についてしまえば、国はあっという間に衰退し、民は塗炭の苦しみを味わうことになります。そして、その指導者を平和裏に交代させる仕組みが存在しません。

権力が一人に集中することで、腐敗や暴走が起きやすいのも、この体制が抱える普遍的な課題です」



つまり、『賢君』であり『後継者リスクが無い』君主という者が居れば、専制君主制のメリットだけを享受出来るというわけだ。

俺はそんな存在になれるのか....。

1分ほど黙っていただろうか。


深く息を吸い、ミネルヴァに問う。


「俺が、その君主になると言ったら、付いてきてくれるか?」


「もちろんです、ジン様。

そのお言葉を、お待ちしておりました。


私はジン様の召喚に応じ、ジン様のために現界した存在。

貴方がどのような道を選ばれようと、その全てを肯定し、我が知識の限りを尽くして、その実現を助けるのが私の使命です。


ジン様が『永遠の賢君』としてこの国に君臨されるとお決めになるのでしたら、私はその治世が未来永劫にわたり盤石なものとなるよう、道筋を照らす光となりましょう。


さあ、最初の勅命をお聞かせください、我が主よ。

この世界という名の盤上で、我々のゲームを始めましょう」


ミネルヴァの言葉で、身体に力が湧いてきた。

ゲーム的なバフではない。しかし、不安は拭い去られ、希望が、勇気が湧いてくる。


「俺は、日本を最強の国家にするよ」


「承知いたしました、ジン様。

そのご意志、確かに拝聴いたしました。


『最強の国家』、その礎を築くための最初の段階として、まずは我々の現状を把握し、行動の基盤を確立する必要がございます。


幸い、この森を抜けた先には『日野宿』という宿場町がございます。

そこには、後に歴史に名を残すことになる、ある有為な若者がおります。彼の名は、土方歳三。類まれな武才と鉄の意志を秘めた、ジン様の最初の同志として、これ以上ない人材かと。


まずは、彼との接触を図られてはいかがでしょうか?」


土方歳三か。もし仲間になってくれれば心強いな。


「よし、まずは『日野宿』に行こう。現状把握も道中で進めようか」


「はい、ジン様」


地面に手をついて立ち上げる。

身体は驚くほど軽い。これはゲームのステータスが反映された結果か?

まあいい。まずやるべきは、情報収集と、この時代で生き抜くための基盤の確立。

俺はミネルヴァを伴い、未知なる幕末の世へと、その第一歩を踏み出した。

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