第82話
「「「キシャァァァ!」」」
5体の砂色のサソリ、バンデッド・サンドスコーピオンが甲高い鳴き声を高らかに奏でる。鋭利なハサミをガチガチと鳴らし、三又の槍のような尻尾をジャラジャラと振る。
サンドスコーピオンたちは砂の上を素早く動きこっちへと向かってくる。
「レモン。広範囲放電」
「ビリリ!」
私の指示を聞きレモンは放射状に放電を放った。サンドスコーピオンたちは放電を受けて動きが止まる。その隙にルベリーが呪いの鎖で更に拘束、そのあとはボコボコにしていった。
「「「キシャァァァ……」」」
サンドスコーピオンたちは鎖から抜け出す前に光へと変わっていく。こいつらはサンドワームよりHP少なくて助かるね……その分素早いから油断はできないけども。
「おっ、欲しい素材が沢山手に入った。ラッキー」
飢餓猛毒液。猛毒と飢餓状態にする毒液をこいつらは落としてくれる。飢餓状態は満腹度の消費を加速させる状態異常で、この砂漠を攻略するのに満腹度管理は大事になる。それをガリガリと消耗させる飢餓状態は厄介な状態異常。
「これで飢餓対策薬作れそうだけど……猛毒邪魔なんだよねー」
飢餓と猛毒の2つに分離させないと使えない。液体分離機って設備があればできるんだけど……あれ凄い高いんだよね。50万はする。
お金が無い今、それを買うのは先のことになりそうだね。
「これはしばらくストレージに貯め込み確定……あとの素材は必要無いし売り払おう」
でも肉は取っておく。ライムの料理の材料用にね。人が食べれそうなものはまだ作れないんで、その練習材料に丁度良い。
ちなみに人が食べれなさそうっていうのはスライムの価値観的問題だね……《悪食》でなんでも食べれるからさ。食べ物と食べ物じゃない物の区別が薄い……
「人が食べれないものも食べれるから仕方ないんだろうけどね……」
あと味付けも大雑把。味覚が薄いのかそもそも無いのか、人間なら吐き出すような味付けでも平気で食べる……うん、前途多難だね。ケミカルになる私が言える立場じゃないけど。
「と、振動……サンドワームかな」
私は周りを見回して土埃の方向を確認……うわ、土埃が2個も立ってる。てことは……
「「ピルルルルルル!」」
2匹まとめてか……じゃあ片方を素早く落とそう。同時に相手するのはキツイからね。
「動きを止めたら右から片付けて」
わたしはライムたちに指示を出してサンドワームを迎え撃った。レモンの電撃で軽く足止めしルベリーの呪いで縛る。こいつの鱗は水分を含むと脆くなるみたいだから、ライムが浄化液をかけて柔らかくしプルーンとライムがボコボコに……うん、攻撃役もう1人欲しいな。結構削り切るのギリギリになる。私は指示を出しつつ、巻き込まれないようレンシアと避難だね。
「ピルルルルル……」
「よし、あともう1匹」
もう1匹の方もルベリーのMPを回復させてから同じ手順で片付けた。手に入った硬砂結晶は綺麗にしてからレンシアに与える。そろそろ10個は与えたかな?
(これで進化先に変化が出るかな?)
メロンも大体これくらいで影響が現れてたからね。進化までは……あとlvを8上げるだけか。ここのモンスターたちは経験値が多いから短時間で稼げるね。
「それにしても……安全地帯何処?」
結構進んだと思うんだけど……全然見つけられない。熱気と蜃気楼で上手く隠されてる感じかな……一応、迷わないようにコンパス持って来てるんだけどね。
「西に向かって真っ直ぐ進んでるんだけどね……どっかでズレたか?」
戦闘で動き回った時とかに……それでも遮る物の無い砂漠で見つからないなんてことあるかな?そんなことを思いつつ地図を見たけど……特に迷ってる感じはしないな。グニャってはいるけど真っ直ぐ進めてるし。
「まぁ、蜃気楼で見えないとしても近づけば流石に分かるはず……兎に角、西に向かって行けば見つかるでしょ」
私はコンパスを確認しながら更に西へと進んでいった。そろそろ休憩したいなぁ……暑さは良いとして直射日光で目が疲れる。次来る時はサングラスを買ってこよう……
ドドドドド……
「げっ、この音は……面倒なのが来たね」
私は地鳴りのような音を聞き苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。この音の主は厄介なんだよなぁ……
「キュイイイイ!」
イルカみたいな鳴き声と共に砂煙が見え始める。砂煙を巻き起こしているのは2足歩行の爬虫類……分かりやすくいうなら恐竜だった。
名前はデザートランナー・アースラプトル。砂漠を素早く駆け回り、鋭い鉤爪と牙で獲物を襲う……竜系のモンスター。要するにドラゴンだね。モンスターの系統の中でも上位の強さを誇る系統……そんなのが遂に敵として出てきた。
「キュイイイイ!」
「ちっ!タゲられた」
かなり離れた所に居たのにアースラプトルはこっちを見るな否や真っ直ぐ向かって来た。こいつは視力が良いから索敵範囲が広く、足が速いから狙われたら逃げられず戦うしかない。
「キュイイイイ!」
「ヒヤァ」
あっという間に近づいてきたアースラプトルの爪をプルーンの盾が受け止める。ガリガリと爪が盾を削る音が耳を襲う。今まで鉄壁の守りを誇っていたプルーンの盾をかき氷を作るように削ってくる……しかも。
「ビリリ!」
「キュイ!」
攻撃の隙を狙って放ったレモンの電撃をアースラプトルはパックジャンプで回避する。こいつ好戦的なのに危機感知能力も高くて中々動きを止められない。ルベリーの呪いの鎖も避けるんで出し惜しみしてしまう。避けられたらMPをごっそり持っていかれるだけだからね。なのでルベリーには呪いの歌でのデバフをしてもらう。
「ノロォ〜♪」
ルベリーの歌でアースラプトルの攻撃力が下がってプルーンの盾を削られにくくなった。アースラプトルは歌を止めるためかルベリーを狙おうとするがレモンとプルーンが邪魔をして狙わせない。
「キュイイイイ!」
イライラし始めたアースラプトルは爪や尻尾を振り回してレモンたちに攻撃していく。回避も少し雑になったため着実にダメージを重ねていく……そろそろかな。
「レンシア!お願い!」
「キュイ!?」
私がレンシアの名前を呼ぶとアースラプトルの足元の砂が動き、アースラプトルの足に纏わりついた。アースラプトルはバランスを崩して地面に倒れこむ。
「ビリリ!」
「ヒヤァ」
倒れたアースラプトルに電撃の鞭と氷の槍が叩き込まれる。アースラプトルは防御力は高くないからレモンとプルーンの攻撃は致命傷となり光へと変わっていく。ふぅ……なんとか被害少なめで倒せたね。
「スナァ」
「レンシアお疲れ」
私は地面からズズズと出てきたレンシアを労った。アースラプトルはここのモンスターの中でも小型だからレンシアも戦闘に参加している。足止めをしていたレモンとプルーンは実はレンシアが隠れているところに誘い込んでいたんだよね……流石のアースラプトルも最初から隠れているレンシアには中々気付けない。邪魔されてイライラしているなら尚更ね。
(攻撃は無理でもサポートはできる。こういうところで学ばせないとね)
ちなみに戦闘参加はさっきみたいに1匹の時だけだね……うん、実はアースラプトルって複数で出てくる時があるんだよね。そもそもラプトルって恐竜は群れを構成していることが多い恐竜だし。
「今のところ3匹以上は出たことないけど……2匹でも結構辛いんだけどね」
2匹の時はプルーンかレモンが囮として1匹引きつけてないといけなくて、色々とバフを限界まで盛っても苦戦しがち。
「まじでアースラプトルとの複数戦は勘弁してほしい……でも素材は美味しいんだよね」
曲がりなりに竜だからね。使わない爪や皮とかの素材も今までの素材の中でもトップクラス……素材の名前に砂走亜竜の〇〇って付いてるんだけど、亜竜って確かドラゴンのなり損ないとかドラゴンモドキとかに使われる言葉だよね?
(あれで亜竜なら本当の竜ってどんだけ強いの?)
ちなみに個人的に嬉しい素材は亜竜の血液って素材。これはエアリアル・モスキートの血袋の上位の素材として使えそうだからね……数揃えるのキツいなぁ。
「あれの乱獲とか……今は無理だね」
しかも数を集めるなら群れを叩かないと……苦戦している今とか夢物語も良いところだよ。
「今は強くなろう……そしてアースラプトルを乱獲してやろう」
まぁ、それよりも狩りやすい亜竜を探すのが良いのかもしれないけど……私はそんなことを考えつつ、安全地帯を探して砂漠を進み始めた。




