第62話
色彩の迷宮。イスティリアの街外れにある枯れた大木の切り株の根元から入れる5階層のダンジョン。地下にできた森のような地形で迷路というよりパンケーキのように小さなフィールドが積み重なった感じ。
「光源はしっかりあるみたいだけど……なんというかサイケデリックな場所だね」
赤、黄色、オレンジ、紫、青……色んな色の絵の具をぶちまけたかのようなカラフルな場所。綺麗って感じはしなくて不気味さだけが凄い……ちょっと気持ち悪くなってきた。
(モンスターもエゲツないのが多いらしいしね……状態異常のオンパレード)
毒の上位の猛毒。麻痺の上位の硬直。睡眠の上位の昏睡……その他、石化を含めてエトセトラ。状態異常のバーゲンセールみたいになってる。
「殆ど持ってる薬じゃ防ぎ切れないなぁ……今回は地道に素材を集めていこう」
幸い、私以外は状態異常無効だしね。私は早速色彩の迷宮を探索し始めた。今回のメンバーはライム、レモン、スチン、アセロラ、ルベリー。プルーンも連れて来たかったけど、スチンをスライムヒューマにしたいから今回もお留守番。スチンがスライムヒューマになったら復帰してもらう。
「うわ、ベノムローズが群生してる……淘汰の大森林だとこんなに群生してないのに」
触れただけで毒になるベノムローズの群生とか怖すぎる……割と希少な素材だから集めるけど、猛毒対策の薬に使えそうだからね。
(普通の毒消しに混ぜると上手くいかなかったから……ここで合わせられる素材を見つけたいね)
私はある程度集めて移動する。今度はわさわさと実った悪臭の実が目に入った……あれはスルーしよう。見なかったことにしたいくらいだし。
「1個取ったら他のが落ちて地獄になるのが目に見える……」
せめてガスマスクみたいなアイテムを手に入れてからだね。私は悪臭の実の木から早足で離れる。と、その時。
「キシャァァァ!!」
色彩の迷宮初のモンスターが現れた。見た目はタランチュラ……胴体の部分には紫色のドクロマークが付いていた。うわー、見るからに毒持ちって感じ。
「キシャァァァ!!」
「ビリィィィィ!!」
威嚇するクモに対し、レモンも腕を振り上げて威嚇し返す。それに対してクモがまた威嚇しレモンもまた返した……何してんの?
「威嚇合戦してんじゃないよ……アセロラ焼いて」
「メララ!」
私はアセロラに焼却命令を出した。アセロラはボォォォと炎を吹き出してクモを燃やした。
「キシャァァァ!!?」
あっという間に火達磨になったクモはジタバタと転げ回り火を消そうとした。この感じだと火属性に相当弱いみたいだね。
「キシャァァァ……」
地面を転がり回って火を消したクモはボロボロになりながら起き上がろうとする。そこにアセロラの無慈悲な火炎放射が再び……今度は黒焦げの塊となってクモは死んでいった。
「ビリリ……」
「レモン。威嚇に威嚇を返すのは意味無いからね?今度からはすぐに攻撃を叩き込むように」
私は何故かしょんぼりしているレモンに注意を言いつつ、ストレージを開いてさっきのクモの名称と素材を確認した。
「モンスター名はデッドベノム・スパイダー……素材に猛毒袋があるね」
やっぱり毒持ちだったね。それも猛毒……これは中々面白そうな素材だね。デッドベノム・スパイダーは素材集めの対象にしよう。猛毒消し丸薬の素材にうってつけだからね。
「おっ、次は初めてみる素材だ……見た感じ麻痺関係かな?」
デッド・ベノムスパイダーの素材を確認し終え、移動した私の目に入ったのは黄色の実をいくつも付けたツル植物。実の部分に指を近づけてみるとパチパチと静電気みたいな刺激を感じた。
「レモン。これ毟り取って」
「ビリ!?」
「取ってくれたらさっきのことは忘れてあげる」
私はニコっと笑いながらレモンにそう言った。レモンはスッと手を伸ばして黄色の実を毟り取ったが、特に何か起きたりはしなかった。破裂して電気を撒き散らしたりするかな?って思ったんだけどね。
「素材名はスティフベリー……麻痺どころか硬直効果のある木の実か」
説明にとても甘く美味しいが、食べたら心臓発作で死ぬって書いてある……何これ怖!?下処理で100℃以上で20分以上茹でれば問題無く使えるみたいだけど……これ加工前にやらないとだね。薬の調合だと10分も加熱しないから、そんなにやったら丸薬にするどころかボソボソの何かになるし。
「加熱し過ぎても毒素が分解されるだけで、薬効効果は変わらない。まぁ、実験をして調節すれば……レモン?アセロラ?ルベリー?何食べてるの?」
「ビ、ビリ!?」
「メラ、ラ!?」
「ノ、ノロォ〜」
スティフベリーの説明を見終えた私が視線を戻すとレモンとアセロラ、そしてルベリーがスティフベリーを食べてた。大事な素材なんですけど?何勝手に食べてるのかな?
「スライムは悪食のおかげで危険物を食べても平気なのは分かってるけど……勝手に食べるんじゃないよ」
私はレモンの頬をムニッと引っ張る。アセロラとルベリーもモチモチと捏ねてお仕置きした。安全な場所じゃないからこれで済ませとく……帰ってから説教しよう。
「キィルルルルル!!」
ほらワチャワチャしてたから新しいモンスターが来ちゃったよ。見た目は黄色と黒の斑模様のムカデ。これは硬直持ちかな……あんまりムカデに麻痺要素って感じないんだけど?どっちかというと猛毒……
「キィルルルルル!!」
ムカデはさっきのクモとは違い、すぐに攻撃に移行して来た。滑るように近づき口に生えた太く鋭い牙で噛みつこうとしてくる。狙いは……私か。
「ビリリ!」
それを防ぐためか、挽回して説教を回避するためか電撃の鞭を振るった。しかしムカデの甲殻は電撃を受け流していき、まるで効果が無かった。こいつ、もしかして雷無効!?
「ビリ!?」
「キィルルルルル!!」
「ドロォ……!」
攻撃されたことでターゲットが移り、ムカデは攻撃が効いていなくて驚いているレモンへ噛みつこうとした。その間にスチンがヌルッと滑り込んで攻撃を受けた。ムカデの牙がスチンに突き立てられるが、逆にスチンが身体を変形させて頭に纏わり付く。
「キィルルルル!?」
ムカデは頭を振ってスチンを振り落とそうとする。その隙にアセロラがムカデの腹に体当たりをかました。火炎放射はスチンごと焼きかねない……
「ノロォ!」
更にルベリーが《束縛の呪い》と《弱体の呪い》をかけて弱らせていく。レモンの攻撃が効かないから泥試合だなぁ……レモンには他のモンスターが寄って来ないように見ててもらおう。
「キィルルルルル……ルルル!!」
「ドロォ!」
スチンはかなり粘っていたけれど遂に振り落とされた。ムカデはスチンに攻撃しても無駄だと理解したのか、次はアセロラに向けて突撃する。でもね……スチンが居ないならこれができるんだよ。
「メララララ!」
「キィルルルルル!」
アセロラが思いっきり放った火炎放射がムカデを包み込む。雷が効かないムカデも流石に火には耐性は無いようで派手に燃えてくれた。
「キィ、キィルルルル……」
地道に削っていた所を火で大きく削られたのがトドメとなり、ムカデはパタリと倒れて動きを止めた。ふぅ……地味に強敵だったね。
「無効持ちとか初めて戦った……アセロラ連れて来てて良かった」
うちの火力要員はレモンとアセロラ。その片方を止められるの実は結構キツイ。ライムは攻撃手段無し。プルーンとルベリー、メロンは攻撃手段としては弱かったり相手依存。プルーンはちゃんとした攻撃手段あるけど……他にできることが多いからか威力は低めなんだよね。
(残りの属性も然程攻撃能力高そうなの居ないんだよね……判明してない2つは兎も角)
強いていうなら風と金属?土はそこまで攻撃力無さそうだし。というか個人的には土と金属って被ってるよね?鉱物って定義だと石も鉄も鉱物ではあるし。かなり暴論だけども……
「てかムカデの素材確認しよ……名前はスタンラバー・センチピート。硬直毒とゴム質の甲殻を持つムカデか」
レモンの電気が効かなかったのはゴム甲殻っていう絶縁効果のある甲殻が原因か。これ触ってみた感じ柔軟性もあって使えそうだな。
「これ神官服の強化に使えそうだね……自分で手を加えていいのか知らないけど」
てか装備全然変えてないな。なんなら白衣も新しいの買ってないし……なんか服屋に行くの面倒になったんだよね。拠点から服屋まで遠いからさ。もうプレマで買っちゃおうか。
「そろそろ飴のストックも尽きそうだし……はー、お金が消える」
ここの素材が高く売れるといいな。私はそんなことを思いつつストレージを閉じ、探索を再開した。




