第66話
ピュゥゥゥ……ゴロゴロ……ピシャァァン!!
吹き荒ぶ砂を含んだ風。時折響くように鳴る雷鳴に避雷針のように尖った岩に落ちる雷光……ここまで荒れているフィールドは初めてだね。
今回の編成はライム、レモン、アセロラ、プルーン、ルベリー……ここ難易度が高くてこの編成だと少し不安なんだけど、目当ての素材が手に入ったら帰るから問題無いでしょ。
「雷鳴の小砂漠……聞いてはいたけど凄い環境だね」
ここは次の町に行くためのフィールドじゃない、サブのフィールド……悦楽の沼地と似たような場所だね。大きな岩場に囲まれるようにできた砂漠で周囲の地形の影響で強い風が常に吹いており、巻き上げられた砂が上空で砂雲を生成。砂同士が擦れ合い雷を発生させている。
この砂漠内は年間を通して雷が発生しているから金属の鎧なんか着て進もうものなら……あっという間に焦げ焦げの肉になるだろうね。
(ここの砂が金属を含んでいるから雷が発生しやすいんだとか……)
そんな環境故、生息するのは雷属性のモンスターたち……雷属性の恐ろしさはレモンの強さで分かるね。特にうちのメイン盾であるスチンの防御貫通してくるのがヤバい。完全に受け切れるのは同じ雷属性か土属性……ということで。
「ここのモンスターの攻撃は頼むね。レモン」
「ビリリ」
レモンなら雷属性攻撃は《蓄電》で吸収できるからね。とはいえ物理攻撃は受けれないから、そこはプルーンに頼む感じで行こう。
砂漠の夜は冷えるというけど、夜に来たことで嫌な暑さは無くなってる。確かに寒いけれど北の雪原に比べれば控えめだし、最悪アセロラを抱えとけばOK。
ピシャァァン!!ゴロゴロ……
「にしても雷多いな……風も強くてちょっと困る」
雷は基本的に砂漠内に点在する鋭く尖った岩に落ちていく。岩の先は雷が落ち過ぎてなのか、薄ら青白く光っていた……そのおかげで明かりがあって探索しやすい。
そんな避雷針のような岩があるけども、そこに全ての雷が落ちるわけではない。岩に吸われずこっちに落ちてきた雷は……
「ビリリ!」
うちのレモンが受けて吸い取る。今回、レモンには町で買ってきた長い金属の棒を持たせてある。スライムは武器を使えないからただの金属の棒なんだけど……持たせておくと避雷針みたいに雷を誘導させられるからそこそこ安全に進める。町の人に聞いておいて良かった……
「チュゥゥゥ!」
私たちが雷に気をつけながら進んでいると黒い身体に黄色の稲妻のような模様のついたネズミが出てきた。ネズミといっても大型犬くらいの大きさあるけど。
「チュゥゥゥ!」
ネズミは口を開けて電撃の球を放ってきた。それなりに速かったけど、レモンが電撃の鞭で絡め取って吸収して無効化した。
「メララ!」
「ヒヤァ……」
攻撃後の隙を狙い、アセロラとプルーンがネズミに向けて攻撃を放つ。レモンの雷は無効だろうからね……しかし火炎放射と氷柱を食らってもネズミは倒れずにいた。
「思ったよりタフだね……ならこれ使おうか」
私が取り出すのは真っ赤な丸薬……火属性強化丸薬。予め作っておいたのだ……制作過程はバッサリカットだけども。だっていつもの如く砕いて混ぜて加熱してだからね。絵面がいつもと変わらない……
「アセロラ。ほいっ」
「メララララ!!」
火属性強化丸薬を飲み込んだアセロラは、力が上がった!って感じで身体を震わせた。そしてネズミに向けて火炎放射を放つ。その火炎放射はさっきよりも勢いが強く、激しく燃え上がっていた。
「チュゥゥゥ……!」
炎に飲み込まれたネズミは耐えることができずに火達磨となって倒れていった。ただこれ火属性強化薬の効果を実感し難いね……使う前にダメージ入ってたし。次の相手には丸薬で強化した攻撃を叩き込んでみるか。
「ネズミの名前はハイボルト・ラット……素材は皮と肉で骨は無いか」
実は今、私は獣系のモンスターの骨が欲しいんだよね。理由は液体の薬を作るため。
(前に依頼を受けた衛兵詰め所から指名依頼来たんだよね……丸薬と液体の薬両方で)
液体薬の注文理由は瀕死のパートナーに丸薬は飲ませにくいから。確かに丸薬って噛み砕いて飲み込むのに力が要るからね。気を失ってたり飲み込む力も無いと扱い難い……とはいえ液体の薬はライムの治療液で作るの難しいんだよね。方法は一応調べてはある……凝固防止剤って薬を混ぜればスライム素材の凝固を防げる。
(その凝固防止剤が面倒なんだけどね……)
凝固防止剤を混ぜる際、適量混ぜないと薬の効果が大きく下がってしまう。
店売りの凝固防止剤だと質が足りず、うちのライムの治療液は全て劣化してしまう……つまりはライムの治療液に合う凝固防止剤を自分の手で作らなくてはならない。正直言って普段の実験が生温く感じるね。
(基本素材は簡単なんだけど……幅が広過ぎて中々手が出せない)
凝固防止剤の素材は虫系モンスターの体液と獣系モンスターの骨を加工して作る骨髄の2つ。シンプルだけど組み合わせの幅は膨大……
幸い質が良過ぎて合わないとかは無いから虫の体液は色彩の迷宮。獣の骨髄はこのフィールドに出てくる獣系モンスターでやってみようと思ってる。両方とも現状行ける1番良い素材が手に入る場所だからね。
「ここは獣系モンスターが多いらしいから良い素材に期待」
素材を求めて前進開始。雷が相変わらず煩くいつこっちに落ちてくるか怖いけど、素材のためなら些細な問題……こっちには避雷針が居る。
「ポン!ポポン!」
ハイボルト・ラットの次に現れたのは尻尾に稲妻のマークがいくつも付いたタヌキのモンスター……鳴き声が凄い気になるな。この世界のタヌキってそう鳴くの?
「ポン!」
私がポカンっと鳴き声を不思議に思っていると、タヌキは尻尾をボワ!!っと大きく膨らませながらこっちに突撃し、バチバチと音を放っている尻尾を振ってきた。雷纏った物理攻撃……流石にプルーンじゃ受けられないね。下手するとボールみたいに飛んでいきそうだし。
「レモン。お願い」
「ビリ!」
レモンがタヌキの前に移動し攻撃を受けた。尻尾の威力自体はそこまでなかったが、バチバチバチ!!と派手な放電の音が鳴り響いた。これプルーンで受けてたら危なかったね。下手したらプルーンが死んでたかも……
「アセロラ。火炎放射」
「メララ!」
火属性強化丸薬の効果が残っている火炎放射がタヌキを飲み込む。やっぱり火属性強化丸薬は強いね……1.3倍まで頑張って上げて良かった。プレマでの売れ行きもかなり良かった……結構吹っ掛けた値段で出したのにすぐに完売したからね。新しいのはすぐには出さなくて良いかな……自分の使う分が減っちゃうし。
「導入した粉砕機の値段は回収できたしね」
そんなことを言いながら、私は丸焦げのタヌキが消えていくのを見る。結構見た目可愛かったから……ちょっと罪悪感を感じてきてる。
「んー、こいつも骨は無いか……尻尾が丸々入ってる」
ちなみにタヌキの名前はディスチャージ・ラクーン。訳すと放電タヌキ……名前のまんまの能力だったね。
「尻尾はクッションにすれば人気出そうだな……静電気バチバチになりそうってところに目を瞑れば」
次こそは骨が手に入るモンスターが出てきて欲しいなぁ……




