表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/18

「仮面づくり」

 あなたは誰の前でも本来のあなたでいられますか。

 

 表情、声色、性格、思想など。


 あなたは本来のあなたのまま、純粋に生きることができていますか。



 ほとんどの方は無理でしょう。もちろん僕も不可能である。

 本来の自分のまま生きていけるほど、今の世の中は楽ではない。権力を持っていないほど、本来の自分を押し殺さなければならない。巨大な権力や風潮に押しつぶされないために。自分自身を彼らから守るために。厚い「仮面」を作り続ける。どんな災害にも対応できるように。

 未知のものに襲われることも時にはあるだろう。そんなときには多大なる損害を被ることになる。いくら厚く様々な外力に耐えることのできるよう設計した「仮面」であっても。それを突き抜ける。いとも容易く。そして、僕らの体に傷をつける。それが時にはかすり傷の時もあれば、致命傷の時もある。もしかしたら、もう遅い場合もあったかもしれない。

 ただ、生き残った人々は、その経験を活かし、「仮面」を改良する。もう、そのつらい経験を二度と経験しないために。より厚くして様々な外力を妨げられるように。

 そうして強化された「仮面」を隙間の無いよう顔に張り付ける。隙間風でやられるなんてもったいないからね。家を出る前、装備が完璧か、鏡の前で確認する。そして、覚悟を決める。

 ドアの向こうにいるであろう凶悪な敵や地獄から、自身を守るため。平穏ではない1日を無事終えるため。「仮面」に傷がつく程度で済むよう努力することも忘れない。

 すべては、愛するものが待っている場所に帰還するため。


 そう感じるのは僕だけかもしれない。しかし、気づけばこんな人生だった。人の視線にとにかく過敏だった。それが悪意あるものであろうがなかろうが。僕の皮膚が特別弱かっただけかもしれない。

 過剰反応を繰り返した僕が下した判断は、「仮面」の製造だった。それが年相応に始まったことなのかは分からない。他人のことなど誰にもわからないのだから。むしろ、デリケートな部分だから聞くことも、答えることも困難なはずだ。どちらにせよ、僕には関係ない。なぜなら、僕の感知機能は過敏だったから。

 「仮面」の製造を続け、幾年が経過しただろう。最初の内は意識が必要だった。自分を守るために丁寧に。ゆっくりと。ただ、傷つき壊れ、その度に修理を重ねるうちに職人になってしまった。自分で言うのもなんだが。その域に達すると、意識は必要なくなっていた。

 毎日の繰り返し作業。僕の手には技術が染みついていた。よくある傷なら、考えずとも直すことができた。時たま、起きる予測不可能な未知の脅威には、大きな損害を被った。けれども、応急処置ならお手の物だった。そうして、しばらく経てば大きな複雑な傷を直し、なんなら「仮面」の改造にも成功した。

 そうして生き続けてきた。気づいたときには、「仮面」を被っているのが当たり前の生活になっていた。それも自分で作った特性の「仮面」を。

 だから、辛いことも耐えられた。なんとかその「仮面」が守ってくれた。もう手放すことはできなくなっていた。

 それは幸せにも不幸にも、人からの距離をとるための道具となっていた。それを介してでなければ、会話することができないくらい。「仮面」を付け始める前に知り合ったの人々に対しては、本来の自分でいられる。けれども、それ以降知り合った人に対して、自分を曝け出すことはできなかった。どれだけ仲良くなろうとも。それは、「仮面」を付けた僕だから。もちろんのこと、ここに書いてきた本心を伝えることなど不可能だ。


 それだけなら、まだ良かった。最近、「仮面」を被った自分と本来の自分の区別がつかなかったように感じる。ただ、それが本来の自分であったのか。それとも、「仮面」を被った自分であったものなのか。今となってしまえば、どちらに今の自分がなっているのか判別することはできない。

 特に理由はないが、前者であることを願いたい。もし、後者であるならば、根拠はないが恐ろしく感じる。

 ただでさえ、自分が何者なのか分からないというのに、人生の途中で人格が変わったとなると、僕は何なのだ。そんな疑問が僕の心の内を覆いつくす。

 しかし、その疑問、不安、恐怖心は周りに届かないだろう。それは言わなければ伝わらないということでもあるが。伝えたくないから「仮面」を製造した僕にとって、人に話すというのは困難だ。

 僕の心の声が届かないのは、自分を守るために製造した「仮面」のせいだろう。外からの圧力に耐えるため、分厚く製造したその「仮面」には、通気性がなかった。隙間風ですら通したくなかったのだから当然だろう。

 使い方が正しいのかは分からないが、一種の皮肉のように感じる。自分を守るために必死に作った「仮面」のせいで、僕の心の内は周りに届かない。

 いや、届かさせたくないのだろう。怖いんだ。本当の自分を知られて軽蔑されるのが。見下されるのが。人が離れていくのが。

 なんとも自分勝手な男だ。でも、それが僕の生き方なのだろう。核なのだろう。なら、変わることはないのかもしれない。

 そう結局、自分一人で結論付けて、今日も誰に対しても有効な「仮面」を作り続ける。


 何が自分なのかもわからないまま。今日を生きる。

いつまで作り続けるのでしょう。いつになったら無くてもよくなるのでしょう。もしその時が来たらと願ってはいますが、その時の顔が本来の自分の顔であることを願っていたいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ