第56話
「ビリリリリリリ……」
「おー、どんどん充電されていってる……その調子でよろしくね」
「ビリリ!」
生産室の隅。寸胴のような円柱の物体に乗り放電しているレモンに声をかける。レモンは更に張り切って充電していった。
レモンが乗っているのはバッテリー……正式名称としては魔導蓄電器で、雷系のスキルで電気を溜めておける。ちなみにコレはその中でも1番安いやつで貯められる電気もそこまでじゃない。
「まさか遠心分離機が電気が無いと動かないとはね……」
この世界。建物が中世風で魔法があるから科学は発展していないと思いきや、ある程度は発展してるんだよね。しかも魔法と掛け合わせた魔法科学って感じで。
で、その魔法科学が使われている設備は雷系スキルを持つモンスターの力を借りて直通で流すか、蓄電器に電気を貯めて繋ぐことで使える。直通は電気を大量に流し過ぎると設備が壊れるから蓄電器買う方が良いらしい。掲示板チラッと確認したら爆発させた話がいくつもあったからね。レモンなら気合い入れ過ぎて過剰放電をやりかねない。
(充電終わるまで売る用の薬作ってよ……)
私は加熱機に燃料になる薪を入れる。そろそろ火加減も分かってきたしアセロラの力を借りようかな……そんなことを思いつつ鍋に材料を流し込んでいく。
「ライム。治療液お願い」
「メキュ」
ライムはドバッと手から治療液を鍋に入れていく。進化したからか一度に出せる量が一気に増え、おかげで大量生産がしやすくなった。
「ふぅ……やっぱりこの量を混ぜるの大変だね。混ぜるための機械買いたいけど……高いんだよね」
あとそれも電気が必要なんだけど……蓄電器からコード伸ばさないとダメそう。てか配線ちゃんと考えないとグチャグチャになって面倒なことになるから適当にできない。
「よし、こんなもんだね……そしたらバットに入れて」
私は大量に買ってある金属製のバットに煮詰めた薬をお玉で掬って入れていく。ライムがそれをテーブルの上に並べていってくれる。鍋の中身を全部移し終えたら冷めたやつから丸めてバットに並べていく。
「メキュ」
「ノロォ……」
この作業もライムが進化して手が生えたから手伝ってもらえるようになった……いや、本当に助かる。今後レモンたちの進化先スライムヒューマがあったら選びたくなるね。
あとルベリー。触手で頑張って丸めようとしてるけど、無理に頑張らなくていいんだからね?
「よーし、全部丸め終わった。あとは乾き切って瓶に入れるだけ」
丸薬を並べたバットを乾燥棚に置いて一先ず回復薬はOK。次は解毒の方を作るか……やっぱり一気に作れる分、効率的に作業できるね。
(まぁ、それでも面倒なのは変わりないけど……)
ちょっとコレからの商品をどうするか考えないと……大量生産は大事だけど安い薬だとコスパが悪い。今回の実験をしながら色々考えてみよ。
「ビリ」
「レモン充電ありがとうね。はい、帯電小石」
私は充電してくれたレモンにご褒美を渡した。レモンは帯電小石を頬張って生産室を出ていった……アセロラのとこに遊びに行ったかな?
「それじゃあ遠心分離機にコードを繋いでと……」
私はガチャガチャと遠心分離機に蓄電器からコードを繋げた。そうしたら試験管を用意する……今回はエアリアル・モスキートの血袋から取り出した血を分離させてみる。
「蓋をしっかりやってセット……スイッチオン」
警察ドラマとかで見るような機械のスイッチを入れるとブゥゥゥン……と音を立てて機械が動き出す。あとは待つだけ……この時間暇だな。分離に結構時間かかりそうだし。
「呪い対策の薬も並行してやっていこう。ライムちょっと浄化液頂戴」
「メキュ」
私はビーカーの中に浄化液を出してもらう。コレをベースに薬を作っていく……とりあえずは霊結晶を入れてみるか。私はゴリゴリと霊結晶を砕いて浄化液に入れ、熱を加えて丸薬にする。試作1号の出来は……
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浄化丸薬(危険)
強力な浄化効果を含んだ丸薬
ある程度の呪いや穢れを消し去ることができる
しかし浄化の力が強く、呪いを浄化する際に身体に強い副作用が生じる
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あら、コレはダメだね。浄化+浄化は良いと思ったけど……浄化が過剰になってる。これは色々と不味い。
「ノロォ……」
全身呪いの塊と言っても過言じゃないルベリーなんか、触れたらヤバいと思ってるのか距離を取ったからね。とりあえずこれは廃棄で……私は浄化丸薬をゴミ箱へ放り込む。
(しかし失敗とはいえ求めていたものには近かった……ここに一手間加えればいけそう)
失敗の原因は浄化同士をそのまま組み合わせたから……何か間に挟めばいい感じに調和が取れるじゃないかな?
「浄化……呪い……試してみるか」
私はストレージから新しい霊結晶と……呪いの欠片を取り出した。
「ノロォ」
「ルベリー。これは薬の素材だから食べちゃダメだよ」
「メキュ」
私は呪いの欠片に飛びつこうとしたルベリーをぺチ!っと叩く。全く……呪いの欠片を見るといつも食べようとする。食い意地張ったルベリーはライムが抱えて離れていった……しばらくそうしてて。
私は霊結晶と呪いの欠片を両方粉々にする。そしてそれを浄化液へ計りながら入れる。呪いの欠片を入れるのは浄化の効果の調整……酸性のものにアルカリ性のものを入れて中和するみたいな感じ。
(まずは霊結晶、呪いの欠片、浄化液を1:1:1の割合で入れてみよう)
うわっ!ビーカーからジュワ……って音がして泡が立ってる。なんか煙みたいなのも出てるし……一応、吸ったらマズイかもしれないから窓開けて換気しておこう。
「とりあえず煮詰めるか……吹きこぼれないよね?」
私は慎重にビーカーを加熱していく。爆発したりしないかヒヤヒヤしながら作業していき……丸薬が無事に完成する。
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浄化丸薬
呪いに対する浄化効果を含んだ丸薬
ある程度の呪いや穢れを消し去ることができる
僅かに含まれた呪いによって浄化効果が調整されており、身体への影響が抑えられている
しかし浄化が足りていないためそれなりに影響が生じる
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よし、上手くいった。あとは配合を調整するだけだね……そういえば何かを忘れてるような?まぁ、これやってれば思い出すでしょ。
「次は霊結晶の量を増やしてみよう」
私はちょこちょこと量を調整して丸薬を作っていった。試行錯誤の末、完璧な配分を導き出して完成させることができた。
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浄化丸薬
呪いに対する浄化効果を含んだ丸薬
中程度の呪いや穢れを消し去ることができる
あえて加えられた呪いによって浄化効果が調整されており、浄化による身体への悪影響は無い
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副作用を完全に排除できた。ただ汎用性は聖水より悪くはなったね……聖水はかければOKで密集していれば複数人で回復できる。
(まぁ……聖水は1回切りだけど、こっちは5回までは回復できるからね)
いつも通り1瓶5粒入りにする予定だからね。その点は聖水に勝ってるかな……とりあえずこれはもういいや。次は何の実験を……あっ。
「何を忘れてたか思い出した……血の分離どうなった?」
遠心分離機のことを完全に忘れてた。一応、分離終了すると止まるから回りっぱなしではないけれども……私は遠心分離機から血を入れていた試験管を取り出した。試験管の中には薄黄色の半透明な液体が入っていた。試験管の他に分離で沈んだ不純物があると思ったが、試験管の底には何も無かった。
「分離した赤血球とか……どこに消えた?」
遠心分離機って遠心力で液体に含まれているものを分離させる装置。分離させたものを消す機能は無いはずなんだけど……ゲームだからツッコまない方がいいのかな?とりあえずこの液体を見てみよう。
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抗体液
効果
様々な生物の血液の血漿液が混ざり合ったもの
毒などの状態異常に対しての抗体が多く含まれている
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血清みたいなものができたね。注射器無いから素材として使うしかないけれども……これは毒消し丸薬とかの強化に使おうか。
「どこまでの状態異常まで対応できるか……それも検証しよ」
これは実験のしがいがある素材だね……私はやる気に燃えながら抗体液の実験を始めた。結果としては毒や麻痺などの肉体系の状態異常なら使えるってことが判明。
しかもかなり強い毒でも問題無し……手持ちの素材が足りなくて検証できるのが少なくて辛い。
(これはエアリアル・モスキートは乱獲対象だね……面倒だけど)
次行く時はアセロラ連れて行くし何とかなるか……まとめて焼けばいいし。レベリングがてら集めよう。
「あっ、充電切れた……レモンにまた頼まないと」
次の設備は蓄電池のアップグレードだね……悪臭の実とかミストセンチピートの霧袋のための設備はその次って感じ。うーん、やることが多い……
(でもやることが多いって、それはそれで楽しいよね)
私は生産室を出てレモンを探しに行くがてらそんなことを思い浮かべた。




