第84話
「惑わしの大砂丘と比べると環境は優しいけど……視界の悪さは段違いだね!」
木々に霞……10m先も碌に見えやしない。笛の音もずっと聞こえてきて鬱陶しいし。
視界の悪さ故、チェリモがフヨフヨ飛んでいってそのまま見失う可能性があるからライムに抱っこさせてる。私は採取したりするから手を空けておきたい。あとライムの方がチェリモの手綱握ってるからね……
(凄い精神面に来るダンジョンだなぁ……モンスターも奇襲してくるやつ多いし)
「シャァァァ!」
そうこんな風に。私は木の上から私に噛みつこうと飛びかかってきた10m越えの白いヘビ、コーマガイスト・パイソンを視界に収めながら思った。えっ、何を悠長に考えてるんだって?大丈夫……だってうちの子は優秀だからね。
「ドロォ」
「シャァァァ!」
コーマガイスト・パイソンの飛びかかりに対し、スチンが高圧水流を放つ。空中にいたコーマガイスト・パイソンは押されて地面に落ちる。
こいつは周囲の景色に同化し気配を希薄化させての不意打ちをしてくる。その隠密能力は今まで戦ってきたモンスターの中でもトップクラス……流石、幽霊って意味のガイストが名前に含まれているだけある。しかも牙には昏睡効果を持つ毒液を含んでいるから普通に厄介。
(コーマサップ・マンイーターよりも毒性が強いんだよね……まぁ、こいつは割と好きなモンスターではある)
見た目が良いんだよね。身体にユラユラと半透明のヒレみたいなのがついてて幻想的……あとこいつ浮遊できるんだよね。幽霊みたいに。
「シュルルルル……」
攻撃を邪魔されたコーマガイスト・パイソンは舌をチロチロと出してこっちを睨みつけてくる。そしてシュルシュルと移動して隠れようとする……だけど隠れさせるなんてことは絶対にさせない。
「メララララ!」
隠れようとするコーマガイスト・パイソンにアセロラの火炎放射が放たれる。コーマガイスト・パイソンは炎に包まれ炎上……美しいその姿を焦がし始める。
「シャァァァ!!」
炎に包まれたコーマガイスト・パイソンは怒りの咆哮と共に苦しみ始める。そして隠れるのをやめると燃えながらこっちへ猛烈な勢いで向かってくる。こいつ自分が死ぬと分かると道連れにしようと特攻してくるんだよね……今回はチェリモがターゲットにされてるけど。
「うちの子たちが安易と突破させるとでも?」
「ドロォ」
「メララ!」
特攻してきたコーマガイスト・パイソンをスチンの水の膜で防御し弾く。水の膜で炎上が消えてしまったコーマガイスト・パイソンだけどアセロラの火球が直撃し爆発。その命を散らして消えていった。
「こいつの素材は防具の強化に使えそうだからキープだね……」
大砂丘に比べてここは本当に素材の宝庫だよ……上薬草や魔力草が雑草感覚で生えてるし。その上位素材である特薬草や霊力草も手に入る。これは帰ったら早速栽培してもらおう。
「グルルルル……」
私が草毟りに勤しんでいると次のモンスターが現れた。今度のモンスターは薄水色のヒョウのモンスターであるミストアサシン・パンサー。身体に薄らと霧を纏い口からは長い2本の牙がチラリと覗いている……これヒョウというよりサーベルタイガーぽさを感じるね。
「ガァァァァ!」
ジリジリと間合いを測ってきていたミストアサシン・パンサーは後ろ足にグッと力を入れると、バネのように飛び出してきた。実に猫科の生物の動きだね……だから予想も付けやすい。
「メララ!」
真っ直ぐ突っ込んでくるミストアサシン・パンサーは哀れにも火炎放射の餌食となった。霧を纏っているから火炎放射の威力が下がってしまうけれど……霧程度の水分じゃあっという間に蒸発し切ってそのまま大炎上コース。
(正直、こいつが1番弱い……)
シードタンク・スクワロルの方が強いと思う。まぁ、うちは能力的に近接相手は強いからね……遠距離攻撃持ちは厳しいけども。
「ガァァァァ……」
「遠距離攻撃を持ってくるか、コーマガイスト・パイソンみたいに姿を隠して不意打ちするようになってから出てこい」
私は黒炭になっていくミストアサシン・パンサーを眺めていく。こいつ、素材も大して興味を惹かれるものないからね……全部売却してお金に変えるとしよう。
『個体名:チェリモのlvが一定値に達しました。進化が可能となりました』
あっ、チェリモが進化できるようになった。進化させたいけど安全地帯見つかってないんだよね……
「んー、砂漠と違ってここなら警戒してれば大丈夫かな?」
実を言うとレンシアの時、進化させずに経験値を稼いじゃって勿体無いなって思ってた。私はライムたちに周囲の警戒を指示してチェリモの進化先を手早く確認した。
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進化先
▶︎ハイエアロ・スライム
渦巻く風を纏ったスライム。纏った風は見た目の割に強力で矢などを弾き返す
飛行能力がより向上し殆どを空中で過ごす
高い山や崖などに生息しており、風刃や突風を武器にする
登山家の間で絶対に遭遇したくないモンスターの名前を挙げる際、10人に7人が名前を挙げる
▶︎ミストラル・スライム
冷たい霧を含んだ風を纏うスライム
霧を含んだ風は獲物の体力を奪い、火に対して強くなる
水属性と氷属性の片鱗があるが歴とした風属性のスライムであり、生息地である山などでは北風に乗って漂う姿が確認されている
なお、登山家の間では遭遇=死とされるほど危険度が高い
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ん?なんか特殊進化増えてる?特に何も与えてないんだけど……説明的には霧みたいだけど。
「霧……霞……もしかして漂ってる霞を食べてた?」
「ヒュウ!」
私の問いかけにチェリモは元気良く返事した。霞を含んだ風……この森は常にそれが吹いていた。それをずっと食べてたのか……そりゃ何にも反応しないわけだよ。ずっと食べてたんだから。
(正直、求める役割なら通常進化の方が良さそうだけど……ミストラル・スライムも良さげなんだよね)
スチンやプルーンと役割がかぶらなさそうだし……ミストラル・スライムに進化させてみるか。私はミストラル・スライムへと進化させた。
「ヒュウ♪」
進化したチェリモの見た目は本体は変わらず薄黄緑色。身体の周囲に纏っている渦巻く風に霧が含まれベールのようにユラユラと揺蕩っている。ステータスの方は……
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チェリモlv1/40
種族:ミストラルスライム(第2進化)
HP:50/50
MP:85/85
スキル
《悪食》《身軽》《飛行》
《霧風纏》
霧を含んだ風を纏う
纏った風は飛び道具や炎を防ぐ
《霧風弾》
霧を含んだ風の球を放つ
弾は飛距離が伸びるほど威力が下がる
《霧風刃》
霧を含んだ風の刃を放つ
刃は飛距離が伸びるほど大きくなるが
その分、威力と切れ味が下がる
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HP低めの紙装甲は変わらないなぁ……でもレンシアと違ってがっつり攻撃能力増えたね。距離減衰がどの程度なのか気になるけど……ちょっと試してもらうか。
「チェリモ。あの木に向けて攻撃してみて」
「ヒュウ!」
私はチェリモの攻撃距離がどの程度か把握するために実験をした。結果としては有効射程は最大で10mくらい。それより先は殺傷力が一気に下がった。
「ただ風圧での妨害はできそうなんだよね」
風圧によるノックバック。風弾は範囲は狭いけど威力はある。風刃の方は威力は弱いけど広範囲。攻撃役だけじゃなくて妨害役にもなれそう。テクニカルなタイプに育成してみるか……
「ヒュウ♪」
「その前にもうちょっと飛行を安定化させようね……まだちょっとフラついてるから」
チェリモの進化に満足し今後の育成も方針は決まった……明日は色彩の迷宮でレンシアと一緒に戦闘経験を積ませよう。
「なので安全地帯は何処ですか?」
帰りたいから早めに見つかってほしい。私は大砂丘の時と同じように安全地帯を探し回った。




