第64話
「暑い……プルーン冷たくて気持ちいい……」
「ヒヤァ……」
サンサンと日差しが照りつける荒野。西側の最初のフィールドである黒炭の荒野で私は暑さに悶えていた。
黒炭の荒野は炭のような黒い色をした地面と岩が広がり、枯れた植物があちこちにあるシンプルなフィールド。私からすると本当に旨味が少ないんだよね……枯れ草は薬にならないし。
「採取してもゴミとしか表示されないんだよね」
というわけで今回は目当ての属性強化素材のためにサクサク攻略していく。ここは淘汰の大森林と蠱惑の湿地帯に比べて狭いらしいしね……その分、自然環境が厳しいんだけども。
「プルーン居ないと長居なんてできないね……」
今回の編成はライム、レモン、スチン、プルーン、ルベリー。アセロラも連れて来たかったけど、ここの敵との相性的に止めておいた。だってここに出てくるのは……
「ゴブゥゥ……」
火属性のモンスターだからね。暑さにヒィヒィ言ってる私の前に現れたのは炎に包まれた黒い人型のモンスター。名前はスコーチゴブリン……生きながら燃えている可哀想なモンスター。
見た目の通り火属性は無効で、近づくと熱さでダメージを受ける……暑いところに火だるまのモンスターとか地獄かな?
「その分大きな弱点があるんだけどね……スチン、お願い」
「ドロォ」
スチンはスコーチゴブリンに向けて手を翳すと放水した。スコーチゴブリンの火が水で消されていく。
「ゴ、ゴブゥ……」
火が弱くなるとスコーチゴブリンが苦しみ弱っていく。スコーチゴブリンは黒焦げの身体ではなく炎が本体……だから水を浴びせられると一気にHPが削れてしまう。この地域は雨が滅多に降らないから生存できているモンスター。
一応、特殊進化のゴブリンではあるらしい……第2回イベントの時、デルタさんと雑談してたら教えてもらった。
(火属性ダメージを一定以上受けたゴブリンしかならないんだったかな)
発見した人どうやって見つけたんかね?そんなことを思っている間にスコーチゴブリンの炎が完全に鎮火し、黒焦げの身体が地面に倒れ伏して崩れて消えていった。
「倒すだけなら楽だね……他のもこうだと良いんだけど」
なお、スコーチゴブリンからは黒灰粉って素材が落ちる。これは薬の素材にはならないけど土に混ぜると良い肥料になる。メロンのお土産かな?そろそろ本格的に栽培を始めるし。
「集めときたいけど……暑いから長居したくないー……」
マジで暑いのは無理。アイスみたいに思考が溶ける……寒いところは寒いところで嫌いだけど。
(夏休み外出ないの暑いからだしね)
ちなみに夏休み明けの学校。マジで行きたくない……20分も歩くなんて嫌だー!道中にコンビニとか無いし。学校に着いても朝はエアコン効いてないから地獄。
(そんなこと考えてたらなんかメンタルにダメージが……ただでさえ暑くてキツいしリアルは一旦忘れよう)
未来のことは未来の私に任せる。私はぎゅっとプルーンを抱えて先に進んだ。じんわり凉しい……リアルで居てほしい。
「ゴブゥゥ……」
「ゴガァァ」
「ピィルルル!」
黒炭の荒野をプルーンの力を借りながら進む。スコーチゴブリン以外には石炭の甲羅を持つコークストータス。空を旋回し戦闘中に邪魔をしてくるカワードクロウが出てきた。
コークストータスはこっちから積極的に戦わなければ襲ってこないのでスルー。カワードクロウは鬱陶しいけど雑魚だから問題無し……というかカワードクロウは偶にそこそこの値段で売れる宝石を落とすから割と美味しい。イライラと釣り合わないけど……
「宝石といっても小さいクズ石だからね……てか先に進むほど暑さが増してるような?」
プルーンに冷気強くしてもらおう……これリアルだと汗で冷えて体調崩しかねないな。プルーンから目に見えるほど冷気出てるし。
「てかそろそろ目的の素材が出てくるはず……あっ、あれかな」
黒い岩の亀裂から見える赤色……近づけばそれは赤い結晶で、結晶内には炎のようなオレンジの煌めきがチラチラと見える。
これが今日の目当て……火属性強化薬の素材となる焼熱結晶。膨大な熱のエネルギーが時間をかけて結晶化……燃料として使えば拳ほどのサイズで鍛治用の大型炉を半年は燃やし続けさせられる。
(砕いても発火しないから加工はしやすい……硬いらしいから人力は地獄だけど)
属性強化薬以外の使い方だとインゴット作る時に混ぜて特殊な合金を作るだからね……武器や防具に使われるから硬いのは納得できる。帰ったら粉砕機買っとこ……そろそろ霊結晶を人力で砕きたくないし。地味に面倒だからさ……
「岩から出てるのはツルハシ使わないと取れないかな……ツルハシとか持ってきてないし、仕方ないから地面に落ちている欠片を拾おう」
それでも結構あるからね……火属性強化薬はかなりの売れ筋になるだろうし、しっかり数を確保しておかないと。
「ほんのり熱を放ってるからか、地味に暑さが厳しくなってくるね」
長居したくない……けど素材は欲しい。そんなジレンマを感じながらも私は頭にプルーンを乗せて黙々と採取し続けた。ある程度拾い終えたら次の結晶があるところに移動……次の場所には先客が居た。人ではなくモンスターだったけども。
「ガロロロロ……」
ゴリゴリと結晶を噛み砕いて咀嚼していた先客の見た目は黒い岩でできた怪物。見た目としてはトカゲみたいな感じ……でも身体の構成は全て岩石。これがここの強敵枠……ハイヒート・ロックビースト。
ゴーレムと同じ物質系統で石炭など燃焼する鉱石や熱を溜め込む鉱石を好んで食べ、それらから得た熱量を蓄積……活動や攻撃に転ずるモンスター。見た目がカッコいいため人気が高い……硬くてタンクとして役に立つからロックビーストが人気なのもあるしね。
「ガロロロロ……」
食事の邪魔をされたと思ったのかハイヒート・ロックビーストはゆっくりと振り向く。身体のあちこちからはボッ!ボッ!と火が噴き出している。
「ガロロロロ……ガァァァァ!」
ハイヒート・ロックビーストは口を開けると口からビームのように熱線を吐き出した。スチンが前に出て《水膜盾》を出して受ける。ジュワァァァ!と水が蒸発させ蒸気が大量に発生する。
「ドロォ……」
「とんでもない熱量だね……」
熱線の影響で盾を出していたスチンの手が消し飛んでいた。HPもそれなりに削られている……消し飛んだ手はすぐにポコポコと再生したけどね。《再生強化》をここで検証できるとは……
熱線を放ったハイヒート・ロックビーストの方は噴き出していた火が無くなり、全身からシュゥゥゥ……と音を立てて煙を出していた。流石にあの熱線ビームを連発はできないか。できたら強すぎるもんね。
「スチン。やり返してやって……レモンとプルーンもよろしく」
またあの熱線を撃たれるのは流石に面倒だからさっさとケリを付けることにする。こいつもスコーチゴブリンと同様に水に弱い……そこにレモンとプルーンの追撃が入れば熱線前には倒せる。ルベリーの呪いで動きを悪くしているし尚更ね。
「ガロロロ……」
中々にタフではあったけどハイヒート・ロックビーストを無事に倒せた。熱線以外は物理攻撃しか無く動きが遅いから……遠距離主体の私たちとは相性が悪かった。
「接近されてたらこっちが不利なんだけどね」
スチンの受けも万能ってわけじゃないしね……水だから雷とかは受けられないし。大質量の物理は受け切るのは難しい……とりあえずスチンには私が結晶を回収している間に治療を受けてもらってと。
(てかこれ、落ちてる結晶ってハイヒート・ロックビーストの食べこぼしなんじゃ……)
割と食べるの雑だったしね……まぁ物質系は排泄とかしないし、体液も無いから気にすることはないか。気分的にアレなところはあるけども。
「何度も来たくないから頑張ろ……」
私は汗を拭いながら苦行とも言える仕事を続けた。
Twitterでも言ったけども……
主人公の夏休みっていつだったけ?
うっかりメモするの忘れたからどこで書いたか捜索中……
まぁ、分からなかったらなんとかしよう




