第59話
「ここに来るのも久しぶりだね……イベントを挟んだから尚更」
淘汰の大森林に入り私はそう呟いた。このビリビリと殺意を感じる……少し恐怖を感じるね。でも最後に来たときよりは感じる恐怖は薄い。
(イベント…とそれに湿地帯で得た経験のおかげかな)
戦闘経験を積んだことが自信になっている……あとはライムとレモンが進化したから苦戦しにくくはなったはず。
「グォォォォ!!」
「だからと言って、いきなりお前は聞いてない」
久しぶりの淘汰の大森林の初戦。相手はバトルスカー・グリズリー……大森林浅瀬で1番強いやつ。前までは隠れることしかできなかったけれど……
「物理攻撃のみのクマとか……アルーリング・マンティスと比べたらね」
「ビリリ!」
私がそう口に出すとレモンが両手を前に出した。両手の間を電流が繋がりバチバチ!と音を立てる。そして思いっきり電撃をバトルスカー・グリズリーへと解き放った。
「グォォ……!!?」
強烈な電撃をその身に浴び、バトルスカー・グリズリーは動きが硬直する。範囲を絞り威力を上げた電撃はかなり効いたようだね。
(それでも動きが硬直するだけで地面に倒れないか……)
雷に対して耐性があったか。進化する前だったら多分レジストされてたね……強化された電撃を硬直で耐えられたのはちょっと想定外。
「ま、動きが止まればこっちのもんだけど……」
「ビリリ!」
「メララ!」
硬直したバトルスカー・グリズリーにレモンとアセロラの攻撃が次々と襲いかかる。鞭のように振るわれる電撃と燃え盛る火炎放射を食らい苦しむ。反撃しようとするがレモンの電撃の鞭が動きを止めるため反撃できない。
「今回攻撃役がレモンとアセロラしか居なかったから封殺できて良かった」
今回の構成はライム、レモン、スチン、アセロラ、メロン。スチンは次のスライムヒューマ狙い、メロンは第2進化を目指す感じ。濃縮誘惑香液による特殊進化が気になるね。
「ルベリー待機させたけど……なんか悪寒が凄かったな」
なんというか……強い念を感じた。纏わりつくような感じの。アセロラみたいに駄々捏ねたりしなかったけど違う意味でヤバさを感じた。
(鳥肌凄い立ったな……って、バトルスカー・グリズリーが倒れたね)
「グォォォォ……」
レモンとアセロラにボコボコにされたバトルスカー・グリズリーは地に伏し光へ変わっていく……素材は毛皮と爪、あと肉。薬に使えそうなものは無さそう。
「ただ経験値は美味しい。素材も高値で売れそうだね」
その後、私は襲ってくるモンスターたちをレモンたちに任せ。少なくなってきたニトロペッパーなどの素材を採取していく……久しぶりに爆発を浴びたね。帰ったらニトロペッパーの処理しなきゃ……まとめて凍らせてもらうだけなんだけど。ただその前に……
「メロン。お願いね」
「プラァ……」
私はニトロペッパーをメロンに食べさせる。メロンは爆発させずにニトロペッパーを吸収した……これで家でニトロペッパーが栽培できるね。
(冷凍してあったやつは《種子作成》の対象外だったからね……)
あのスキル。詳しく調べたら未加工で採取してから1時間以内じゃないと種子にできない制約が隠されてた。テイマーギルドの資料室で調べたら書いてあった……気にして調べてなかったら素材をあと何回無駄にしていたことやら。
「他にもそういう隠れた情報が含まれているスキルありそう……」
疑問に思ったら調べるように心がけよう。にしても……
バチバチバチ!
ボオォォォォ!
「戦闘音が煩いな……」
元々淘汰の大森林は戦闘多めの場所。前まではできるだけ隠れてやり過ごしたりしてのを、今は隠れず向かってくるやつは倒していくになった結果。戦闘の音が鳴り止まない感じになった。レモンが遠距離型になってなかったらマズかったかも……
「ビリリリリ!」
「メララララ!」
「「「ウキィィィィ!?」」」
今もボーンモンキーが3匹電撃の鞭に打ちのめされたところを火炎放射が飲み込んでいった……若干、火事になりかけたところはスチンが消火したので問題は無い。
「レベリング目的ならこっちの方が良さそうだね……まぁ、湿地帯は素材採取で行くことになるだろうけど」
現状、西以外は素材は美味しい……西は一回も行ってないだけだけどね。だって西は荒野で植物少ないらしいし……でも属性強化薬のために行かないとなんだよね。暑いの嫌いなんだけども……
「まぁ、寒さよりはマシか……最悪プルーンを抱えておけばいいし」
そろそろ攻略も考えなきゃだしね。移動できる町を増やすのは素材回収の効率を良くすることに繋がるし……そろそろ夏休みが終わって長くログインできないからね。
私の高校は夏休みが始まるのが少し遅い代わりに終わるのが遅くて9月9日まである。今日が8月31日だから……今日含めてあと10日間か。あんまり時間無いね。
「てか、今日で淘汰の大森林を攻略しちゃうか……ファストロン帰りたくないし」
注目されるの面倒だしね。ここ来るまでに色々あったし……興味や欲を含んだ視線が鬱陶しかった。特に後者。
「ファストロン……新緑の森の素材はシンフォニアのお店で買えるし。クイラさんも帰ってきてないしで行く理由無いからね」
ということで私は次の町……イスティリアまで向かうことにした。採取の時間を減らせばログアウトする時間までには辿り着ける筈だからね……地図見ながらじゃないと迷うんだけど。
「シャァァァ!」
「ビィィィィ!」
「グォォォォ!」
襲ってくるモンスターたちはレモンとアセロラが片付ける……弱いモンスターはレモンの電撃で瀕死になりかけてるから、やっぱりスライムヒューマになってから強いね。
(ライムは……最近回復することが減ったからよく分からないな)
被弾する前に倒すことが増えたから……スチンは庇ったりしてHP減ったりはするんだけどね。今はレモンが暴れててスチンの出番が無い……
「ビリリリリリ!!」
「あれは力に酔ってるな……今は良いけどMPガンガン使ってるだろうし。それに攻撃することに変な思想持たれると厄介だからあとで注意しよ」
今は説教する時間無いしね。あとついでに何処までが限界なのか調べたい。私がそう思っている間もモンスターたちが電撃の餌食になっていく……スライムヒューマ怖。
『個体名:メロンのlvが一定値に達しました。進化が可能となりました』
おっ、メロン進化だ。やっぱりそこそこ強さの敵がそれなりの頻度で出てきてくれたからlv上げが手早く進んだね。あとは特殊な進化先があるかだけど……あったね。
ーーーーーー
進化先
▶︎チャームプラント・スライム
緑の身体に桃色の花を咲かせたスライム
花から魅了効果のある匂いを放ち獲物を誘き寄せ、罠で捕らえて養分に変える
とある地域では豊穣の化身と呼ばれ、別の地域では森の悪魔と呼ばれている
ーーーーーー
やっぱり魅了能力持ちのスライムに進化したね。ピンク色になるのかな?って思ってたけど、花が生えるのか……これはこれで初めての進化だね。
「プラァ……」
進化したメロンの姿は進化前の緑色のボディに桜に似た花がポツポツと咲いている。進化しても性格は相変わらずのようだけど……さてステータスはどうなったかな?
▽▽▽▽▽▽
メロンlv1/40
種族:チャームプラント・スライム(第2進化)
HP:70/70
MP:65/65
スキル
《悪食》《打撃耐性・Ⅱ》
《種子作成・Ⅲ》《光合成・Ⅱ》
《魅了の香り》
周囲に魅了効果のある匂いを放つ
匂いを嗅ぎ続けると魅了効果が強くなる
《罠作成・植物》
植物を利用したトラップを作る
《種子作成》で作れる植物を生成してトラップに組み込めるが、急成長させるため効果は下がる
△△△△△△
うっわ、思ったよりもスキル構成がガチだ。魅了効果の匂いで誘き寄せて罠に嵌める……ニトロペッパーやベノムローズとかのヤバい植物を《種子作成》に登録したから罠に使える。
(これ……スキルだけなら1番凶悪なんじゃ?)
本人があんまりやる気無いのが救いだね。これで性格が悪かったら……敵が悲惨だったね。
「ん?てか待って……この《魅了の香り》って任意発動とか書いて無くない?まさか……」
「「「ビィィィィィ!」」」
「「「ウキィィィィ!」」」
私が嫌な考えを思いついた途端、モンスターが今まで以上の勢いで襲ってきた。その狙いは……メロンだった。
「やっぱそうだよね!?」
私はメロンを抱え上げて急いでスチンの後ろに引っ込む。《魅了の香り》は常時発動型……要するにメロンが居る限りほぼ無限にモンスターが襲いかかってくる。ここで進化させたの失敗だね!
(さっさとボスのところまで行って町に行かないと……長期戦は本当にマズイ!)
私は予想外のことに慌てつつも、無事に切り抜けられるように頭を回していった。
◇
「ふぅ……ふぅ……な、なんとか辿り着けたね」
「メキュ……」
「ビリリ……」
「ドロォ……」
「メララ……」
「zzz……」
淘汰の大森林最奥。ボスが居ると思われる場所の近くで私たちは休憩していた。疲れた……
「あはは……私のlvが57まで上がってる。プレイヤーのlvはパートナーよりも上がりやすいけどさ」
また新しい子を仲間にできるね……疲れ過ぎて考える気力も無いけど。意図的では無いけど原因になったメロンが爆睡してるのにはちょっと腹立つけど。
「ここはボスの近くだからなのか休憩できるね……」
とりあえず全員にご飯をあげて休憩させよう……メロンは寝てるからいいや。元々ご飯より睡眠優先な子だからね……濃縮誘惑香液ぐらいだったかな?自分から興味を示したのは。
(新しいモンスターは出てこなかったけど……数が増えるだけで大変だった)
バトルスカー・グリズリー2体出てきた時は血の気が引いた。レモンが上手い具合に動きをコントロールしてくれてなんとかなった。
「まぁ、あれからは得られるもの多かったからいいか……それに目当ての素材も手に入ったし」
私はストレージから緑色の結晶を取り出した。これは森の琥珀……淘汰の大森林の樹液と植物属性の魔力が混ざって固まったもので植物属性の強化薬になる。奥の方まで来たら爪痕の付いた木から採取できた。
「ただ……植物属性って多分需要ないんだよね」
植物属性は特殊だからさ。植物系統のモンスターは素で植物属性だから、そういうので固めてる人には需要あるか。あと属性強化薬の練習としては良さそう。基本的に同じような素材を使うから。
(とりあえず50個作って流してみるか……と、そろそろボス倒しに行くか)
襲われにくいだけで長居してたら普通に襲われそうだしね……メロンは今後連れて行く時は注意しなきゃだね。私はそんなことを思いつつ全員に指示を出してボスのいる場所に向かった。
「ここっぽいね……」
辿り着いたのは中央に一際大きな木の生えた広場。広場を囲むように茨が生えていて逃げ出すことは許さないって感じだね。
ブブブブブ……
広場に踏み入ってしばらくすると上から羽音が聞こえてきた。上を見るとそこには自動車と同じくらいの大きいハチが飛んでいた。
姿はエナジービーに似ているけれど、6本ある足のうち頭に1番近い足はランスのような形状。尾針もランスのような太さでポタポタと紫色の液体を垂らしている。
「ビィィィィィ!!」
ハチは腕の槍と尾針をこっちに向けると突撃してくる。あれに刺されたら痛いじゃ済まなさそうだね……刺されればの話だけど。
「ビリリ!」
「ビィィィ!?」
真っ直ぐ突撃してきたハチはレモンの電撃の鞭で叩き落とされる。そしてそこからリンチが始まった。
「ビ、ビィィィ!!?」
ハチは起き上がり再び飛ぼうとするが、飛び上がる瞬間に電撃の鞭が入り動きを止める。動きが止まっている間はアセロラが攻撃。ちょっと疲れてストレスが溜まってるのか苛烈な一撃が叩き込まれてる。
「町に着いたら今日の残りは休みにしよう」
ちょっと働かせ過ぎたかも……どうせ午後は実験に時間を使いたかったからね。そんなことを思っているとハチがHPを削り切られ光へ変わっていった。あのボス色々悲惨だったね……
(他にも色々能力とかあったんだろうけどね……まぁ、それはハメ対策してない運営が悪いか)
さーて、それじゃイスティリアに向かおう。クイラさんはまだ居るのかな?私はボスのことを頭の片隅に追いやりながら町に向かった。
ボコボコにされちゃったボス情報
名前:コマンダー・エナジービー
能力
前足、尾針による猛毒攻撃
変則的な高速飛行による回避
エナジービーを2〜4体を呼ぶ
本来なら部下を呼び集団で襲うボス
今回、仲間を呼ぶことを許されず敗北した




