第69話
お昼を過ぎて、リアルの雑事も終わらせた私は蠱惑の湿地帯の攻略に乗り出した。ルベリーを置いてくるの大変だった……
(闇属性だからなのか執着が……病んでる?)
ルベリーって呪いのプロだし、めっちゃ怖かった。ヤバい……今になってちょっと震えてきた。
「何かお土産持って帰るか……メロンの分も」
メロンは濃縮誘惑香液で良いとして……ルベリーはなんだろう?呪いの欠片はいつもと変わらないし。そもそもお土産じゃない……
「メキュ……」
「ん?何、ライム?」
私が悩んでいるとライムがポンと肩を叩いてきた。そしてジェスチャーで何かを伝えてくる……えっ?ルベリーは帰ったら撫でてあげれば良い?
「ルベリーってそんなチョロいか?」
「メキュ」
いや『大丈夫』って……まぁ、ライムが言うならやってみるか。どちらにしろ早く帰らないとルベリーが不機嫌になるし、lvの暴力しますか。
「キィルルル!!」
「カロロロ……」
これまたお久しぶりのブッシュバグたちを蹴散らして進んでいく。こいつらとの戦闘はカットで良いね……今更説明することでもないし。
「キシャァァァ!!」
私がサクサク攻略しているのを防ごうとしたのか、ここの強敵枠であるアルーリング・マンティスが出てきた。私は誘惑消し丸薬をパクッと食べて予防しておく。
「キシャァァァ!」
アルーリング・マンティスは誘惑のモヤを放ちながら鎌を振り上げて向かってくる。レモンの電撃の鞭とアセロラの絞った火炎放射が迎撃で放たれるが、電撃の鞭は鎌で弾かれ火炎放射は羽を広げてホバリングすることで回避される。やっぱりこいつ戦闘能力高いな……だけどホバリングは隙が大きい。
「ヒヤァ」
「キシャァ!?」
地面へ降りようとしたアルーリング・マンティスの身体に氷柱が突き刺さる。着陸するところを狙い撃たれアルーリング・マンティスはバランスを崩した。そこに容赦無く電撃の鞭と火炎放射が放たれた。
「キ、キシャァァァ……!!」
アルーリング・マンティスの絶叫が響く。電撃の鞭を受けた部分は焼け焦げ、火炎放射の方は穴が空き煙をあげている。威力エグいな……でもアルーリング・マンティスはまだまだ戦意を滾らせている。虫系はそういうところが本当に面倒だな……恐怖が抜け落ちてるのか傷つこうが臆せず向かってくる。やっぱり頭を潰さないと長引くな……
「キシャァァァ!!」
その後、傷つこうが構わず向かってくるアルーリング・マンティスを頭を潰してなんとかトドメを刺した。周囲にかなり誘惑効果のモヤが撒き散らされてるな……他のプレイヤーいなくて助かった。
「まぁ、ここ人がそもそも来ないんだけど……」
他のところに比べたら少ない。絶対アルーリング・マンティスのせいだろうね。あいつの誘惑……王都横のフィールドにあっていい状態異常じゃない。王都来たてのプレイヤーが何も知らずに入ってきてトラウマかかえてそう。カマキリって結構怖い見た目だし。
「キシャァァァ!」
「そして割と居るというね」
素材集めの点では出てきやすいのは嬉しいけど……厄介なのが沢山はちょっと困る。
「今回は攻略目的だから頭を潰して手早く済ませようか」
「ビリリ!」
「メララ!」
虫は頭を潰して始末するに限る。アルーリング・マンティスの素材は金になるし薬の素材にもなる……経験値も美味しい。アンコウみたいに無駄が無いからね。
(対策ができて火力が安定したからできること……)
私は誘惑消し丸薬を時々服用しながらレモンとアセロラ、プルーンが戦っているのを見ていた。たまに流れ弾飛んできそうになるけどスチンが防御してくれるし、レモンたちのダメージはライムの治療で全快。
基本的にライムたちの自己判断で行動させてるから私要らないな……私がそんなことを思っている間も攻略は進んでいく。途中からアルーリング・マンティスしか来なくなってきた。
(他のモンスターたち逃げた?)
エアリアル・モスキートは抗体液の素材になるから戦いたいんだけども……今度来た時に集めればいいか。私は頭の中のメモ帳にエアリアル・モスキートの乱獲を書きんでいく……忘れないようにしないと。
『個体名:プルーンのlvが一定値に達しました。進化が可能となりました』
「あっ?あれ、もう進化?」
私が予定を忘れないように心がけていたらプルーンが進化可能になった。結構留守番させていたから経験値がまだ足りないと思ってたんだけど……もしかしてアルーリング・マンティスばっかりで経験値が稼げた?
「理由は分からないけど、進化ができるのはいいことだね。それじゃあ進化させようか」
今ならアルーリング・マンティスも襲ってこないはず。それでも手早く終わらせよう。
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進化先
▶︎アイシクル・スライム
氷点下を下回る極寒の凍結液のスライム
寒い洞窟に生息し、氷柱に擬態し獲物を待つ
触れるだけで水が凍り、長時間触れれば川を凍てつかせることができる
冷気や凍結液を利用した攻撃と防御を得意とし、生半可な火では溶かすことも叶わない
なお大型倉庫を1匹で冷凍庫に変えられるため、暑い町などでは食料保存で活躍している
▶︎グレイシア・スライムヒューマ
人に近づきたい、人になりたいと願った氷属性のスライムの進化先
主人に愛され、主人を深く信頼していないと進化先に現れない
人に近くなったことで氷の造形が洗練され、氷結能力と成形能力が強化された
人とモンスター。その境目に至る可能性をもつ
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グレイシアは確か氷河って意味だね。某ポケットなモンスターが好きで、その中でも進化先がいっぱいある子が好きだった友達が教えてくれた。
そんなことを思い出しつつ私はグレイシア・スライムヒューマを選択する。ちゃんとプルーンから許可は貰ってる。
「ヒヤァ……」
進化したプルーンはスチンと同じくらいの身長になった……胸は平坦だけども。なんかモデルっぽい。クールビューティーってやつ。
(ステータスの方は……ん?)
プルーンのステータスを見た私はちょっと困惑した。理由は……見て貰えば早いか。
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プルーンlv1/60
種族:グレイシア・スライムヒューマ
(第3進化)
HP:190/190
MP:110/110
スキル
《悪食》《物理耐性・Ⅳ》《氷無効》
《急速凍結液・Ⅴ》
空気に触れた途端に凍り始める液体を作り出す
濃度を濃くすれば塊に、薄くすればダイアモンドダストのようになる
《氷柱槍》
大きな氷の槍を作り出す
槍は硬く鋭く、生半可な装甲なら容易く貫く
敵を凍結させる効果がある
《氷河盾》
大きな氷の盾を作り出す
盾は硬く厚く、生半可な炎では溶かすことも叶わない
《守護》
味方を守る際、防御力を20%上昇させる
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スライムヒューマなのに近接型だね。しかも今までがオールマイティな感じだったのに防御寄りになってる。
(スチンと被ってる……って一見思えるけど。タイプが結構違う)
スチンの《水膜盾》は火や風などの遠距離攻撃には強い(雷属性は除く)。だけど純粋な物理攻撃は防ぐのはできない……盾といっても水だからね。
でもプルーンの《氷河盾》は氷の塊だから物理攻撃を受けることができる。そして何より、遠距離に偏りかけていたから近接型はちょっと嬉しい。
「次の戦闘でその力を見せてもらおうかな。頼むよプルーン」
「ヒヤァ」
これで残るはルベリーとメロンのみ……ルベリーは兎も角、メロンの進化どうしよう?下手なところに行くと死にかねない。
(まぁ、メロンは後回しでもいいか……本人は家でグータラしたいみたいだし)
メロンは新しい子たちのレベリングと並行しよう……決して地獄のモンスターラッシュが嫌な訳じゃないからね?私は誰に向けての弁明なのか分からない弁明をしつつ、プルーンの能力チェック相手を探した。




