第77話
「ふぅ……迎え入れるのに6日もかかるとは」
準備に時間かけ過ぎた……理由はシンプルに平日ログインできる時間が無かったこと。日曜日にリアルの方で桜に呼び出されてゲームができなかったことだね。
呼び出された理由は買い物に行くから一緒にどう?って感じ……ぶっちゃけ断っても良かったけど。断ると借しができて次に誘われた時に断りにくくなるんだよね……そしてそういう時に私が断りたくなる用事を当ててくる。
(桜は私に服を着させるようなことはあんまりしないしね……それにリアルの方も大事)
楽しかったしね。平日の方は文化祭関係でちょっと忙しかった。そういうわけで新しい子を迎えるのに時間がかかってしまった……まぁ、その分進化先をどうするかしっかり吟味できたし、そういった意味では期間が空いたのは良かったかも。
「それじゃあ早速のモンスターショップに向かおう。ご飯もちゃんと用意できてるしね」
行くの久しぶりだね。私はモンスターショップでスライムを見せてもらった。そして2匹の子をパートナーとして迎え入れた。
「これからよろしく。レンシア、チェリモ」
「……ピュキ」
「ピュキ!」
レンシアは土属性予定の子で名前の由来はバレンシアオレンジ。チェリモは風属性予定の子でこっちはチェリモアって果物が由来。どっちも色から名前をつけたね……土属性なら茶色では?と思うかもしれないけど、茶色よりオレンジ色の方がいいでしょ?
(それに色の問題はライムが既に違うからね……)
白色になってるからね……私はそんなことを思いつつ、パートナーにしたレンシアとチェリモを拠点へ連れ帰った。そしてライムたちと顔合わせさせた。全員と合わせるのは怖いのでグループ毎に分けて顔合わせした。
理由としてはレンシアがね……この子恥ずかしがり屋っぽくて。全員まとめて合わせるのはキャパ超えそうだったからやめといた。チェリモの方は風らしくお気楽主義な子だった。目を離してると何処かぽよぽよと跳ねていっちゃう……レモンとかアセロラと似たタイプ。いや、あの子たちは私の指示は聞くし勝手に移動しないか……もっと厄介なタイプじゃねぇか!
「メキュ」
「ヒヤァ」
「ノロォ」
私がチェリモの性格に心の中で頭を抱えている中、真面目組のライム、プルーン、ルベリーとの顔合わせは問題無く終わった。ルベリーがお姉ちゃん風吹かせてポンポンと撫でてたのは微笑ましかったね。次はのんびり組か……裏庭に居るかな?
「ドロォ……」
「プラァ……」
「ごめん。お昼寝してるところ悪いんだけど新しい子に挨拶してくれない?」
のんびり組も問題無く挨拶できた……ふぅ、次は問題児組か。レンシアのことちゃんと見とこ……あの子ら割とグイグイくるからね。
「ピュキ!ピュキ!」
「チェリモ。畑で跳ね回らないで……何も植えてないところだから良かった」
ワシッとチェリモを掴み私は娯楽室に移動した。レモンとアセロラはいつものように鬼ごっこして遊んでいた……見てていつも思うけど、下半身がスライムのせいで速度全然出てないんだよね。この子ら、うちの子の中でも早い方ではあるんだけど……そこは進化する前から変わってないね。
珍しく娯楽室に入ってきた私を見てレモンとアセロラは不思議そうな声を出した。しかし私の後ろに隠れているレンシアと、掴まれているのに何処かご機嫌なチェリモを見て新人が来たと理解したみたい。
「ビリリ!」
「メララ!」
「悪いけど今は遠慮して。まだ来たばかりだからね……チェリモは大丈夫そうな気はするけど」
レモンとアセロラが早速『遊ぼう遊ぼう』ってきたけど、一旦待ってもらう。未進化のスライムだとちょっと怖いし……せめて第1進化を迎えてから遊んであげて。
(てかレンシアはちょっと勘弁してあげて……ブルブル震えてるから)
最後の最後でキャパ超えちゃったみたい……レモンとアセロラを最後にしといて良かった。最初とかだったらその時点でキャパ超えてそうだったし。私はレンシアとチェリモを連れて娯楽室を出た……出た途端に部屋の中からドタバタ音が聞こえたのは聞かなかったことにしよう。ライムが後で叱ってくれるでしょ……私よりライムの方が叱られると怖いみたいだからね。
「さーて、それじゃあ初戦闘の前に進化に必要なご飯あげるね」
私はレンシアに砂。チェリモに渦巻く風のような見た目の植物を与えた。レンシアとチェリモで食べ物の差が大きくない?って思うかもだけど……これレンシアの方がマシなんだよ?
レンシアの目指す進化先はサンドスライム。砂の身体を持ったスライムで隠密性に優れたスライム。与えているのは吸音砂っていう音を小さくすることのできる砂で、建築素材として劇場などのレンガを作る時とかに使われてるらしい。
チェリモの進化先はエアロスライム。機動力に優れたスライムで浮遊することも可能。与えているのは風乗り草……リアルのタンブルウィードみたいな植物。常に強風が吹き荒れる場所で転がり続けながら成長し風属性を帯びるから風属性の進化に向き……というかこれぐらいしか無かった。
(他の候補は爆発したり、固体じゃなくて気体とかで与えるのが難しそうだったからね)
風属性のアイテム種類も少ないし、固形のものは高く需要が高いものばかり……風乗り草はその中でも比較的安価で需要も高くない。何せこの草、薔薇の棘よりもエゲツない棘が生えていて生半可な革手袋は貫通。これがある場所ではとんでもない速度で転げ回り天然のトラップになってる。雑草を超えて害草……殺人草だね。
(小さいやつですら棘が長くて食べやすく切るのが大変だった……)
砂の方は器に入れるだけだったのにね……切り取るのに手がズタボロになったよ。グサグサと棘が刺さった……
「あっ、そうだ。この後神殿に行かなきゃ……聖水の納品しなきゃだからね」
ついでにあのケンタウロス。あれのことも聞いてこようか……多分クティアさんなら何か知ってるはず。
「えーと、納品する聖水は……」
私はレンシアとチェリモの食事を見守りながら私は在庫確認をした……むっ、火の属性強化丸薬の在庫が危うい。売れるからって流し過ぎたか……材料も減ってきてるし集めに行くか。そこでレンシアたちのlv上げもしよう。
◇
「あー、あれねぇ……うん、知ってるわよ。あの門番のことは」
レンシアたちが食事を終えレベル上げ兼素材集めに行く前に聖水の納品をした私は、クティアさんにあのケンタウロスのことを聞いていた。私の想定通りクティアさんはあいつのことを知ってて情報を教えてくれた。
「あいつはヘルゲート・ガーディアンってモンスターで。アンデッド系でもかなり上位のモンスター……馬の胴体によって高い機動力を持ちながら槍によるリーチの長い攻撃を得意とする怪物」
上位の聖水じゃないと弱体化することも無く、向こうの攻撃には強力な呪いを纏っていてこっちも生半可な聖水では治療不可能。ついでに光以外の属性に対しては高い耐性を持っているため近接戦を迫られるという。
「100年前の悲劇の時から存在が確認されていて当時の近衛軍の半数を殲滅。神殿の精鋭も大半がやられてしまった……あれが居るから旧ノーステルマが監視で止まっているのよね」
町の奥に行かなければ襲われることもない。下手に手を出して大暴れされてしまえばどうなるか分からない……スワンプ・メガロドンみたいなもんか。
(あれと同じようなのが他にも居るんだね……)
他のフィールドとかにも居るのかな?とりあえずあれに手を出さなくて良かった……話聞いた限り勝てる未来が見えない。
「あっ、そうだ。旧ノーステルマでの報酬を取りに中央神殿から話来てるよ。後で寄ってみてね」
「分かりました」
私はクティアさんと別れ、拠点に戻ってメンバーを選出。中央神殿まで行き報酬を受け取ってから黒炭の荒野へと向かった。




