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「叫びたい」

 世間的には田舎という場所に住んでいる僕。けれども、僕らが最初にイメージする田舎とは異なるのかもしれない。

 近くに国道と高速道路が通っており、時たま、けたたましい音を鳴らす車も走っている。時と場合で受け取る感情が異なるのは不思議なことで、イラッとくることもあれば、いい音だなと思うこともある。ただ、日常的には家族を乗せた普通車系や仕事に関するトラック等が行き来している。特段、複雑な道の構造をしているわけでもないので、事故が多発するわけではない。そのため、けたたましい音を鳴らす物体が通るとその日は印象に残る。それが、エンジン音なのかどうなのか専門的に詳しいわけではないので定かではないが。それならいいのだ。生まれてきてから2回ほど、ブレーキ音と衝突音が聞こえてきた。それが自分の知らない人によるものだったが、少し胸が痛んだ。自分や家族も使う道なので気を付けないとという感情も芽生えたが、誰が通るかは知らないが彼らが無事に目指す場所に辿り着けますようにと、顔も知らない、知ることも無いかもしれない誰かを心配になるときもある。

 近隣にはコンビニやスーパーマーケット、病院などの生活に必要な施設も徒歩で行くことのできる距離に存在している。だから、田舎自慢で出てきそうな、「コンビニまで車で2時間」などという秘境に住んでいるわけではないのだ。それでも、家の前には田んぼがあるが。

 本当の都会に住んでいる方と比べてはそうでもないのかもしれないが、田舎でも喧噪を感じることがある。特に、ショッピングモールに行くと顕著にそれを感じることができる。某ピンク色のショッピングモールなどではね。

 田舎に住んでいるわけだが、秘境ではないため家屋が集まり、前述したような施設と田畑が土地を取っている。だから、何もないというところは実際には無い。アニメや映画で見るような草原のような、無心でその場にいられるような場所は無い。もしそんな場所を知っている方がいるのなら教えて欲しいくらいだ。


 そんな、田舎に住んでいながらも、田舎らしくない場所。それが僕が生きてから住み続けている場所。

 だから、僕らが普段想像する田舎特有の自由さが僕の住んでいる場所には感じられないでいる。

 田舎の良さというのは、土地の広さであったり、何もない、たぶん勝手に入っていいような場所があることだと思う。あと、無駄にでかい公園。それも遊具は少なく、ただ芝生が広がっているだけのような。

 ただの我儘ではあるが、そういうところに沢山の人がみえると僕的には魅力が薄れる。広大で何もない場所に、ポツンと自分だけがいる。ただ少し、地面から自然を感じることができる。そんな場所を僕は求めている。心安らぐ場所として。


 ストレスに関して、以前執筆した話があったはずだ。そのときに「発散」という言葉を用いた。

 かつては、「発散」方法も多様にあった。しかし、年齢を重ねるにつれて、その方法は減っていった。どうしても他人の目が気になってしまった。そのため、他人が見ている可能性のある場所で行う「発散」方法に抵抗を感じるようになってしまった。従来であれば、ストレスが「発散」できていたのに、今はその行為を行うとストレスを貯めるだけ。

 そうして辿り着いた「発散」方法は他人と比較されないもの。例えば、読書など。元々読書は小学校高学年ぐらいからのめり込んでいった。周りの奴らと遊んでいるうちに、そいつらの顔を伺いながら遊んでいる自分が嫌になって。それで昼休みは学校の図書館に籠るようになった。

 皆さんの小学校の図書館がどのような構造だったのかは分からないが、僕は今でも鮮明に覚えている。学校の部屋というのは出入り口が大抵前と後ろの2つあると思う。ここでは図書館において貸し出しの手続きをするカウンターがある方を前と定義しておく。

 僕が本当に魅力的に感じたのは、後ろの奥の棚にあった、大きく分厚い本たちだった。最初にどれを読んだかは覚えていない。それでも印象に残っている作品を3つ紹介したい。

 1つ目はハリーポッターシリーズ。話の内容もそうだが、表紙からしてファンタジー観を感じられるのはあの頃の少年の心を刺激した。

 2つ目は江戸川乱歩の怪人二十面相シリーズ。大きい本の表紙に、不気味な黒い帽子と目隠しのようなものを付けた男がでかでかと描かれた表紙に、僕の手は勝手に伸びていた。内容は言わずもがな。その二転三転としていく内容に魅了され続けた。書いている途中でも読みたくなってきたよ。

 3つ目はコナンドイルのシャーロックホームズシリーズ。これは他の2作品と違い本のサイズが小さいかもしれなかったが、子供ながらに知っていた有名作ということで夢中になって読み漁っていた。

 今となっては、あの頃の時間は、何も考えないでいられる嗜好の時間だったのだろう。


 それでも年齢を重ねるにつれ、中々読書の時間も取れなくなり、図書館に行くことも少なくなっていった。紙の本が好きという、現代の人間にしては古い考えかもしれないが、実物があり紙をめくっていく感覚は何にも代えがたいものだった。また、実際問題、紙の本を買うにしてもお金も場所も取るということで、この「発散」方法は僕の中から消えていった。


 そんな感じで、「発散」方法を見つけては何らかの理由で辞めてきた僕。そんな僕が今求めているのは、前述したような何もない、ただ草原が広がるような場所。そこに時間も忘れ、無心でいたい。そして、できることなら、恥も外聞も捨てて「叫びたい」。自分の心の内を。しまっていた大小様々な鬱憤を。自分のどす黒い部分を。綺麗な緑色の草原が黒色に染まるまで。「叫びたい」。


 そんなことを心の中で思っていても、中々そんな暇はない。些細なことで自分自身が迷走している中で、世界は大きく変わろうとしている。それでも僕は僕らしく今日を生きる。

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