第76話
「「「カタカタカタ……」」」
「「「ヴォォォォ……」」」
氷のような骨でできたハイアイシクル・スケルトン。ガリガリで冷凍焼けしたような肌のハイフロスト・ゾンビ……寒冷地仕様となったアンデッドたちが路地裏やボロボロになった建物の中から這い出てくる。
アンデッドたちは手を伸ばしゆっくりとこっちに向かってきて……
「メキュ!」
「「「カタカタカタ……!?」」」
「「「ヴォォォォ……!?」」」
ライムの聖水を浴び苦しみ悶えていった。ジュゥゥゥ……という音を出して身体から白い煙のようなものを立ち昇らせた。そして苦しんでいる間にレモンにアセロラ、プルーンにサクッと片付けられていく。スチンとルベリーの役割は今のところ無いね。
「うん……アンデッドってところで察しはついてたよね」
アンデッドの弱点である聖水……その性質を持つ浄化液をほぼ無尽蔵に作り出せるライムは最大の天敵。普段は回復役で私と守られているライムだけどここでは最強になれる。
(普段浄化液は洗剤代わりだったからね……)
調薬設備の清掃とか、拠点の掃除とかね……モップ欲しがってたから買ってあげたんだけど……浄化液出しながら床磨いてたの見たとき唖然としたよね。聖水で家磨いてるよって……
「おかげで拠点ピカピカなんだけどね……」
私がログインしてない時、基本的に掃除してるっぽい。色々娯楽品とかあるんだけどね……最近だとルベリーとかプルーンも掃除に参加してるみたいだし。うちの拠点ってそこまで掃除するところある?もうピッカピカで若干眩しいんだよ……
(なんか家事が好きみたいだし……他のこともできるようにしてあげるか)
料理とかね。設備とかは調薬室の使えるし……でもスライムなんだよな。人みたいな見た目してるけど、食べてるの薬とか石とかよく分からない結晶。今更だけど客観的に見ると酷いな……良くこれで信頼稼げたな。かく言う私も主食飴玉だけども。今も舐めてるし。
「うーん、属性を含めば料理でもOKか」
属性持ちモンスターの素材を使えばいけるか……料理は管轄外過ぎて基本的なこと以外分からんけど。最悪本を買ってどうにかしよう。
「本読めばなんとかなる……」
脳筋のインテリみたいな思考をしつつ、私は指揮をして湧いてくるアンデッドたちを倒していく……
「キヒヒヒヒ……!」
「オォォォォ……!」
ハイアイシクル・スケルトンとハイフロスト・ゾンビを片付け終えると、今度は青白い幽霊と黒カビが生えたような白い鎧騎士が出てくる。
「キヒヒヒヒ……!」
「オォォォォ……!」
幽霊と鎧騎士はそれぞれ青い鬼火と半分に折れた剣を構えて向かってくる。殺意に満ち溢れたオーラを出しながら突撃してくる様子はパニックホラー感が強いけど……
「メキュ!」
「ギャァァァ……!?」
「オォォォォ……!?」
所詮はアンデッド。ライムの浄化液の前には襲うなんて遠い話。幽霊の方はなんかもう死にかけだし……もう既に死んでる存在だけども。
「ギャァァ……」
「あっ、死んだ」
苦しんでいた幽霊は呆気なく霧散。光になって消えてしまった……多分だけど幽霊って物理攻撃無効で、その分HPが物凄く少ないらしいんだよね。その少ないHPを浄化液が根こそぎ削り切った。幽霊が1番倒しやすいな……
「モンスター名はアイスダスト・スペクター。素材は氷幽霊のボロ布か」
氷のように冷たく透き通った布。ボロボロだけど数を集めれば防具の強化素材に丁度良いかもね。さて、残りは鎧騎士か。
「オォォォォ……!」
浄化液の怯みから復活した鎧騎士が再び向かってくる。狙いはライム……かなりヘイト稼いじゃったみたいだね。それに相対するのはプルーン、氷の槍と大盾で鎧騎士の前に立ちはだかった。
「オォォォォ……!」
「ヒヤァ……」
鎧騎士の振り下ろしをプルーンは氷の大盾で防ぐ。鎧騎士の剣は氷の大盾を砕くこともできず、返しでプルーンの槍が腹の部分に突き刺さって貫通していた。
「オ、オォォォォ……!」
普通の生物なら死んでもおかしくない致命傷。しかし鎧騎士は剣をガンガンと大盾に叩きつけていった。暴れるにつれ氷の槍に負担がかかってヒビが入っていった。槍は大盾に比べて耐久が低いからこのままだと持たないね……
「プルーン。そいつ奥に吹っ飛ばして」
「ヒヤァ」
私の指示を聞いたプルーンは氷の槍から手を離し、大盾で体当たりする。鎧騎士は氷の槍が突き刺さったままノックバックで後ろに飛んだ。
「オォォォォ……」
氷の槍が粉々に砕けて消える。鎧騎士の腹の部分に風穴が開いている。鎧の中身は何も無く、ただ空洞が広がっていた。成程、中身が無いのね……そりゃ腹を刺されても死なないわけだ。
「オォォォォ……!」
大きな穴ができていても鎧騎士は構わず向かってこようとした……が1歩こちらに足を踏み出す前に。
「ビリリ!」
「メララ!」
電撃の鞭と火炎の波が鎧騎士に襲いかかる。流石の鎧騎士も浄化液に身体を貫通する攻撃、そして電撃と炎の2連撃は耐えきれず地に倒れ伏した。そして光へ変わって消えていく……
「ふぅ、その辺のボスモンスターよりも厄介だったね」
浄化液で弱らせて腹に風穴開いても死なないとか、今度からは浄化液かけたらレモンとアセロラの攻撃を叩き込ませよう。
(モンスター名はスノーカース・リビングメイル……素材は呪蝕雪鎧の欠片か)
呪いに蝕まれた雪でできた鎧の欠片。あいつの鎧って雪の塊だったんだ……じゃあアセロラの攻撃だけで大丈夫か。次遭遇したら試してみよう。
「さーて、私のlvもあと少しで70になる……経験値美味しいし、ここで上げ切ろう」
ワラワラと出てきてくれるしね。私は這い出てくるアンデッドたちを見る。スノーカース・リビングメイルとの戦闘音で寄ってきたか……
「「「カタカタカタ……」」」
「「「ヴォォォォ……」」」
「皆、また片付けるよ」
私は皆に指示を出してアンデッドたちを片付けていった。このペースで寄ってこられると進みにくいなぁ……ペースを上げるにも結構強いし。
「とりあえず闇属性強化薬の素材だけでも見つけたい……」
とはいえこの町広いんだよね……人工物だらけで場所も探しにくい。こういう時は素材がありそうなところに向かうか……アンデッドが湧き出した地下墓地の近くとかね。
「確か地下墓地は町の北側だったかな」
今いるのは南側……反対側だからちょっと厄介だね。メインストリートを突っ切れば最短距離かな……その分敵も出てきそうだけど。経験値稼ぎだと思って頑張ろう。
「ま、初見の敵は少ないだろうし……油断しなければ大丈夫でしょ」
ライムの浄化液もあるしね。私たちは敵を倒しながら北へと向かった。
◇
北に進むにつれ町の壊れ具合は大きくなっていった。東と西は崖が壁になってたからアンデッドの進行時は南に向けて進行したはず……これ町の北側は瓦礫の山しか無さそうな気がする。と、そろそろ町の中心だね……
「ん?なんだ……黒い雪?」
ある程度町の中心に近づいたら空から黒い雪が降り始めた。黒い雪に触れると力が抜ける感覚がする……これ呪いの雪か。
「呪い対策の丸薬使おう……ルベリー以外の皆も飲んで」
ルベリー?あの子は雪を喜ぶ小学生みたいに喜んでるよ。私はハイカース・バタフライの素材で作った丸薬を飲みライムたちにも与えた。念の為に作っておいて良かった。
「後半は呪い対策必須ってところか……で、なんか周りすごいことになってきたね」
黒い雪が地面に積もり、建物の壁には黒い氷が張り付いている。張り付いた氷からは鋭い棘のような氷が生えてモヤを纏っている。なんか地獄に来たみたいになってる……奥に行けば行くほど棘氷が大きく量も増えてる。
「瓦礫の山じゃなくて棘氷の地獄が待ってそうだね……と、これは」
ふと地面を見た私は拳ほどの大きさの黒い氷の結晶を拾った。素材として回収できたので説明を見てみると名称は呪詛氷晶。呪いを含んだ雪が年月をかけて氷に変化。氷というよりも呪い……闇の結晶に近い物質。
「これが闇属性強化薬の素材かな……呪いの欠片みたいに霊結晶に変換できるかな?」
危険物じゃなさそうだから色々試せそうだね。さて、目的のものは見つけることはできた……ここで引き返しても良いけど中央だけでも見てこようかな。折角だしね。
(ここが町の中央か……)
何があるか分からないため私は建物の陰から中央部は円形の広場。中央には壊れた噴水の残骸があった。残骸には黒い氷がいくつも生えていてアート作品のようになっている。
北側の建物はほぼ全体が黒い氷に飲み込まれていて壁のよう……メインストリートのところだけトンネルのようになっていて、そこからアンデッドたちが出てくる感じなんだろうね……
(色々見て回りたいけど……なんかヤバそうなのがいるんだよなぁ……)
噴水の残骸の前。そこに見るからにヤバい雰囲気を放つモンスターが居た。見た目は黒い鎧を身に纏った半人半馬……ケンタウロスってやつかな?馬の身体は背中のところから黒い氷の棘が背鰭のように伸びていて攻撃的な見た目。人の部分はスタイリッシュな鎧姿で、手には細く長い薙刀のような槍を持っていた。
「…………」
放つ雰囲気はあれだね……スワンプ・メガロドンと同じ雰囲気。恐らく広場に踏み入ったら戦闘開始……そして呆気なく全滅するだろうなぁ。ライムが居ても無理そう。
「よし、引き返そう」
不必要なリスクは負う必要が無いからね。私はケンタウロスに見つからないように帰った。ちゃんと呪詛氷晶は回収できるだけ回収。lvの方も帰り道で倒したアンデッドたちで無事70になれた。いよいよ風と土の子を仲間にできる……
「色々準備しないと」
ご飯を何を与えるかとかね。とりあえず帰ったら本屋寄って料理について調べるか……私は帰るための狼煙を上げ、町に帰ったらやることを考えていった。
次回新パートナー参戦




