第57話
「メララララ!!」
「ブゥゥゥゥン……」
火炎放射に包まれたエアリアル・モスキートが地面へと墜ちる。やっぱり飛んでる虫は燃やすに限るね。ちなみに今日の編成はライム、レモン、アセロラ、プルーン、ルベリー……素材回収をある程度したいから汎用性のある感じ。
「血袋も良い感じに集まってきたね……まだ数にゆとりは無いけども」
抗体液。中々に使い勝手が良いんだよね……しかもライムの治療液と混ぜても効果が阻害し合うことは無い。ここ最近で手に入れた素材の中でトップクラスな素材……満足度が高い。
「キィルルルルル!」
「カロロロロ……!」
「次はブッシュバグとウォータージェット・ミリピートの混成か……ちょっと面倒な集団だね」
素材を効率良く集めるために少し深めに進んだら、複数種類の虫系モンスターが群れを作って出てくるようになった。まぁ、全員そこまで強くないから良いんだけど……レモンとアセロラで処理できるから。
「1番面倒なのは……こいつだしね」
「キシャァァァ!!」
群れを片付けた私たちの前に現れたのはピンク色のカマキリ……リアルで言うハナカマキリってやつに似てる。果物が発酵したかのような甘い匂いが漂い始め、鼻が痛くなってきた……
このカマキリの名前はアルーリング・マンティス……能力は魅了の上位である誘惑効果のある香りを放つというもの。誘惑は魅了よりも厄介で……治しにくいし、誘惑している側を攻撃しようとすると誘惑されている側が守ってくる。
(魅了の丸薬を限界まで飲んで、匂いを嗅がないようにすれば誘惑はある程度耐えられるけど……それ抜きに普通に強いんだよね)
元々カマキリって戦闘特化の身体をしているからね……参考までに他のプレイヤーが戦っていた様子を見たのを説明すると。
近接系のモンスターたちは誘惑状態にして鎌でズタズタ。飛行系はジャンプして叩き落とす。遠距離持ちは素早く距離を詰めて鎌で一振り……こいつがボスじゃないの本当におかしいと思う。
「キシャァァァ!」
カマキリは誘惑の香りを撒き散らして威嚇する。この時点で何の対策もしていないパーティーは壊滅してる……司令塔であるプレイヤーが魅了されたらほぼ詰みだし。モンスターだけでも治すのは現状困難。だけど……
「スライムは実質状態異常無効。私だけ気をつけていればOKだからね」
ある意味、私たちとは相性が良かったりする……他の面でもね。
「レモン、アセロラ、プルーン。やっちゃって」
「ビリリ!」
「メララ!」
「ヒヤァ」
私の指示を聞きレモンが突撃。アルーリング・マンティスは向かってくるレモンへと鎌を振り上げた。
「メララララ!」
「キシャァァ!?」
振り上げられた鎌目掛けてアセロラが火炎放射を浴びせる。アルーリング・マンティスは燃えた鎌をブンブンと振って火を消そうとする。アルーリング・マンティスはどうも火に弱いみたい……とはいえこれだけでは倒せないほどタフだからもっと攻撃を叩き込まないと。
「ビリリリリ!!」
「キシャァァァ!!」
バチバチと放電しながらレモンがアルーリング・マンティスへと跳ぶ。アルーリング・マンティスは鎮火を諦め、レモンの迎撃をしようとする。その瞬間、プルーンが放った氷柱がアルーリング・マンティスの顔を襲った。氷の欠片がキラキラと舞う。
「ビリリリリ!!」
「キシャァァァ!!!?」
氷柱を食らい動きが一瞬止まったところをレモンの放電タックルが叩き込まれる。大量の電撃を流されバチバチと煙を上げてアズールリング・マンティスは動きを止めた。
「キ、キシャァァ……」
「やっぱり死なないよね……レモン、アセロラ、プルーン。死ぬまで追撃で」
そんな無慈悲な命令を出しつつ、私は魅了の丸薬を飲んで追加した。時間測って使ってるんだけど……側から見ると薬物中毒者みたいに見られそうなんだよね。アルーリング・マンティス対策でほぼ限界まで飲んでおかないといけないんだけども……この丸薬、副作用があるから飲む量を気をつけないと。
『称号:オーバードーズを獲得しました』
私が薬を飲み込むと物騒な名前の称号が手に入った。なんとなく効果が分かるけど……確認しよう。
ーーーーーー
オーバードーズ
▷効果
副作用を持つ薬の服用時、副作用の確率を減少
副作用の影響を30%軽減
▷取得条件
副作用を持つ薬を限界まで服用
その状態を2時間以上、かつ副作用で死なない
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ゲームにヤバい奴認定されたような?でも効果は普通に有用だね……てか持ってる人多そう。
(あんまり自慢できないけどね……あと副作用は発生するみたいだし)
称号を得たとはいえ、服用の量には気をつけよう。私がそんなことを思っているとアルーリング・マンティスが力尽き光へと変わっていった。1回でも麻痺が入るとボコ殴りだからね……特に指示してなかったけどルベリーが呪いをかけてたみたいだし。
(呪いの扱いはルベリーに任せてるからね……私が指示するよりルベリーの意思に任せた方が強いし)
ルベリー、進化してから呪いの扱いが凄い的確になったんだよね。だからもう私は特に指示は出してない……面倒だしね。
「アルーリング・マンティスの素材は高めの値段だから嬉しいね……薬に使えるものも落ちるし」
濃縮誘惑香液とかね。これ下手に扱うと大惨事間違い無しだけど、絶対面白いものができそうだよね。悪臭の実とかの設備で実験できるし……今日の稼ぎによっては明日には実験できるかな?
(アルーリング・マンティス……あと1体くらい出ないかな?)
実のところそろそろ属性強化に必要な素材を採りに行きたい……色々と寄り道し過ぎたしね。メロンはやるべきことの1つではあったけども、畑全然手が出せない……
「種自体は用意できてるんだけどね……今は植木鉢で実験中」
スチンの水の効果をね。スチンの出す水は肥料にもなる……それだけで育てた場合と普通の水だけの場合、スチンの水と普通の水を半々の場合の3パターンで実験をしてる。メロンの園芸の練習にもなるしね。多分、植木鉢の近くで寝てるだろうけど……スチンも多分一緒に寝てる。
「のんびり組しか残ってないな……まぁ、レモンとアセロラだけよりはマシか」
絶対拠点の何処かが壊れてる。ストッパーが誰も居ないからね……買ったばかりの拠点を壊されたくない。
「進化したら落ち着きが少しは出ると良いんだけど……どっちか片方だけでも」
てかレモンはそろそろ進化するな……楽しみ半分怖さ半分だね。怖さの方は私の言うことを効くか……制御困難になると面倒。
「矯正するのも楽じゃないしね……(今のうちから少しやっとく?)」
「ビリ!?」
「メラ!?」
私がボソッと溢した言葉が聞こえたのかレモンとアセロラがビクッとしていた。何か思うところがあるなら直すように……
◇
『個体名:レモンのlvが一定値に達しました。進化が可能となりました』
「おっ、レモンが進化できるようになったね……流石アルーリング・マンティス。強い分経験値が美味しい」
通算4匹目のアルーリング・マンティスを倒したらレモンが規定レベルまで到達した。レベリングという点でもアルーリング・マンティスは良い糧になるね……強いから沢山出てこられるのは勘弁だけど。
「さーて、進化先はどんなかな?……危険なやつはありませんように」
ーーーーーー
進化先
▶︎ディスチャージ・スライム
強力な放電を放つスライム
蓄電量と発電量が格段に上昇し、広範囲へ強烈な電撃を撒き散らせる
また電圧を上げることにより電熱を発生、一時的に高温状態になることができる
▶︎サンダー・スライムヒューマ
人に近づきたい、人になりたいと願った雷属性のスライムの進化先
主人に愛され、主人を深く信頼していないと進化先に現れない
人に近くなったことで電圧と電流の細かい調整が可能になり、離れたところに電気を飛ばすことができるようになった
人とモンスター。その境目に至る可能性をもつ
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やっぱりあったかスライムヒューマ系統。これやっぱり条件緩そうだよね?だって私、普通に接したりしてるだけだし……強いていうなら1回も死なせたりしてないぐらいかな。
(選ぶのはサンダー・スライムヒューマ一択だね……ディスチャージ・スライムは旨味あんまり感じないし)
高温になるとか……アセロラができるしね。雷属性オンリーの人はありがたい能力なんだろうけどね。レモンにちゃんと確認してサンダー・スライムヒューマに進化で良いって返ってきたし、早速進化開始。
「ビリリリリ!」
グニャグニャと形が変化していき、ライムと同じような黄色の半人半スライムの姿になった。ライムと同じく私に若干似てる……身長は少し小柄だね……私よりもほんの少しだけ小さいみたい。
「ビリリ♪」
「あっ、ちょ……アババババ!!?」
私が進化したレモンの姿を見ていると進化の喜びを表すように抱きついてくる……制御がブレたのか軽く放電しながら。私はビリビリビリと感電する。
「メキュ!」
「ビリ!?」
私が口からヘンテコな悲鳴をあげているとライムがペシ!とレモンの頭を叩いた。レモンが両手で叩かれた頭を押さえたためなんとか脱出……助かった。
「メキュ!メキュメキュ!」
「ビ、ビリリ……」
私が痺れから復活しレモンを叱ろうと思ったら、既にライムに怒られてた。ライム……進化してから長女らしさが上がったんだよね。レモンたちライムの言うことは私と同じくらいよく聞くし。レモンとアセロラの元気組はたまに聞かないけど……
(ライムが叱ってるなら……私は叱らなくていいか)
今のうちにステータス確認しとこ。
▽▽▽▽▽▽
レモンlv1/60
種族:サンダー・スライムヒューマ(第3進化)
HP:150/150
MP:190/190
スキル
《悪食》《打撃耐性・Ⅲ》
《蓄電・Ⅴ》500/500
《自在放電》
《発電・Ⅲ》
MPを1消費し、電気を20生成する
生成した電気は《蓄電》にチャージされる
《放電制御》
放電の範囲を調整
範囲を減らして放電が届く距離を伸ばしたり
味方に当てないように操作することができる
△△△△△△
放電を操作……味方を巻き込みにくくなったみたいだね。てか進化して今までの体当たりが難しくなって遠距離の方に切り替わったみたいだね。
(一応、接近されれば放電でも可能……近接殺しだなこれ)
元々そんな感じだったけども。とりあえず進化した能力のチェックをしたいし……ライムの説教終わらせるか。
「ライム。お説教はもういいよ。レモンも反省しただろうし」
「メキュ……メキュ」
「ビリリ……」
私が一言かけるとライムはお説教をやめた。レモンも身に染みたのかシナシナになってる……まぁ、戦闘開始したら元に戻るんだろうけど。
(いつもそんな感じだし……)
私がそう思っているとレモンの能力確認のサンドバ……実験だ……モンスターが出てきてくれた。旨味の少ないブッシュバグとそこそこ美味しいウォータージェット・ミリピードが。
「キィルルルルル!」
「カロロロロ……」
「ビリリ!」
こっちへ向かってくる2体にレモンが手を向ける。手の先にパチパチと電気が溜まり始め……
ピシャン!!ピシャン!!
雷のような音を鳴らして電撃が線を引くようにブッシュバグとウォータージェット・ミリピードへと襲いかかる。8〜9mは離れているのに強烈な電撃を浴びせてる……かなり強いね。
(範囲を狭めると距離が伸びるだけじゃなくて威力も上がるみたい……結構テクニックが必要そうだから経験積ませないと)
「ビリリ!」
レモンは面白いのかピシャン!ピシャン!と電撃を撃ちまくっていく。ブッシュバグとウォータージェット・ミリピードは動くこともできずにそのまま的になり、光に変わるまで電撃が止むことはなかった。
(無慈悲……)
戦力アップに喜びを感じつつも一方的だった戦いに私はそんなことを思った。




