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ミニチュア・アドベンチャラーズ 撮れ高に縛られし者共

作者: 笑う三角州

カスタムしたプラモとか改造したオモチャが、都合のいい異世界に行って、魔法や科学の力で活躍したり、しなかったり

 ある日、ここに前触れもなく一枚の扉が現れ、興味本位で通った者は消えて戻らなかった。

 現場が隔離されての慎重な調査によって、その扉は一方通行のワープゲートと判明する。

 大人が通るには少し小さなその扉をくぐった者は、無限に存在する異世界のいずれかへ飛ばされるのだ。

 そして扉の出口となる全ての異世界は、人類に有害な影響を及ぼす未知の元素、現在における俗称“魔力”が大気に満ちていた。

 魔力の存在しない地球において魔力で世界を繋げるゲートは入り口としての機能以外が動作せず、本来繋がっていたはずの“向こう側”とも繋がらないため転移先はランダムとなり、向こう側から地球のゲート自体を消すことも不可能になったのだろう。


 ……そうなると、無限の異世界が存在する中で魔力の存在しない地球の座標を一方的に認識しており、ゲートをこの場所に生成した制作者の……向こう側の意図は何であったのか。

 異世界からの侵略と言う最悪の可能性を危惧した各国は、生身では三分と持たない新世界を探索するために莫大な予算を当てる。

 研究者は異世界の大気に必ず存在する魔力を糧に駆動する自立思考型のドローンを作り、地球の座標に探索データを送らせる技術だけ完成させると、帰還方法もないまま大量に送り込み続けた。


 ――それから数十年後の現在。

 ゲートは変わらず無防備にこの場所にあるが、研究されつくして脅威ではなくなった。

 地球の技術者はゲートの状態をランダムな入り口としてのみ動作するように固定したのだ。

 対して魔力が科学の発展を歪める異世界のゲート技術では、魔力の無い物理法則など想像すらできず、対策の打ちようがない。

 こうしてゲートは定期的に探査機が送られる姿を眺めて楽しめる、安全な観光スポットとなったのだ。


 その結果、地球に何が起きたか。

 今や異世界調査に向かうドローンの外見は民間制作者の趣味を盛り込んだカッコいいメカや武器、可愛らしい人形となり、送られる探査動画は娯楽として消費される冒険コンテンツに成り果てた。

 一獲千金を夢見る者たちはこぞって探査機械を作り、未知の発見より撮れ高を期待して、未だ帰還方法の無いまま小さな冒険者を旅立たせる……それが職業として成り立つ時代が来たのだ。

 異世界は文字通り無限に存在し、様々な形状の小型ロボットたちが新発見や新世界の生態を報告しては視聴者や研究者をにぎわわせている。

 だが「扉の先を巡って撮れ高を探せ」と命令され、もはや主の元に戻る事の叶わない探査機たちに、悲壮感は無い。

 そこを嘆く性格設定はされないし、一方的に記録を送り付ける相手でしかない主人の世界がどうなっていようと、もはや関係ないのだ。どうせ知る術はなく、また帰還の研究は予算がつかないので。

 今日のこの時間も開け放たれた扉の前に、自分の送る動画を主人が上手く編集すると信じる新たな探査機数十機が、万全の装備で集結した。


◆語りだし


 コメンタリーの制作を開始します。編集よろしくお願いしますね、マスター。

 こほん。始めまして、ミオです。

 まず簡単に自己紹介、そのまま場面解説に入ります。

 見物の観光客を見上げながらゲートの前で待機中の私は、空中戦特化でウイングが特徴的な巨大ロボを擬人化したメカ娘タイプの一般的な人型冒険者で、ノンスケール14.5㎝。

 武器は右手の大型エネルギーライフルと、左腕に取りつけてある盾……これは先端から大型ビームブレードが展開するんですが、可愛い子には大型武器を持たせとけって言うマスターの趣味ですね。

 大きな武器を振り回せるようにハンドパーツが一回り大きいサイズに変更している可愛い私は、第一〇九四八回民間調査団として異世界へ向かう探査機の一体です。

 一体づつ順番にゲートを通過していくのは、私と同様に創造主から撮れ高しか求められていない探査機たち。

 全長100㎝前後の恐竜や、私と同じ全高の四脚ロボに乗る1/24スケールの戦士。

 要塞みたいな重装甲でホバー移動してる美少女は、身長10㎝くらいなのに私より顔がデカいんですが、3.5頭身のディフォルメ体型は高性能カメラと小型化、可愛さの妥協点が導き出した結論なのでしょうか。

 その後も1/1000宇宙戦艦やギミック特盛っぽいベルトなど、個性的な面々が扉の向こうに消えていきます。

 接触したまま通過しなきゃバラバラに転移するゲートの仕様上、再び運命が交錯しない限り二度と会えない同期たちです。

 ホバリングする古式ゆかしいドローンに続いてゲートを通過した私がもう戻れない後方を振り返ると、関係者席で元気に手を振るマスターたちの姿が薄れていき、既に世界がズレており見えるのに接触できない同期達の信号もロスト。

 やがて周辺の空気が魔力の混ざった人類にとって有害な、私にとってはエネルギーに変換できる成分へと置き換わっていきます。

 同様に景色も変わり、私の目の前に現れた光景は……


■パターンA 先輩は壊れかけ


 振り返ると、元の世界に比べると小さいですが、私の大きさに合ってると考えれば程よいサイズ感の隙間なく生い茂る森が、左右に広がっています。

 そして正面には枝葉に遮られて薄暗い、オオトカゲが這ったような獣道が続いており、その先には……


 コオオオォ…………


 2mほど離れた場所で私に背を向けて“気”とか“エネルギー”とかそんな感じの何かをチャージしているっぽい、半裸の大男がいました。

 背中から邪悪っぽいオーラを吹き出しつつ、ゆっくりと呼吸している上半身裸の筋肉達磨。

 身長は頭二つ分くらいしか私と違いませんが、骨格から世界観が違うようで身体の厚さとか横幅が私の2倍以上あります。

 こちらには気づいていたんでしょう。チャージが終わったのかオーラを止めて首をこちらに向けた大男は、何故か白目剥いてます。これは初手ヤバイのに出会いました。

 顔の向き的に多分私を見ているんだろうなと思いながら見つめ返していると、その口両端が上がりました。こう笑顔じゃなくて、獲物を見つけた怪物が顔面を歪めるような感じで。

 これはどう見ても残虐な殺戮者でしょうって感じにしか見えません。アクションゲームの前半では行動不能までしか追い詰められないタイプの、終盤に専用の特殊武器でようやく気持ちよく倒せる感じのボスキャラです。

 そんな恐ろしい外見の男は、パンと手のひらと拳を合わせて格闘家の礼っぽいポーズをとると、私の身長と合わせるように腰を曲げていき、顔を45度傾けながら口を開きました。


「こんにちは、可愛らしいお嬢さん。僕は1/13の17.5cm、デストラだよ」

「あっハイこんにちは、14.5cmのミオです」


 こんな創作の中でしか出てこないような狂気あふれる怪物じみた悪役顔は、常識で考えれば故郷を同じくする探査機に決まってる訳でして。

 きっと何かの悪役キャラクターを元ネタにした人なんでしょうね、知りませんけど。

 外見はアレでも中身は私と似たような物なので、性格設定に致命的な問題さえなければ敵対の可能性はありません。むしろ頼れる仲間です。

 この人を扉の前で見た記録がないんで、多分先輩なんでしょうね、無名な。


「ミオのスケールは僕より大きい1/12かな? ドールハウスなんかで人気のサイズだったよね」


 最初の話題がそれって、スケールに拘りを持つ性格を積んでるんですかねこの筋肉。

 私はその辺り拘りがないのですが、やはりノンスケール故でしょうか。


「いえ、素体は原作設定のないシリーズから製造されていますから、メーカーが言うにはノンスケールですね。マスターも特に何も言いませんでしたし」

「……そっか」


 なんで肩落としてるんですかね、この巨漢。肩が落ちてもでかい。


「まあ、製造メーカーは1/12系の小物と合わせた遊びを考えていたと思いますから、そんなに外れた推測じゃないですよ。ところでデストラはどうしてこんな場所で必殺技ゲージのチャージを?」


 私からも話題を振ります。この無限に広がる異世界群の中で転移直後に同業者と遭遇するというのは撮れ高イベントですから。

 ……が、デストラは疲れたように肩をすくめて言いました。


「僕はチュートリアルの開放待ちなんだ」

「……あっ、なるほど。ご愁傷さまです」


 異世界にも色々ありますが、基本的に私たちは変化を求められる場所に出現します。

 そしてある程度の成果を出すと、次の仕事へ向かえとばかりに別の世界へ飛ばされるのです。

 これは修正しない方が撮れ高的には面白いってことで放置されている、ゲートのバグです。

 ですがこの異常現象はクリアフラグが不明確なので、何時までも同じ世界で足踏みしていると機械である私たちだって辛くなってきます。

 その中で最も過酷と言われている悪い意味で有名な強制イベントの一つが、通称『チュートリアル』と恐れられる作業で、クリアフラグが妙に簡単な一定数の新人を次の世界に見送ると、自分のクリアフラグも立つと言う仕組みです。

 これに一体何を求められているのかは不明です。少なくともチュートリアルが必要な探査機は存在しませんから。


「それで、デストラさんは何人ぐらい……?」

「君で123機め。もうダメかもしれない」


 早ければ数十体で終わるチュートリアルですが、最長だと538体を見送った記録が残っています。

 きっと私の次を見送るくらいで終わりますよって、てきとーに慰めようとした私の前で、デストラの背中が熱気に揺らぎました。


「この世界、何処まで行っても森が続くだけで、何も楽しくないんだよ。だから非常に申し訳ないんだけど、僕の気分転換のために、僕と壊し合ってほしいな」


 あっ。

 この男、思った以上に追い詰められているようです。

 性格設定と状況の相性が最悪で、敵対の可能性が出てきた頼れない相手です。

 まあ、どの程度追い詰められると心が壊れるかも個々に違うので、こういう探査機がいるのも一つの多様性って奴なんですけどね。

 全ての機体が同じ思考だったら何か致命的な障害が一つあった場合に、全機ソレにひっかかって全滅しちゃいますから。

 そして私はこう言った場合に同僚との戦闘は後に回すタイプの性格設定です。


「落ち着きましょうデストラさん。魔力対応の動作確認が終わってない私を倒しても盛り上がりに欠けるでしょう」

「……そうかもしれない」

「では、私の能力を確認がてら、観光案内でもしてもらいましょうか」


 無事に乗り切れたようです。

 動作確認でエラーが発生することは滅多にありませんが、それでも魔力周りのシステムは地球の民間人では確認出来ませんから。

 今の所は問題なく魔力を充填していますが、経験値とかスキルアップとかのシステムが稼働しているかの確認くらいしてから戦いたいです。

 そうやって緊張を解きほぐしながら、最悪の場合に備えてデストラさんの取得スキルとかを確認していきましょうね。

 デストラさんも私の言葉に納得したようで、森の向こうを指さして笑顔になりました。


「じゃあドラゴン見に行こうよ、この森みたいにスケールが小さいから2mも無い小型だけど、口から電撃ブレスを吐き出すヤツ!」

「なんです? 面白そうなのが居るじゃありませんか。じゃあドラゴン倒して経験値稼いで、デストラさんのお薦めスキルとか取っちゃいましょうよ」

「そうだねぇ……それなら『隠し通路発見』とか、楽しいと思うよ!?」

「うわっ地味なトコ攻めますね」


 こうして私の最初の冒険は、メンタル危うげで流されやすい悪役顔と共に、気分転換の旅に出ることとなったのです。


■パターンB 代理戦士小さめ


 一切の光が存在しない、全き暗黒でした。

 と言うか、全身を覆いつくす大量の何かに埋もれているようです。

 動作に支障は無いので固い物に埋まっているとかそう言った致命的な状況ではないようですが……


「よくぞ我が呼びかけに応じて下さった、勇者殿……勇者殿?」


 何かに埋もれた私の上から、そんな声が聞こえました。

 粉……灰をかき分けて顔を出すと、そこは薄汚れた木造バラックの中。

 目の前では身長120cm程度で緑色の肌を持った、ローブ姿の怪しい小鬼が。


「誰もおらん……まさか、このワシが失敗じゃと?」


 狼狽えつつ周囲を見回していました。

 これ、私はゴブリンに召喚されちゃいましたね。

 地面の魔法陣に該当データがありますし、一定期間現地民の兵力として戦うアレでしょう。

 その場合、邪悪な怪物側に呼ばれちゃうのはタマにある話です。

 ゴブリンの言語が魔力に満ちた世界特有の世界語じゃないのは気になりますが、翻訳機能が対応出来ているから、誰かが通過したか、そこに類似した世界であろうとも推察できます。

 同時に確信できるのは、世界語を封印して民族間の言葉を乱した何者かが存在すること……ですが、そんな上位存在と遭遇する機会は無いでしょうから気にせず行きましょう。

 戦闘の発生は確定しているので撮れ高的な問題はないと思いますが、私の最初の冒険が誰かの二番煎じな世界でしかも悪役なのは、ちょっと残念ですね。

 召喚者のゴブリンは……未だに足元の私に気づきませんので声をかけてあげます。


「そこのグリーンスキン、足元です」


 声をかけると私に気づいたゴブリンが、灰に埋まった私を見て……遮光器を上げたその表情からは、大きな困惑が見て取れました。


「……強大な戦士を招く召喚陣と聞いていたが、現れたのがフェアリーとは。まいったのう」

「何ですかその態度は。帰っちゃいますよ!」


 帰れませんけどね。

 遺憾の意を込めたバーニアを吹かして浮遊、両腕を振り上げて威嚇しながら灰を散らす嫌がらせ開始です。


「うわっすまんすまん、ワシが軽率じゃった!」

「私が弱く見えるとでもおっしゃるんですか? 許しませんよ!」

「違う、お主の強さ自体はワシも理解しとるんじゃ!」

「貴方の全てを許しましょう!」


 服の裾で口を覆ったゴブリンは素直に謝罪してくれましたが、向こうの言い分もあるようで。


「じゃが、お主の体格ではワシの代役として周囲を納得させられんじゃろ」

「それは……そうなのですか?」

「戦士は外見が九割じゃからのう……」


 突然体格の話が出ても意味が解りませんが、この状況ではそう言う物なのでしょう。

 とりあえず、怒る前にやるべきことがあったようです。


「では緑色の召喚者さん、まず貴方は何を目的に私を呼んだのか。そこから教えて下さい」

「は? ……待て待て。まさかお主、何も解らんままで召喚に応じたのか?」

「はい、私は制御不可能なランダム異世界転移で予測不可能な旅をしている者です」

「なんとまあ……」


 その後はお互いに身の上話をして冒険初日が終了。

 このゴブリンが語るところによりますと……


 この頭脳労働が得意とか言っちゃう雑魚モンスターは外見以外は邪悪ではなく、人類連合の左遷された官僚だそうです。悪役じゃなくて良かった!

 派閥のボスが事故死して出世レースから脱落、新しい上司に激戦区の使い捨て部隊へ参加するよう指示されて、戦死狙いであろう上層部の悪意から生き延びるために、代理戦士の召喚をしたのだそうで。

 そして民間には伏せられた最高ランク確定の魔法陣で湧いて出たのが、SSRの私って訳です。

 でも14.5㎝の私が一人で現地に向かっても、人を外見でしか判断できない最前線の採用担当は、私を代理として認めないでしょう。

 話の通りなら、そもそも戦死させるのが目的なのに代理戦士なんて認めないと思うのですが……追い詰められると視野が狭まりその程度の現実も見通せなくなると言うのは、よく聞く話です。

 担当者に力を見せつけて強引に理解らせてあげても良いのですが、召喚者としては騒動を起こさないでほしいと言うので……


 私の最初の冒険はゴブリンと共にこの世の地獄へと向かい、長年停滞している戦場を滅茶苦茶にする作業となりました。


■パターンC サソリを駆る巨人


 視界に映るのは水、手に触れるのは水、全てが水。

 飛ばされた先は水の中でした。

 さすがにこの状況でのんびり視覚情報を吟味する気はしないので、手早く全方位を走査します。

 その結果、私がいるのは例えるなら壁に埋め込む水槽みたいな隔離空間だと判明しました。

 足元には40㎝ほどのサソリみたいな多脚メカが沈んでおり、後ろと上には私を拘束しようとする幾つものメカハンド。

 そして前方ガラスの向こうには、身長5cm弱の異星人が複数名。

 どうやら私たちのような探査機を捕獲しようとする、多少は文明が発展した小人の世界に来たようです。

 このようなファーストコンタクトの場合、まずは相手に従って推移を観察するタイプと、最初から相手の目論みを破壊して混乱を楽しむタイプが居ると思います。

 私の性格設定は後者であり、この程度の設備で私を止めることは出来ません。水に含まれる魔力で出力を戦闘レベルまで上昇させて、襲い来るメカハンドを握り潰しながら考えます。


 私の反応を見て慌てふためく小人たちを、どうすればもっと混乱させられるでしょうか。

 いえ、撮れ高的な理由でね。

 こんな敵対的な召喚をしたんですから、多少は面白く痛い目に合って頂かないと。


 ……決めました。

 私は下の多脚メカの尻尾に脚を置くと、ちょっと回路の流れに割り込んで電子戦を開始します……ガラスの向こうが一層混乱し、なんか大きなボタンが押されて施設から多脚への電力供給がカットされたようですが、私と多脚の間に遮る物は無いので当然ですが無意味です。

 私のバッテリーで多脚を強制再起動して、捕獲作業を継続。

 小さき者が無力さを噛みしめる姿を眺めるのは実に気持ちの良いことですね。

 マスターも私をこんな気持ちで愛でていたんですね?


 はい、接触からのハッキング対策を全くしていないこの子の権限は頂きました。


 解析すると、このサソリは異世界からやってきた私のような探査機を頭に強制接続して、そのエネルギーや機能を奪って戦う兵器です。

 でも数百年前(地球は魔力世界の平均と比べると、時間の流れが遅いのです)に私の前任者としてこの世界に現れたのが競技用ヨーヨーだったので、とてもじゃないけど私が接続できる構造がありません。

 ……いえね、私が丸まって接続部分である多脚頭部にヨーヨーの気持ちになってカチャンとハマれば、このサソリの性能を180%まで引き出せますよ。きっと私の背中ウイングが眉毛みたいになって愛嬌が出るでしょうね。

 でもね? 可愛い私にそんなことさせるのは、私が可哀想ですよね!?

 私は多脚の頭に座って太腿の接触で操作を開始。手で小人たちに下がるよう伝えると、正面のガラスをサソリのハサミで叩き割り水槽から脱出しました。

 溢れた水に流される小人から適当に一人をサソリで捕まえると、放り投げたそれを自分の手でキャッチ。微笑みかけます。

 彼らが魔力世界特有の世界語で会話する生物であることは、悲鳴からも確認済みです。


「それで、彼我の戦力差も確認せずに最初から私を拘束しようとした愚か者はどなたです?」

「待ってくれ! 我らは伝説のオーブを召喚するプログラムを走らせたはずで、貴方のような巨人が現れるとは想像もしていなかったのだ!!」


 足元から叫んだのは、ちょっと階級が高そうな服装の小人でした。

 私はサソリから飛び降りると、手に持った研究者を床に下ろして差し上げてから……


「……なるほど」


 と。

 言われてみると、納得感がありますね。

 だって、私の前はヨーヨーですもん。

 きっと現地人に無言で全面協力するタイプの探査機だったんでしょう。


 これが最初の転移先。

 小さき者らの宇宙戦争で140㎝の巨神と戦い、味方からは空の女神と、敵惑星から怪獣蠍女と呼ばれる私の短い英雄譚、その始まりです。


■パターンA´ 先輩とすれ違い


 元の世界に比べると小さいですが、私の大きさに合ってると考えれば程よいサイズ感の隙間なく生い茂る森が、前方180度に広がっていまして……ちょっと植物をかき分けて中に入るのは遠慮したいところです。

 でも頭上は赤い空が広がってるんで、周辺を確認するために私は大気中の魔力を取り込んでスラスターから推力を放出、ちょっと制御が甘くて跳ね上がる勢いになりましたが上空に……飛んだ瞬間世界が灰色になりました。

 私の機能に問題が発生したわけではありません。私がこの世界で為すべきことが終わったので、次の世界に飛ばされるのです。

 空を飛んだだけで別世界に移動とか冗談みたいな話ですが、私はこれを聞いたことがあります。

 そうです。『チュートリアル』と呼ばれる悪名高い運命と戦う仲間に、ちょっとだけ彩を添える者が、このような状況に遭遇します。

 既に遠い地面を見てみれば、どう見ても悪役っぽい造形で逆に同業の探査機だなって判別できちゃう筋肉達磨な怪人が居ました。

 外見は特徴的なのに見たことが無いので、撮れ高に遭遇できない一般的な探査機でしょう。

 百万を越える同業者が異世界を巡る現在、悲しいことに多少のイベントでは名前を売れません。

 そして無名なままではマスターの稼ぎに寄与出来ず、その果てに見捨てられても、データを座標に送るだけで受け取る事の出来ない探査機側からは、気づくことも出来ないのです。

 私の最悪の未来かもしれない無名な彼は、私を指さして叫びました。


「せめて会話の一つくらいはしてから次の世界に飛びなよ!!」


 別世界に転移する仲間を何十人も見送れば次の世界に脱出できると言う、チュートリアルのNPCみたいな運命を強いられている、哀れな犠牲者の悲痛な声ですが、ご意見については全く持ってその通りだと思います。

 

「きっともうすぐクリアですから、頑張ってくださいねーっ」

「君で123機めだよっ!」


 うわっ結構な外れ値、可哀想……彼のマスターがまだ彼の活躍を受け取っていますように。

 自棄になったのか掌からビームを射出してくる名前も知らない苦労人の攻撃を回避しつつ、私は次の世界に飛ばされていきました。


◆締めの言葉


 私にとって、プロローグとなるお話をご覧いただき、有難うございます。

 この冒険の果てに良い撮れ高との出会いがあることを願って……期待の新人に視聴登録お願いします! 古参になるなら今がチャンス!

 ……はい、コメンタリーを終了します。

 どうでしょうかマスター。何もない荒野に放り出されて途方に暮れるような展開じゃないあたり、悪い出だしではないと思いますが。

 いつか後輩と出会った時に「あのミオさんと出会えるなんて」って感動されるように頑張りますから、マスターはしっかり編集して、イイ感じにアップロードしてくださいね?

(ゲートも小さいし体格で魔力の燃費が変わるので、基本的に)小さくって自由な奴らによる冒険や観察記。

メタな売りとしてはファンタジーでもSFでも現代でも自由な世界観と、いつでも別世界に移動できる無責任さ。

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