第83話
「やっと見つけた安全地帯……ここまで近づかないと見えないのか」
砂の丘の上から円形の柵が目に入った。柵には青い旗が掲げられていて風に吹かれている。あれが探していた安全地帯だね。
「あれからも地味にアースラプトルに襲われて物資が減ってきてたから……見つかって本当に良かった」
これ以上の戦闘を避けるために私たちはササっと安全地帯へ移動した。安全地帯の中は簡素なもので、中央にポータルの水晶がポツンと置かれ、日避けの革のテントがあるくらい。
「うーん、まぁ砂漠のど真ん中で無人ならこんなもんか」
なんで襲われないのかが不思議だね。とりあえずこれで帰れる……だけどその前に。
「レンシアの進化しちゃおうか。誰も居ないしね」
ここに来るまでの戦闘でlvは規定値まで上げることはできた……アースラプトルが怖過ぎて安全な所に来るまで進化できなかった。
「さて硬砂結晶の結果はどうなったかな?」
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進化先
▶︎ハイサンド・スライム
砂漠に生息する砂で構成されたスライム
より砂に溶け込んで隠れることに成長
砂を操ることで敵を攻撃する能力があるが、砂のため物量が少ないと威力が出ない
また操れる砂の量には限りがあり、大きい相手に対しては強く出れないこともある
▶︎サンドクリスタ・スライム
砂漠に生息する希少なスライム
砂への同化や砂の操作の他、砂の結合を強める能力を持つ
結合が強くなった砂は結晶のように硬くなり、武器や盾となる
身体を構成しているのは普通の砂だが、普通の砂と違いキラキラと光る砂も混じっているため
砂漠に住む者の間では遭遇すると幸運や金運を上げてくれる存在だと信じられている
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「サンドクリスタ……意味としては砂の結晶って感じだろうね」
硬砂結晶は砂の硬度が上がるか、一転して結晶のスライムになるか予想してたけど、まさかの砂の結合の方面に影響するとはね。ハイサンドの方と比べてもサンドクリスタの方が全てにおいて秀でてるね。よし、サンドクリスタに進化!
「スナァ」
「うん、そこまで大きな変化は無いね」
変化したところは身体の砂にキラキラと輝く砂がちょっぴり混ざったって感じ……砂に同化した時に目立たない?と思って試してもらったけど、身体のキラキラはどうやら同化すると無くなるようだった……良かった、隠密系で育成したかったからね。
「さて攻撃能力はどうなったかな?ステータスっと」
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レンシアlv1/40
種族:サンドクリスタ・スライム(第2進化)
HP:55/55
MP:75/75
スキル
《悪食》《物理耐性・Ⅱ》《砂擬態》
《消音移動》
《砂操作・Ⅰ》
自身の周囲にある砂を操作する
操作できる砂は自身の体積の10倍まで
砂が濡れたりすると操作できなくなる
《砂結合》
砂の粒同士を結合させ結晶化する
結晶化した砂は《砂操作》の対象になる
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んー……今回は普通に追加されただけか。攻撃手段は《砂操作》だろうけど……砂しか操れないってところがネックだね。湿地帯とか沼地は砂が無いし。
(武器用の砂を持ち歩くしかないかな?)
でも水気の多いところじゃなければ問題無さそう、森の土とか砂がある程度は混じってそうだし……雪原は知らん。あったとしても土ごとガチガチに凍りついてそう。
「んー、そうなるとレンシアは北と南には連れて行けないかな……」
まぁ、北はアセロラ居るし。南はレモンで大体相手できる……なので特に支障は無い。むしろ西なら無双できそう。ここは砂が腐る程あるからね。
「しばらくは砂の操作を練習しようか。それじゃあ帰ろ」
ステータス確認もできたから私はポータルでウエストリアンに帰った。戦闘チェックは……流石に第2進化であそこの敵は戦うには重過ぎるので今回はパス。チェリモが進化したらまとめてやろう。
「帰ったらメンバー変えてチェリモの番だね」
次は……東のフィールド行ってみようかな。そこ、チェリモに合いそうなフィールドなんだよね。
「あそこなら薬の素材も期待できそうだしね」
◇
ヒュゥゥゥン……ピュォォォォ……
薄緑色の木が生い茂った森に風が吹くと笛のような音があちこちから聞こえてくる。音は木の幹や枝にできた穴から鳴っているようで、薄らと発生している霧も相まって気味の悪さを感じさせてくるね……
「風笛の霞森。夜に来たらホラーだね」
ここも惑わしの大砂丘と同じくらい広いんだよね……安全地帯も勿論あるけれど、ここはシンプルに霞と木々で見えないな。
「クイラさんは良いよね。ここを飛んで超えていったんだから」
東に来たついでにクイラさんに会おうと思ったんだけど……牢番の人に聞いたらなんかこの先の町に向かったらしい。
どうもここでの依頼は達成したようで、せっかく東に来たなら次の町でも実験しようと飛んで行ったらしい……
なお話を聞いた時、牢番の人から「あの人の弟子ならもう爆発は勘弁してくれって言ってくれ、夜中もドカドカ鳴ってて寝れなかった」と言われてしまった。クイラさん夜中にも実験してたのか……
「近所迷惑過ぎる……」
結構牢に送られて反省させられてたっぽいしね……絶対次の町でも何かやらかしてそうで怖いな。てか家に帰らないのかな?結構放置してるよね?
「廃墟になってなきゃ良いけど……」
泥棒の心配は特にしてない。泥棒に入ろうものなら悲惨な目に遭うだろうからね……危険物があちこちに転がってるから。
(私が居た時は掃除してたけど、今は絶対散らかってるだろうなぁ……)
次会った時に鍵借りて掃除してこようかな。一応、これでも弟子だからね……ライムも掃除のしがいがあるから喜びそう。
って、そんなことはさておき探索しよ。今回はライム、スチン、アセロラ、メロン、チェリモがメンバー。ライム以外は総入れ替えした。珍しくメロンを連れて来たのは闘技大会に出すメンバーを決めるため。6匹って枠に誰を連れて行くか……優勝する気は無いけど負けるつもりも無いからね。
(やる気無しのメロンも置いとくだけで強いしね……)
《酒肉華の香り》と《暗黙華の香り》が強過ぎる。今は《暗黙華の香り》を発動中、流石に《酒肉華の香り》を初見の場所で使えない。何出てくるか分からないし……
「キキキ!」
「早速、モンスターが出てきたか……わっ、可愛い」
木の上からネズミっぽい鳴き声が聞こえたので見てみると、木の枝にどっしりと緑色のリスがいた。頬袋が膨らんでるから何か口に入れてるのかな?
なんか擬音が変だと思うけど……そのリスの大きさが枕ぐらいあるんだよ。流石にそのサイズじゃ『ちょこん』じゃなくて『どっしり』って表現が正しいでしょ?
「「「キキキ!」」」
「なんか増えたね」
私がリスを眺めていると更に2匹増えた。そしてリスたちは口の中から拳サイズで見た目が胡桃みたいな木の実を取り出すと、こっちに向けて勢いよく投げてきた。スチンがそれに対して水の膜を広げて防ぎ、木の実が地面に落ちるが……
パン!パン!パン!
地面に落ちた木の実が大きな音と共に破裂した。破裂した木の実の破片が周囲に飛び散って殺意の高さを肌で感じたね。若干、破片が顔を掠ったし……
「可愛い見た目して怖い攻撃してくるね……アセロラ」
「メララ!」
私が合図を出すとアセロラがリスたちに向けて手を向けた。そしてボウ!と火炎放射を放つ。
「「「キキキ!?」」」
リスたちは火達磨になってワタワタと慌てて木から落ちた。うーん、絵面が酷いなぁ……まぁ、殺そうとしてきた相手だから油断はしないけどね。
「木の方は水気が多いせいか火事にはならなさそうだね」
燃えたとしてもスチンで消火するだけなんだけど。そうこうしているうちにリスが焼けたようで光へと変わっていった。リスの名前はシードタンク・スクワロル。頬袋に色々な木の実を貯めて攻撃に利用するリス。素材は毛皮で興味は無い……だけどそれと一緒に木の実がいくつか手に入った。頬袋に溜め込んでたやつかな?
「風胡桃にフラッシュナッツ……それに悪臭の実か」
なんてものを頬袋に入れてるんだ……風胡桃はさっき投げられた木の実で殻の中に空気が圧縮されていて、衝撃を与えると破裂して種を撒き散らす木の実。フラッシュナッツは薄黄色の落花生でこっちも衝撃と共に弾けて閃光を放つ……
(さっき破裂した時そんなに衝撃加わって無かったよね?)
簡単に弾けるなら頬袋に溜め込めないだろうし。多分、シードタンク・スクワロルの能力かな?簡単な衝撃でも破裂させられるみたいな。もしくは頬袋に入れている間は破裂しないとか。個人的には前者が良いなぁ……そうじゃないと加工するとき使いにくい。
「風胡桃とか隔離実験室が壊れそう……」
あれ臭いの強い物を扱う用だからね。爆発物には使えない……風胡桃の処理方法は殻に穴を開けて空気を抜くって方法なんだけど、これ少しでも穴が大きいと破裂する。怖すぎて使いにくいなぁ……
「チェリモ。これ食べてみる?」
「ヒュウ?」
進化先に変化が出るかな?と思って見せてみたけど興味無し。ならこれは後で薬にできるか実験ということで……
「風属性……いまいちイメージを掴みにくいから進化先は普通になりそう」
まぁレモンやアセロラ、ルベリーは正当進化ルートだったから、そのルートでも別に構わないしね……ま、何か興味を示すものが出たら考えれば良いや。
「さーて、ここはどんなことが起こるかな?」
とりあえず安全地帯まで頑張ろう。私は霞がかかり不思議な音の響く森を進んで行った。




