第79話
少し時が経ち文化祭前日の放課後、カジノの最終チェックを全員で行なっていた。えっ、色彩の迷宮の攻略はどうなったって?調薬設備が壊れてそれどころじゃなくなったよ……原因は新入りに良いところ見せようとしたレモンの過充電。バッテリーがお釈迦になった。
(まぁ、新しい大容量のやつにしようか考えてたからね……壊れるのはあれだったけど新調するのに良いタイミングだったかな?)
あとはついでに料理用の設備をいくつか買ったから、そのチェックをしたりして時間消えた。料理に関しては食材も用意したし本も用意した……私も1回試したんだけど。
(レシピ通りに作ったのになんかケミカルになったんだよね……何故?)
味もなんか変だったし。昔から何故か料理するとケミカルになる……特に変なことしてるつもり無いんだけどね。今頃ライムが楽しんでるかな。
私はゲームでのことを思い出しつつも最終チェックを進めていった。そして全部終わったかな?と思った時に桜に呼ばれ……思ってもなかったサプライズ、私にとってはハプニングを告げられた。
「ねぇ!?何この服!!?何も聞いてないんだけどー!!」
「ん〜。そりゃ言って無いからね〜」
カジノは特に衣装とか無く、各クラスで文化祭用に作るTシャツを着る予定……だったのが私の知らないうちに衣装が用意されることになった。衣装といってもバニーガールのような服は流石に公序良俗に反するとして無かったけど……ゴスロリとかのコスプレ衣装が用意されていた。
「折角の文化祭なのにただのクラスTシャツじゃつまらないでしょ?だから女子の間でコスプレしようって話になったんだ〜」
「私、何も知らないんだけど……」
「だって言ったら嫌がるでしょ〜?だからこっそり用意しました〜」
衣装のサイズはこの前の買い物で測っていたらしい。き、気づけなかった……確かに珍しく服のサイズ細かく聞いてくるな?とは思ったけどさ。
「ちなみに渚ちゃんも着るって言質を取りました〜。あとは心ちゃんだけだよ〜?1人だけクラスTシャツだと浮くかもよ〜?」
「うー、だからってこれは……」
私は渡された服を見る。それはシスター服……まぁ、コスプレ用だからかガチガチのシスター服じゃなくて、丈がちょっと長めのワンピースって感じで白いレースやフリルが付いてるタイプ。露出は当たり前だけど少なめ……だけどこれはダメでしょ!
「(リアバレしたらどうするの!?髪や目の色が違うだけで全体的な容姿は変わってないんだよ!?)」
「(大丈夫だって〜。当日は化粧もするし……服のデザインは違うからさ〜)」
その後も私と桜の押し問答は続いた。結果としてバレそうになったら裏方に引っ込めるし。化粧+金髪のカツラも追加で私が折れた……ここで折れないと今後面倒になる予感がしたし。
「てかこの衣装とかどうやって用意したの?」
「えっ?校長先生〜。むしろコスプレに関しては校長の案だよ〜?」
校長かい!確かにあの人なら言いそう……あの人、自分が学生の時に青春できなかったから文化祭とかの行事で自腹で色々してくれる。うちの校長ってなんか世界的に権威のある先生らしくて……副業禁止の公務員なのにお金持ちなんだよね。
「あっ、ちなみに衣装はそのままくれるって〜」
「いや、貰ったところでいつ着るの?」
「ハロウィンの時とか〜?」
ハロウィンって……渋谷に行く気は無いんだけど?そんなことを思っている間に最終チェック終了……帰ったらライムたちに癒されよ。てかクティアさんに呼ばれてんだよね……なんか呼び出しの手紙が来てた。
(そっちも嫌な予感しかしない……)
◇
「ココロちゃん。今度異邦人の間で闘技大会あるんでしょ?出てくれない?」
「はい?」
スライムの神殿でクティアさんと顔合わせてすぐ、クティアさんからの申し出を聞いた私は思考が停止しかけた。闘技大会……イベントのことだろうけど、なんでクティアさんが知ってるの?
「ちょっと前に全神殿が集まる会合があってね……そこで聞いたの」
「成程……でもなんで私が。私、戦う気ないんですけど」
私が理由を聞くとクティアさんが説明してくれた。私に参加して欲しい理由。それはスライムの強さを知らしめること。スライムの神殿がどれだけ強いかを他にプレイヤーたちに分からせるために参加してほしいらしい。
「実は船の制限をそろそろ解かなきゃいけないの……でも今のまま制限を無くすと前と何も変わらないでしょ?」
なら、どうするか?スライムの神殿に手を出す馬鹿が出てこないようにすれば良い。スライムの強さを分からせれば迂闊な真似をする馬鹿を少しは減らせるだろうという考えらしい……
「ショゴちゃんにお掃除させるのも面倒なのよねー……衛兵さん呼ぶの大変だし」
「衛兵隊も端っこの方に居ますからね」
電話とか無いから一々呼びに行かないといけない。ここ、そういう部分がちょっと面倒……
「あとねー。いくつかの神殿が喧嘩売ってきたのよ。『スライムなんて弱小がよく顔出せるな』って……」
ムカつくからショゴちゃんに潰させちゃうところだった。クティアさんは笑顔でそんなことを呟いてた……怖。
(喧嘩売ったのどこの神殿?)
神話が正しければ他の種族ってスライムのおかげで繁栄したんだよね?それなのに弱小って……罰が当たるじゃない?
「最近は強い=偉いって風潮強いのよね……元々、貴族に広がっていた考え方だったのに」
貴族出身の神官が増えた頃からそんなんだとか……その主流を神殿上層部はどうにかしたいらしいけど表立って行動できない。それをやると神殿同士のバランスが崩れてしまう。中央神殿を軸として纏まっているが神殿同士は対等……干渉するのは難しい。
「だからスライムが弱小じゃないって分からせてやるの……そうすれば弱小なんて言えなくなるでしょ」
クティアさんは滅茶苦茶黒い笑顔を浮かべた。怖過ぎて少し震えてたね……何処かの馬鹿な神殿は眠れる鬼を呼び起こしてしまったようだ。
(これ……絶対に断れないな……)
私の中から断るって選択肢は霧散した。断ったらどんな目に遭うか……怖くて想像もしたくない!
「出ますけど……種族型の方だとしても本戦行けるか分かりませんよ?」
「それは大丈夫よ。だってスライム使いとしてココロちゃんより強い異邦人なんて居ないでしょ?」
まぁ、スライムオンリーなんてことしてるの私くらいだろうし……本戦出れたとしてもガチ勢とやって勝てるかな?2回戦か3回戦まで行くのを目指すかな。優勝は無理だろうし……
(今日、厄日だな……)
リアルでもゲームでも……私は乾いた笑いが出そうになった。今日は早く寝よ……寝て現実逃避しよう。
戦う運命からは逃げられない……
ルールを考えた私のために主人公は犠牲になったのだ!
ハッハッハッ……あれ?ショゴさん何の用で……
作者は力尽きました




